2_12_四天王の継承
こんにちは。
「……聞こえました?」
「ん?」
俺の部屋で皆と一緒に今日の授業内容を復習していると、ソマリに唐突な質問をされた。
「何が?」
「ノックですよ」
「気付かなかった」
「私も」
「気のせいじゃねえの?」
「しっ……よく聞いてください」
皆で耳を澄ませてみると、たしかに聞こえる。
……コン…………コン……
聞こえてしまうと、もう耳から離れない。
何度も、何度も、何度も……
コン……コン…………コン……
ひとつ鳴るたび、その者が持つ執念すら感じられるかのような……
かろうじて抑圧された、焦がれているかのような音が……
なんども、何度も、ナンドモ……
「イヤアアァ!!」
「ビビりすぎだろ」
「怖い言い方しないでよ!」
マリが俺の枕を投げてくる。
やめろよな、それ気に入ってんだから。
「あ……行っちゃったみたいだよ」
ハイクの言葉で再び耳を澄ませば、
ぱたぱた……と走り去る音が聞こえる。
「なんだったんでしょうか」
「マリが叫ぶから驚いて逃げたんじゃね?」
「私が悪いの!?」
「それよりさ、マズいんじゃない?」
ハイクの一言を無理解な顔で受け止める4人。
それを見て苦笑しながらも追加で説明してくれた。
「ノックした人はさ、少なくともルイスの部屋って事を把握してると思う」
「んで?」
「用があって来たら、女子生徒の悲鳴が中から聞こえてきた」
「……つまり?」
「放っておくと変な誤解が広まるかもね」
一大事やんけ。
「捕まえろ! 生きて帰すな!」
「それ悪党の台詞だから!」
「念のためにマリさんは部屋に戻ってて」
「どうして?」
「誰かが事情を聞きに来ても、ずっと皆でマリさんの部屋に居ま」
「アリバイ工作してんじゃねえよ!! はよ行くぞ!」
転がるように部屋を飛び出し、左右を見渡すが誰もいない。
くそ、ハイクにツッコんでたら見失っちまった。
「どっちだ!」
「たぶん右」
「よし!」
走り去る音で判断していたらしいハイクの案内に従い赤い絨毯の敷かれた廊下を走っていくと、やがて階段まで到達する。
上か!? 下か!?
「手分けして探そうぜ。俺は下に行く」
「僕は上で」
「俺は下」
「じゃあ、俺が上だね」
手早く決めて、俺はラグと並んで階段を下りる。
何段も飛ばしながら階下に到着すると……いた!
2階の廊下を走っていく人影が見える。
あれは女子だな、スカート穿いてるし。
「待てやオラァ!!」
「ひっ……」
「ラグ! ガラ悪いって!」
余計に誤解するだろうが!
逃げる女子生徒がラグの恫喝を聞いて身を震わせ走るペースを上げたものの、すぐに足がもつれて転倒する。
「ッハハハ!! 覚悟しろやあ!!」
「お前わざと言ってんだろ!」
面白がってやがる! ソマリと組むべきだった……
そんな後悔をしている間にも距離は縮むが、
女子生徒は体を引きずるようにして近くの扉へ這っていく。
「助けてください! 開けてぇ!」
「誰も来ねえよ! 観念しやがれ!っへっへっへ」
「いい加減にしろ!!」
「うぼぁ」
さすがに目に余るのでラグを殴り飛ばす。
奇怪な声を上げつつ転がったバカを置いて、慎重に女子生徒へと歩み寄った。
「大丈夫、怖い人は倒したから落ち着いて」
「ぃやあ……」
「怖くない、怖くないから」
宥めようとしても、怯えていて話を聞いてくれる様子ではない。
どうすんだよ……
と、じりじり近寄っているところで廊下の向こう側からハイクが駆けてきた。
この短時間で回り込むって足速すぎだろ……あ、魔法使ったのか。
「大丈夫?」
「た、助けてください! あの人達が!」
ハイクへ飛びつくように助けを求めた女子生徒を、軽やかに受け止めてハイクが微笑む。
「怖かったんだね」
「うぅ……」
美味しいところを持っていかれた感はあるが、一応は落ち着いたのか。
よかっ……
「でも、ごめんね」
「ぇ」
「俺も仲間なんだ、あの人達の」
やってくれたよ。
「あ……ぁ……」
女子生徒はガクガク震えながら縋り付いていたハイクから後ずさり、絶望に染まった表情で再び近くの部屋に助けを求めている。
「助けて……たす、助け……」
「そこは生徒会の臨時会員が使っていた部屋だけど、もう誰も居ないよ」
「そんな……」
運がねえな……てか言い方っ!
