2_07_○○トーク
前回のあらすじ・・・名門から名門への”眼中にない”発言を届けたルイス達であった。
「みなさん、おはようございます」
今日も先生の挨拶から授業が始まる。
名前なんだったっけな……バ……バ……
「ババロア先生?」
「どうしましたかルイス君? あと、私の名前はババロンですよ」
「すいません。なんでもありません」
惜しかったな。
・・
・・・
「本日まで魔法の系統について授業を進めてきましたが、次の段階……系統の中での分類について触れていきます」
先生の授業を聞きながらも、頭は別の事を考えてしまっている。
……エグラフの、ある種エグい伝言をシャロンへ届けてから3日が過ぎた。
俺が所属している生徒会の仕事は、生徒の学校生活を支援すること。つまり目一杯学んで成長できる環境を用意することだ。
そのために”ご意見箱”を各寮に設置しようと考えているのだが、大半の寮を支配している勢力が他にいるため足並みを揃えたい。
だから件の勢力である名門貴族のローレライ家とゼグノート家に協力を願い出たのだ。
結果としては微妙……
ゼグノート家としては、お互いの管理範囲で勝手にやろうぜ! ってスタンス。
ローレライ家としては部下が俺達に狼藉を働いたので、良い方向で検討してくれている最中だ。
で、その検討開始から3日が過ぎたので、そろそろ返事を聞こうかな、って話が生徒会長のクリストフ先輩から出ている。
「……」
けどもなあ……そんな雰囲気じゃねえんだよ。
これが俺の集中力を乱す要因であり、悩みでもある。
「では光系統の防御に分類される初級魔法を……シャロンさん、答えてください」
出題されたシャロンは椅子から立ち上がったものの、しばらく沈黙している。
「シャロンさん?」
「……失礼、出題をもう一度お聞きしても?」
「構いませんよ」
穏やかな表情でババロン先生が再度出題を繰り返した。
「光系統の初級防御魔法を答えてください」
「……ライトシールドです」
「正解です。先日の試合でも行使されていましたね」
「ええ」
「どうぞ座ってください」
シャロンが静かに座り、授業が再開される。
だが周囲の視線はチラチラと彼女に集まっていた。
「……なにかしら?」
見つめていた一員でもある俺に、シャロンは小声で何用かを聞いてくる。
「あ〜……大丈夫か?」
「余計な心配よ」
そうは言うものの、シャロンの顔には疲れが見て取れる。
ほんのり化粧もしているようだけど目の下のクマが隠しきれていない。
まともに寝ていないのだろうか。
マリも俺を挟んでチラチラと心配そうに見ている。
だが、これ以上の言葉を重ねる前に今度は俺へと先生の声が飛んできた。
「ルイス君は火系統でしたね」
「へい」
「へい……?」
しまった、咄嗟に変な返事が出てしまった。
ケートス先輩相手に染み付いちゃったな。今度文句言ってやろ。
「防御魔法を行使した経験はありますか?」
「初級だけならあります」
「では、使用感を教えてください」
使用感か……ん〜……
「熱かったです」
「なるほど」
「あと、前が見えません」
「そうですね」
「むしろ攻撃魔法っぽいなと思いました」
「ありがとうございます。十分参考になりました」
さきほど俺が言ったように火系統の防御魔法は、熱い・見えない・用途違くね? の三拍子が揃っている。
まあ初級しか使った事ないから、全部が全部ってわけじゃないかもしれない。
「ルイス君が仰ったように火系統の防御魔法……例として初級のフレイムシールドを挙げますと、幾つかの特徴が存在します」
単に炎の壁が出現するわけだが、一応は物理と魔法の両方を防ぐ事が出来る。
たしか俺が初めて使ったのは……地元の町で勃発した縄張り防衛戦だったっけ。
いわゆる空き地なんだが集まるには絶好の場所で、廃材を持ち寄って昼寝用の椅子を作ったり、侵入対策の落とし穴を掘ったり、付近の森へ忍び込む計画を練ったり……
そんな俺達にとって憩いと悪巧みの楽園を狙ったのは、当時結成したばかりの暴力万歳グループだった。
相手のボスが無駄に魔法を撃ちたがるようなキレた野郎で、俺達に向けて中級魔法を撃ってきたのだ。
俺はなんとか事無きを得ようとして、何を考えたか忘れたが初めての防御魔法を使い……結果は大惨事。
少し前に出ていたラグの至近距離へ炎の壁が出現して鼻先が焦げたり……
