2_10_実技授業 後半
前回のあらすじ・・・異流派と試合をする流れになった!
「それではこれより!! 異流派試合を始める!!」
ゴルマック先生の仕切りによって始まったのは、違う流派の生徒達で試合を行うという内容だった。
意図としては様々な型や技を持つ流派と試合して、経験を積んだり技を取り入れたりするのが目的だ。
もっとも、流派に師事する生徒達にとっては
異流派の技を取り入れると、元の流派の型が崩れたりするため容易に実行できるわけではない。
そもそもが学校へ入学するまでに付いていた師範に対して、許可を得ているわけでもないだろうし、他流派の技を取り入れる事はないだろう。
そういった点では気軽に構えられる我流の生徒達が、一番得るものは多いのだろうかと思う。
ともあれ、まずは誰と戦うかを決めなければならない。
そう思って、どうしようかな……と見回していると後ろから声を掛けられた。
「なあ、ルイス……だったか?」
「ん?」
振り返ると、小麦色の肌に青の瞳を持つ少年がいた。
背は俺より少し小さいものの、成長期なので追い越される可能性もあるだろう。
二枚目な雰囲気を纏っているが、同時にイケてない感も持ち合わせているので混沌とした普通さに落ち着いている……って何考えてんのか分からねえな俺。
たしか我流の生徒で棒術を使っていた気がする。
ゴルマック先生との模擬試合は即座に負けてて、思い切りのいい攻撃は間合いの有利を捨てかねないとアドバイスされていた。
かといって消極的では相手の打開策を待つ行為となるため、いかに自身の有利を手放さずに相手を追い詰めるかが肝となる。
そう締め括られてしまい、どうしたらいいのか頭を悩ませていたな。
で、そんな生徒から呼びかけられたわけだが……
「俺の名前はジャホースだ。よろしく」
「お、よろしく。俺はルイスって呼んでくれ」
「分かった。それで早速だが、俺と試合しないか?」
「え? 俺、我流だけど」
「そこは大丈夫だ。先生に聞いておいたから」
どうやら同じ流派や我流同士でも一応は試合可能らしく、このやり取りを見ていた我流の生徒達は対戦相手を即座に決めてしまった。
つまり、我流 対 我流 のオンパレードである。
「そういうわけだから、俺と試合してくれないか?」
「ん~……」
そんなに俺と戦いたいのか?
ハイクよりは弱いし、先生との模擬試合では
自爆してた感が否めない俺だけど……いいのか?
「てかさ、他の流派とか見てないだろ?」
しかも俺の動きは多少なりとも見ていたはずだ。
だったら多くを得るためにも流派組と試合したほうが良いんじゃないだろうか。
「そんな勇気は出ない」
「勇気? 物理軽減で思ったほど痛くないしさ、負けても恥ずかしくなんてねえよ?」
「そうじゃない。一般なら分かるだろう」
そう言って少し眉を顰めてしまう。
……あ、分かった。
貴族と試合するのが怖いのか。
怪我とかさせる以前に、打ち込むだけで不敬! とか言われかねないって思ってるんだろうな。
だったら俺としては助けてやりたい。
つまり不安を取り除くことだ。
「おう! じゃあ試合しようぜ!」
「助かる。では申請しに行こう」
「あいよ」
……本当なら俺が貴族と戦って、別に不敬とかならないし気にしなくていいから、って実演したかった。
けど、もう我流で対戦相手が決まっていないのは我流の生徒8人中で、目の前のジャホースだけだ。
断ったら貴族と戦う羽目になりかねない。
だが実演してすぐに貴族と戦え、ってのは些か厳しいだろう。
だから数日かけて馴染ませた方が良い。
そう考えれば、今は試合を断るわけにいかなかった。
まあ、幸いというかラグとハイクも我流組だし、1人が余った我流生徒の相手を受け持って、残りの2人が貴族……流派組と試合すればいいだろう。
明日から実行できるように相談しとかないとな。
・・
・・・
色々考えつつ生徒会員デキてるじゃん俺、って感慨に浸っていると、どうやら全員の対戦相手が決まり終わったらしい。
最初の試合はハイクと見知らぬ女子生徒だった。
そういえば昼休憩で申し込まれたんだっけか。
血気盛んな女子である。
「それでは……試合開始!!」
ゴルマック先生の合図と同時に振りかぶる女子生徒。