追い詰めすぎだって!
ハイクも面白がってるな!?
「い、命だけは……」
「君が助かる道はただ一つ」
命乞いまで始めてしまった女子生徒に、ハイクは一拍置いて宣告した。
「何の用だったか、教えることだね」
「……へ?」
・・
・・・
「なんだぁ、勘違いだったんですね」
俺の部屋で花が咲くような笑顔を振りまいているのは、さきほどまで絶望に沈んでいた女子生徒だ。
名前はビューラ。
一般の新入生であり、生徒会寮の部屋を提供された元相談者らしい。
珍しいのかは分からないが、初めて見る桃色の髪は案外似合っている。
穏やかな顔に、ゆったりとした服装は慈愛を感じてしまうような印象だ。
リン以来の癒し成分配合女子と合間見える事が出来て、俺は内心で感動に打ち震えている。
ただ、女の子を部屋に招くのは少し躊躇うものがあった。
なぜなら俺の部屋は機能美、様式美、その他諸々を一切考慮しない家具配置だからだ。
というか、ほぼ転送された当時のままである。
配置変える時間と気力なんてなかったし、ラグも同じようなものだろうと思う。
他の皆は済ませているので、お客様を招いても恥ずかしくない内装となっているけど。
ならなぜ俺の部屋で復習なんてしてたんだ、と思うだろう。俺も思った。
が、夕食を済ませてから明後日の休みについて雑談しつつ部屋に戻っていたら、流れで俺の部屋が勉強場所となってしまったのだ。
そういうわけで……
「女子が来るなら部屋片付けとけばよかった……!」
「そうね。やっぱり第一印象って大事だもの」
おいマリ、そこツッコむところ。
「だって、私も女子ぃ!! って言ったら余計からかうでしょ?」
「まあな」
「だから乗ってあげないもんね~」
「ちっ、いらん知恵をつけやがって」
まあ、小賢しくなった脳内甘味畑は放っておいて本題に移ろう。
「それで、何の用だった?」
「あ、そうですね。このお手紙を持ってまいりました」
そう言って小さめのポーチから取り出したのは一通の手紙だった。
横からラグが覗き込んでくる。
「誰から?」
「……シャロンだ」
嫌味にならない程度の装飾が施された封筒だったから、まさかとは思ったけど……まさかのシャロンだった。
「なんでシャロンからの手紙を持ってるの?」
「食堂からの帰りで預かったんですよ」
聞けば、特に接点があるわけではなくて生徒会寮に戻るなら届けてほしいと頼まれたそうだ。
「じゃあ、読んでみるか」
「えぇ!? いいんですか?」
「は?」
ビューラが驚いたように口元を押さえているが、何か問題でもあるのか?
「お手紙ってことは、その……」
少し顔を赤らめている。
「え? 手紙ってそんな恥ずかしいモノだっけ?」
「そ、そうじゃなくて……恋、文……とか」
あー、そういう意味ね。
なるほどなるほど。
「絶対違うわよ」
「だな。有り得ん」
「ナイナイ」
釈然としないが俺も同じ意見だ。
まだ果たし状の方が可能性高い。
てことで躊躇う必要は皆無である。
早速読んでみると……
「……?」
なんか回りくどいってか、よく分からん言い回しが多くて分かりにくいな。
あっという間に降参してハイクに渡した。
「頼んだ」
「めんどい。ソマリお願い」
「はいはい……」
結局、ソマリが解読する事となったが1分もしない内に俺達へ告げる。
「思ったより進展ある内容でした」
「どんな?」
「ご意見箱の件ですが、この場ではやめておきましょう」
「そうだね。お客さんがいるし」
そういうわけでビューラへと向き直る。
ぽーっとした顔で俺達の様子を見ているが、どうしたんだろ?
まさかハイクに見蕩れているのだろうか。
「届けてくれてありがとな」
「へ? ……あ、いえいえ」
「他に用事とかある?」
「ありません……あ、お仕事の邪魔ですよね」
そんなことねえよ?