相手の魔法を防いだものの、風系統だったため周囲に火の粉が飛び散ってボヤ騒ぎになったり……
魔法で精製された炎だから壁の消滅と同時に鎮火したけど、そうとは気付かず慌てて全員で消火活動したり……たしかソマリが落とし穴に落ちてたな。
結局、騒ぎに駆けつけた大人たちによって封鎖され、その付近は誰の縄張りでもなくなった、というオチまでついた。
そういうわけで、場所によっては使うと余計に危険な目に遭う。
「このように、初級といえど状況を見誤ると危険です。視界の確保が必要な場面、周囲に引火させると危険な場合、相手の魔法との相性、出現させる位置……これらを考慮しなければいけません」
ちなみに、他の系統にだって特徴やデメリットがある。
水系統の初級防御魔法であるアクアシールドは、水の玉が数個浮かび軽減する事に特化している。
しかし、隙間から相手の攻撃が抜けてくる可能性があるため、配置を考えないと意味がない。
風系統の初級防御魔法であるエアシールドは、目の前に風の盾を展開し、逸らす事に特化している。
ただし、重量のある攻撃には弱いため、角度や形を調整しないと効果が薄い。
地系統の初級防御魔法であるグランドシールドは、土の壁を生やし、受け止める事に特化している。
前は見えないが、地系統が一番防御魔法として安定しているそうだ。
光系統の初級防御魔法であるライトシールドは、光の盾を展開し、反射に特化している。
相手の攻撃を跳ね返せるが、限界はあるし耐久度も低いのが難点だ。
闇系統の初級防御魔法であるダークシールドは、渦巻く暗い穴が出現し、攻撃を無力化する。
けど、同じ等級までしか効果が無いし、無力化する攻撃の規模や数に応じて魔力を消費するため一番燃費が悪い。
「このように系統によって特徴がありますので、行使する際は求める結果を得られるか考慮してください」
このあとは各系統の初級防御魔法について、様々な状況を想定した使い方などを学んだ。
自身の扱える系統のみでなく他の系統も知る事で、相手に防がせない状況を作るのだって可能なのだ。
極端な話だが、地系統は一番安定していると共に唯一”生やす”という特性を持っている。
つまり、空中では使用不可能である。
さすがに先生も特徴説明では省略したようだが、万が一の状況もあるとして補足で教えてくれた。
・・
・・・
「……以上で本日の午前授業は終了です」
午前の座学が終わり、昼休憩に突入となった。
なのだが……
先生の退出と共に各々が昼休憩を過ごそうかといった段になって、シャロンが鞄からサンドイッチを取り出した。
そりゃあ上等なものだろう。
素材が良いのかパンは真っ白で、色とりどりの具も栄養バランスが整っているはずだ。
しかし小さい。それでは足りないだろうと心配するほどに。
が、そんな俺の視線に気付いたシャロンは、汚物でも見るかのような目をしている。
「いやしいわね。食堂に行きなさい」
「欲しがってねえよ!」
失礼な奴だと憤慨していると、サンドイッチを鞄に戻したシャロンが教室を出て行く。
俺も残るつもりはないので教室を出ると、マリが出口で待ってくれていた。
「早く行こ! お腹空いた!」
「あいあい」
「そういえば、シャロンと何を話してたの?」
「あぁ……心配したら侮辱された」
「そんなに嫌われてるの?」
そんな事はない……はず。
簡略しすぎたようなので少し詳しく説明すると、マリも心配そうな表情をする。
「足りない……よね?」
「なんで自信無さげ?」
「ほら……女の子の平均って分からないから」
「しっかりしろよ女子」
まあ、それにしても少なすぎだろ。
タチアナ先輩でも3倍は食べると思う。
「シャロンがどっち行ったか分かる?」
「えーと……あっち」
「食堂とは反対方向だな」
てなわけでマリと相談した結果……シャロンを食堂へ連れて行って、がっつり食わせてやろう! となった。
早速シャロンの去った方向へ移動すると、校舎裏へと向かっていくのを発見。
サインを出してマリと意思疎通を図る。
ル(慎重に行くぞ)
マ(*#%?&)
そういやサイン教えてなかったな……
「慎重に行くぞ」
「何処行くんだろうね?」
分からないが校舎裏なんて人気の無い場所だ。
そっと様子を伺うと、設置されているベンチに座って、一人で黙々とサンドイッチを齧っている。
「なんか寂しいな」