武器は薙刀か……リーチがあるな。
名乗ることも無く果敢に攻撃を繰り出すが、ハイクは素手で捌いている。
避けるか、前に詰めて刃の部分から外す動きだった。
女子生徒は前に詰められる度に下がって間合いを取り直すのだが、いつしか定められた試合の範囲ギリギリまで追い詰められてしまった。
「うっ……」
横へ移動しようとするも、その前にハイクの抜き放った一太刀が薙刀を持つ手の付近を打ちつけて、武器を落としてしまう。
小さい呻き声を出した女子生徒だったが、その直後には、もう1本の木剣が喉元に突きつけられていた。
「……参った」
降参により、ハイクが勝利を収める。
両者が立ち位置に戻って礼をすると、今度はマリとシャロンの試合だった。
ってかマリ……大丈夫かよ。
そんな俺の心配は的中というか、同じ流派且つ細剣同士での勝負だったのだが、やはり鍛錬の年月が違う。マリは初日だしな。
前へ移動しようとしたマリの足捌きは型など度外視の動きであり、その隙を縫って左胸へと細剣の切っ先が突きつけられる。
「殺さないでぇ!」
「人聞きが悪いわね」
試合に命を賭けていたらしいマリの命乞いにより勝負は即座に決し、続く試合も早めに消化されていく。
見ていると、打つんじゃなくて急所へ突きつけて降参させるのが主流のようだ。
実戦では寸止めなんて使う場面が少ないものの、貴族などは実戦と縁が薄いだろうから問題ないのかな。
そうこうする内にラグの番である。対戦相手は……
「よろしくお願いします」
「しあっす」
なんとソマリだった。
飛天突蜂流とかいう流派に師事していたソマリだったが、なぜラグと試合をするのか。
「ソマリに自信を持たせるためだよ」
「お、ハイクか」
ふと横に並び立ったハイクが説明してくれた。
聞けば、意図せず選んでしまった流派だろうから落ち込んでいるかもしれない、と懸念したらしい。
門下生というか、師事する生徒もソマリだけだったしな。
本人は僕1人だから濃密な鍛錬が出来る、って強がったらしいが、どうせなら流派自体に自信を持ってもらおうという結論に至ったそうだ。
そのためラグが技の実験体になって飛天突蜂流の力というのを実感させる、という流れになったとさ。
「でもさ、初日で技とか教えてもらえんの?」
「そういう方針らしいよ」
いつの間にか収集したらしい情報によると、真っ先に技を1つ教えて興味を持ってもらう。
で、そこで食いついたなら次の技を餌にして、型の会得やら門下生としての自覚定着を促していくそうだ。
「色々考えてんだな」
「名門が選ぶような流派なら技の会得は3年目以降、とかだけどね」
「それでも頑張るぐらいの知名度はあるのか」
「そ。頑なに基礎から教え込もうとしても、実績なければ不安になるもんだよ」
経営難の流派なら、そこらへんを考えるとこも多いらしい。
もちろん基礎からしか教えない、と頑張るところだってあるが、それは流派次第だろうな。
てことで、既に技を1つ教えてもらったらしいソマリである。
「試合開始!!」
合図と共にソマリが攻撃を繰り出す。
手に持つ武器は長めの槍なのだが、三連突きを放った。
まだ慣れていないのか鋭い突きではなかったものの、ラグは技を受ける立場に終始するようなので回避に専念している。
「へいへいどうした! そんなもんか!?」
「うるさいですね」
突きを避けきったラグが挑発するが、ソマリは構わず基本的な動きで攻め続ける。
振り払い、足払い、石突での突き……
ある程度は流れるような動作で繋げているため、ラグも黙って回避し始めたが余裕はあるみたいだな。
だが、唐突にソマリが踏み込んだ。
「はぁっ!!」
刃ではなく柄の部分で薙ぎ払う一撃だ。
リーチが長いため、屈むか受けるかしないと対処できない。
「なんの!」
ラグは受ける判断なようで、片腕で防ぎつつ、念のために残りの腕も支えにした。
しかし、それがソマリの狙いだったらしい。
両腕で振るっていた槍だったのだが、ソマリが手首を捻ると柄の中央から分離した。
取り回しやすくなった武器を両手に、一つはラグの腕へ打ち込み、もう一つはラグの体中心へ突きつける。
「なんだそりゃ!?」
「仕込みですよ」
どうやら練武室にある武器ではなく、師範役が持ち込んだモノのようだ。