実際に仕事、ってなるのはクリストフ先輩に報告してからだと思う。
「別に急いで出て行かなくてもいいからさ、好きに寛いで」
「はぁ……ありがとうございます」
慌てて出て行こうとしたのを引き止めつつ、椅子の上に置いてあった荷物をどかせて勧める。
「まあ座ってくれよ」
「ちょっと! 私座ってたのに!」
おっと、荷物かと思ってたらマリだった。
「前から思うんだけど私の扱い酷くない!?」
「遠慮が無くなったのは確かだな」
「もうちょっと女の子として扱ってもいいと思うのよ」
「たとえば?」
「えっ……えーと……」
そこで詰まってっから駄目なんだよ。
「てかさ、そんな気遣われる仲って気まずくないか?」
「そう……かなぁ?」
「ルイスは女性に対して配慮が足りていない部分が多いよ」
ハイクが混ざってくる。
「どういうこった」
「今だってビューラさんを立たせっぱなしだね」
「あ……」
椅子を勧めようとしてたのにマリの相手しちまって、まだ座らせてなかった。
「お、お構いなく……」
「そうもいかないよ。ひとまず座ってもらえるかな?」
「はい」
遠慮がちではあるが座ってもらえた。
「で、こっからどうすんの?」
「まだ馴染めていないから気まずいと思う」
「ほうほう」
「ビューラさんは俺達が生徒会員って知ってるんだよね?」
「はい、知っています」
だから仕事の邪魔になるんじゃないか、って不安になったと。
俺は焦って出て行かなくてもいいと言っただけなので、なんの解決にもなっていなかったらしい。
「まずは自己紹介からだね」
ハイクから順に自己紹介を済ませていく。
全員の名前を覚えてはいないだろうけど、ひとまず区切りがついた感はあるな。
「で、仕事中だと思って萎縮しちゃったわけだから、訂正しておく」
シャロンからの手紙は生徒会活動に関係する内容だったが、今すぐ仕事に発展するわけじゃなくて、クリストフ先輩への報告と打ち合わせを先に済まさなければならない。
「てことで、今仕事してるわけじゃないから安心してね」
「は……はい」
「それより放置しちゃってゴメン。順序が違ってたよ」
「いえ、お気になさらず」
そっからはハイクがお茶を出して寛いでもらう。
お茶請けはマリが提供した菓子である。
その間、ビューラは俺の部屋を眺めていたが
あんま見ないでほしい。恥ずかしい。
「さて、無理に引き止める気はないけど、時間ある?」
「はい、大丈夫ですよ」
「それなら話を聞かせてもらいたいな」
学校生活を順調に送れているかどうか。
困っていることがないか。
「それって仕事に絡む話じゃね?」
「雑談のつもりでいいんだよ。そこまで細かく気にしなくていいから」
仕事中じゃないから仕事の話は一切出さない、なんて拘りは要らないらしい。
「相手が浮いちゃってるままで放置しなければね」
「誰かメモっといてくれ」
「それぐらい覚えろ」
「まあ、そういうわけだから話を聞かせてもらってもいいかな?」
「……はい」
それからはビューラの学校生活について話を聞いてみたが、特に問題は無いようだった。
座学は楽しいし、食事は美味しい。
実技授業は苦手だけど悩むほどではないそうだ。
「そういえば武術訓練で流派選んだ?」
我流組では見かけなかった気がする。
「はい。護宮流にしました」
王宮に勤める女中達が習得する流派のようだ。
有事の際は王家を守るため、たとえ家事だけの仕事であっても必須で習得しなければならないらしい。
「将来は王宮勤めを狙ってたり?」
「そこまで考えてはいませんが……そんな将来があれば、とは思います」
まあ、一般で既に将来決めてるほうが珍しいのかな。
「友達とか出来てる?」
「はい、少しずつですが」
「マリが友達いないから、よろしく頼む」
「いるわよ!」
シャロンだけだろ? って思ったが一般の友達がいるそうだ。
俺だってこの3日間で友達を作ってはいたから、マリも同じようにしてたのか。
「よろしくねビューラさん」
「よろしくお願いします、マリさん」
ともあれ少しは緊張も解けたようである。
「でさ、貴族と何かあったりした?」
「直球ですね」
ソマリが呟いたものの、俺は回りくどいの苦手だから仕方ない。
「特にはないです」
「僕達は中立の立場なので、何かあったら相談してください」
「分かりました」
それからも雑談していると、マリとビューラが服の話題で盛り上がり始めた。
やれ季節がどうだの、流行がこうだの……
「センス皆無の俺には敷居が高すぎる」
「そうやって距離取ろうとするから苦手なままなのよ」
「ルイスさんは、お好きな色はありますか?」
色か……
「特にないな」
「それではジャンルでお好みはありますか?」
ジャンル……?