予想だにしない奇襲に、ラグは対応できなかった。
「いくら試合でも、武器が分離しないとは限りません」
「くっそ!」
ラグは悔しそうだ。
技を受けるつもりではあっても、負けるつもりは無かったらしい。
「もう一回だ!!」
「いや、終わりですよ」
「なんか悔しい!!」
「我侭言わないでください」
騒ぐラグを宥めようとするソマリだったが、当の本人に負けているわけで効果が無い。
と、そこでゴルマック先生が判決を下した。
「ソマリが引き受けるのであれば構わないぞ!!」
その大声を聞き、ラグは我が意を得たりと喜ぶ。
「よっしゃ!! もう一回だ!!」
「だから、僕が引き受けないと駄」
「おいおい! 背が小さいんだからよ、肝っ玉はデカく持とうぜ!!」
「……今、なんて言いました?」
やべっ……
ソマリに背が小さいって言葉は禁句だ。
いや、会話の流れで出るのは問題ないけどさ、さっきみたいに正面切って罵倒するのは駄目だ。
「だからさあ!! 背が小さいんだから肝」
「受けましょう。後悔しないでくださいね」
あ〜あ……やっちまった。
ソマリの顔から慈悲という文字が消えた気がした。
殺意にも似た闘争心だけが見える気がする。
「どうする?」
ハイクが聞いてくるが、そんなもの決まってんだろ。
「離れてようぜ。何が起こるか分かんねえし」
「だね」
大急ぎで観戦していた生徒達に避難勧告を通達する。
わけの分からない様子を見せる生徒達だったが、ソマリの異様な雰囲気を感じ取って皆が下がった。
先生達は涼しい顔をしているが、それでも生徒達を守るように配置を変えている。
「ダーーハハハハハ!! その意気やよし!!」
「先生、魔法を使っても良いですか?」
「いいぞ!! 魔法を織り交ぜるのも一つの戦略だ!!」
いいのかよ……
ゴルマック先生は平常運転だ。
止める気はないようで、事態の深刻さを理解している俺だって止める気はない。
ラグも分かってて挑発したんだろうし、精々懲らしめられたらいいと思う。
悔しいからってソマリを怒らせるのは割に合わないってのに。
「それでは!! 試合開始!!!」
合図と共にラグとソマリが詠唱を始める。
明らかに隙だらけなのだが、お互いに魔法をぶち込む気でいるらしい。
「”呼び誘うは暴威の予兆、疾く猛き嵐の訪れ、吹きすさぶは風精の怒り・・・テンペスタント”」
「マジか……”我が身に降ろす爆炎の鎧、剛を纏いし力の象徴、秘めたる意志は火精の威容・・・ブレイズフォーム”」
ソマリを中心に暴風が吹き荒れ始める。
補助魔法に位置付けされている、風を呼び寄せる中級魔法だ。
一方のラグは燃え盛る炎を纏った。
こちらも補助魔法に位置付けされている中級魔法であり、身体強化と防御の恩恵がある。
そしてラグは詠唱の前に少し後悔したような顔をしたが、さもありなんと思う。
ソマリが使った魔法は単体では威力が無いものの、他の魔法に流用する事で真価を発揮するからだ。
周囲の環境を利用すれば魔法の制御が楽になったり、魔力の消費を抑えたり出来る。
それは威力の増大も同じなわけで……
止めたほうが良かった、と俺も後悔しそうだ。
まさか"テンペスタント"を使うとは思っていなかった。
「おい! 何が起きるんだ!?」
隣に居たジャホースが俺に聞いてくるが、俺としては本人に聞いてくれと言いたい。
「たぶんだけど、ソマリが本気で魔法を撃つ……気がする」
「だから! どうなるんだ!!」
「最悪の場合、ここが吹き飛ぶかも」
「はあ!?」
俺だって何が起きるか分かんねえよ!
前は強化版初級魔法乱れ撃ちの刑だったけど、汎用性高いから組み合わせは多岐に上る。
ハイク以外は上級を使えないが、不安が残るからってだけで、不可能ではない。
そういうのは抜け道が幾つか存在するからだ。
「”収束せし峻烈の坩堝、凪を残して駆けゆく先陣……”」
「あれ何の魔法?」
ソマリが詠唱を開始し、ラグの顔が盛大に引き攣った。
ハイクに聞いてみると、さしものハイクも困った顔をして答える。
「環境利用の特殊魔法だよ。状況によって何パターンか詠唱がある」
「この場合は?」
「内容を聞く限りは一点集中だし、特級に届くかもね」
「おいおい!!」
ラグを殺す気かよ!?
さすがにマズい!!
「ってか流石に特級は使えねえだろ!」
「あれは特殊魔法だって。場合によっては初級の威力だったりするよ」
「でも今回は違うじゃん!!」
「ソマリは制御が上手いからね。魔力量さえカバー出来れば大丈夫だと思う」
風の精製は暴風を利用してカットするのか……
制御が得意ならテンペスタントは非常に相性が良いらしい。
呼び寄せた暴風を使い放題だからな。
制御を離れたらアウトだけど。
「”停滞を許さず果てなく運び、剛柔等しく貫き穿つ……”」
「ソマリ!! やめろ!」
「ラグが死んでもチャールスさんがいるぞ〜」
「そういう問題じゃねえよ!」
うるさい奴が減るとかって話じゃなくて!!
「”阻む全てに別離を告げて、解き放たれるは風神の槍・・・ウィンケイドピアス”」
とうとう詠唱が完了してしまった。
暴風が収束され、ソマリの手元に風の槍が出現する。
いったい、どれほどの威力を秘めているのか。
それは分からないが、ラグに直撃すれば風穴で済むかも怪しい。
「落ち着けソマリ! ラグは少し調子に乗っただけだから!」
「そうなんだ! ごめん! 俺が悪かった!!」
「慈悲を与える理由になりません」
無慈悲……まさにソマリの状態を示していた。
だが、それで引き下がるとラグが死んでしまう。
「要求は何だ! 言ってくれ!!」
「要求ですか……」
俺の言葉に反応し、魔法を待機状態で維持しながら考え込むソマリ。
「何でも言ってくれ! 本とかさ、都で買い漁るとかどうだ!?」
「本……いいですね」
よし、交渉は可能なようだ。
もう一押し!
「女の子とデートしながらさ! タチアナ先輩とかどうよ!?」
「そういうのが余計なんですよ」
槍が俺へと向けられちまった……
俺の周りにいた生徒達が悲鳴を上げながら逃げ出す。
「ちょ、待って! ごめん! 冗談だから!!」
「冗談の時と場合を考えられないのですか?」
「めっちゃ考えるから! 落ち着いて話そう!!」
いつの間にか俺がピンチになってる!
「そもそも、こうなっては撃つ他ありません」
「んなことないよ!? 考え直して!」
「違います。収束が解けると危ないので」
そう言って、ゴルマック先生に顔を向ける。
「いったん外に出ます。空に向かって撃ちますから」
「いいだろう!!」
そのまま歩いてソマリと先生が外へ出る。
生徒達は怖がりつつも、結末に興味があるのか後に続いて外へ出た。
「助かった……」
「お疲れ」
「お前が狙われてどうすんだよ」
「うっせー! 元はといえばラグが悪いだろ!!」
冷や汗を拭いつつ、ラグ達と合流して俺も外へ出る。
すると、ゴルマック先生が豪快に笑いながら空の一点を指差していた。
「あの雲を狙うといい!!」
「分かりました」
了承したソマリが投擲の姿勢を取る。
固唾を呑んで皆が見守る中、腕を振るってソマリが槍を投げた。
ヒンッ! と風を切る音だけ残して、圧倒的な速度で槍が飛翔していく。
やがて雲の中へと突き込み、直後に収束されていた風が解放された。
結果、丸っこかった雲の中央が消失し、そこから晴天が覗く。
風によって吹き散らされたのだが、肉眼では小さくても実際は相当な広範囲なのだろう。
「天晴れ!! 上手くタイミングを合わせたな!!!」
「お騒がせしました」
「構わん!! もし室内で撃っても対処したからな!!」
どう対処するかは分からないが、まあ大丈夫なんだろう。
ソマリは魔法行使により疲れきった表情のまま、ラグへと向き直って冷たく言い放った。
「5冊は買いますからね」
「了解っす」
ともあれラグの奢りで本を買う事になったようだ。
俺が交渉していたんだが、まあ怒らせたのはラグなのだから当然の結果だろう。
「ルイスは2冊で勘弁しましょう」
「あい……」
そういえば、最後は俺に矛先……いや、槍の先が向いてたな……
明日から土日ってことで、週末内にあと2話は上げとこうと思います!