「タイトな服だったりとか、革製が好きだったりする?」
タイト……?
「そ、それでは装飾品などは……」
装飾品って、腕輪とかのことか?
「何か意味あんの?」
「全体的にまとめたり、ワンポイントにしたり、使い道は多いですよ?」
「そっか。ん〜……どんな種類があるかも分からないしな」
てかワンポイントって何?
「……分かったわ」
マリが何か閃いたようだ。
「ルイスはセンスが無いんじゃなくて、興味がないのよ」
「そんなことは……ある」
「それじゃモテないのも納得ね」
モテないとか決め付けんなし!
「こいつ入学式で冒険者スタイルだったからな」
「思い出させんなよラグ!」
ちょっとした黒歴史なんだからさあ!
あれ恥ずかしかったわ〜。
「……うん、決めた!」
マリが今度は何か決めたようだ。
忙しい奴である。
「お休みの日は服を買いに行こ!」
「あっそ、行ってらっしゃい」
「ルイスも一緒に行くのっ!!」
「はぁ!?」
なんで貴重な休みを無駄にしなきゃならんのだ!
観光したい! ギルドとか見に行きたい!
「少しは身だしなみにも気をつけなさいよ」
「無難でいいだろ」
「顔は悪くないんだから、服装次第でモテるわよ?」
「別にモテたいって思ってるわけじゃねえし」
なんとか断ろうとしたが、マリは最終手段を用いてきた。
「奢るって話よね?」
「……まあな」
「いいの? 私が本気出したらルイスの財布なんて一瞬よ?」
「そこまで奢らないっつの」
無制限かよ、容赦ねえな。
「奢りの話はチャラにしてあげてもいいの」
だから代わりとして買い物に付き合え、と言ってきた。
はっきり言って、お断りしたい。
「仕方ないわね。それならルイスの服も私が買うから」
「いらない」
「ビューラさんも付いてくるのよ?」
なぬ!?
「ごめんなさい。明後日は用事があるので……」
「嘘つくなよマリ!!」
ちょっと気持ちが傾きそうだったじゃねえか!
「ふ~ん……私とのデートは嫌、って言いたいのね?」
「デートなん?」
「お休みの日に買い物したりするのはデートじゃないの?」
それは違うだろ、と思ったが何やらハイクが俺にアドバイスしてきた。
「まずさ、マリさんと二人で都を見て回るのを想像してみなよ」
「……?」
「ほら、目を閉じて想像してみて」
「おう……」
目を閉じて脳内に再生してみると、食い物両手に隣を歩くマリが浮かぶ。
周囲の店は飲食店ばかりだ。
「食道楽してるって感じだな」
「ちょっと!」
「リンさんと入れ替えてみて」
「!? ……おぉ!」
両手から食い物が消え、代わりに日傘が出現した。
周囲の店も花屋だったり喫茶店だったり、ちょいと小粋な感じがしてデートっぽい。
「デートだ! 俺っ……デートしてる!!」
「はい! そこでマリさんとチェンジ!」
「えぇ!? やだ!」
「いいから早く!」
「ぐっ……おぉぉ!」
背景が歪みそうになるのを辛うじてキープ!
あっぶねぇ、油断すると持っていかれそうだ。
横には大人しく日傘を持ったマリが……え、なんで二本持ってんの?
てか涎! 涎が……っ……お前まさか……
ああぁぁっ!! 日傘を食うな!
「こいつの食欲は底なしか!」
「ふざけるなぁ!」
「あぶぇ!?」
ぐおぉ……鳩尾はやめろよ……
「狙う、場所が……もう、女子じゃない……」
「まだ言うのね!」
「なんのっぼえ!?」
次は顎あたりを狙ってくると予想してガードを固めたのに、またもや鳩尾だった。
「お前な……ちっとは手加減を覚えろ」
「もう一発ほしいの?」
「やめて、これ以上は夕飯出てくる……」
「これでルイスは四天王から脱落だな」
「ただでさえ最弱でしたのにね」
うるせえよ!
ツッコミは避けちゃダメ、って世界のルールがあるんだっつの!
もう合計で30話超えてたんですね。
100話まで行ったら感動しそうです。