「うん……ますます心配になったね」
これは放っておけない。
見つからないよう別方向から回り込み、シャロンがお行儀良く食べ終わるのを待って、最後の一口を飲み込んだ瞬間にマリが手を掴み連行する。
「……へ?」
などと気の抜けた声を漏らしている間に、
ずんずんと歩いて食堂へ。
「な……え? 何をしているの!?」
やっと我に返ったようだ。
「食堂行こうぜ」
「断るわ! 放しなさい!」
抵抗するか。
ならば大義名分をもって教えてやろう。
「今日の座学は午前で終わりだ」
「それがどうしたのよ!」
どうしたもこうしたも……
「知らないの? 午後からは実技授業があるのよ?」
マリが言うように、魔法や武術の実技授業が午後に控えているのだ。
今日から開始されるんだが、今後も実技授業は基本的に午後からとなる。
というのも、魔法を行使するのは疲労を伴うためである。
その最たる例が魔力の消耗であり、認識による魔法の構築も頭が疲れる。
さらには武術の鍛錬もあるというのだから、ガリガリ体力が削られていくこと請け負いだ。
「てなわけで、食っとかないと倒れるしさ」
「そうそう。沢山食べないとね」
「余計なお世話よ! 放しなさい!」
反論の余地が無いらしい。
ひとまず放せと騒ぐシャロンだったが、マリの手を振り払えないようだ。
シャロンがか弱いのか、マリが力強いのかは不明である。
「まさか、もう食べられないなんて言わないよな?」
「足りないよね?」
「あれで十分よ!」
面白い冗談だな。
てなわけで問答無用に連れて行った。
それから5分も経たない内に食堂へと到着したが、なんだかシャロンが静かになっている。
どうしたんだ?
チャールスも捕獲したら大人しくなったし、貴族ってそういう体質なん?
まあ、ひとまず先に着いているだろうハイク達を探すと、食堂の奥に座っていたので近付いていく。
ラグは居ないが、またケートス先輩のお見舞いだろうか。
「お待たせ!」
「やっと来ま……は?」
ソマリが不思議そうにシャロンを見つめている。
ん? どしたん?
「ソマリ、あんまし見つめると惚れたってバレるぞ」
「惚れてませんよ!」
「あ、そっか。タチアナ先輩か」
「そっちでもありません!!」
それより! と話をぶった切ってソマリが俺へと詰め寄ってくる。
「なぜシャロンさんが居るんですか!」
「俺とマリで連れ」
「おい! さっきチャールスが騒い……で……」
返答するかしないかのタイミングでラグが後ろから合流してきたが、なんで二人とも固まってんの?
「どしたん? 二人とも」
「「お前か!!」」
「ぉっ」
!? ……おうぇ! なにこれ!! い、息がっ!!
いきなり視界が真っ暗になり、次いで呼吸が出来なくなり、最後に膝が体を支えきれず崩れ落ちる。
ラグとソマリに前後からラリアットを喰らわされたのだと気付いたのは、しばらく悶絶した後だった。
・・
・・・
やっと動けるようになった俺は、ラグ達に事情を説明して落ち着いてもらった。
一方、問答無用で連れてこられたシャロンは大人しいものであり、今はお高いスープをお上品に召し上がっている。
「ねえシャロン」
「何かしら」
「それで足りるの?」
「そう言ったはずよ」
「甘いものは? 食べる?」
「人の話を聞きなさい」
ちょっと噛み合ってない気もするが、会話しているのはマリとシャロンだけだ。
俺は理由も分からず反省中だし、ソマリは機嫌悪いし、ハイクは見知らぬ女子に連れてかれたし、ラグは何処か行ったからである。
「ルイスはもう少し考えて行動してください」
「すんません」
「さっきラグが連絡しに行きましたが、きっとチャールスさんが血相変えてますよ」
聞けばラグはチャールスと同じ教室らしい。
これまた騒がしい二人が揃ったな。
「ちなみにリンさんも慌ててました。僕達に事情を聞きに来ましたよ」
リンはソマリ達と一緒の教室らしい。
なんか羨ましい……こっちにはシャロンいるけどさ。
「断りも無くシャロンさんを連れ歩いたら、お二人が困るのは予想できましたよね?」
「すんません」
「実際、予想できてなかったので今に至るんですけどね」
「反省します」
やっと怒られた理由が分かった。
授業初日と同じ流れじゃねえか……学習しろよ俺。
まあ気を取り直して、ついでに話題も変えよう。
気になった事もあるし。
「でもさ、なんでバラバラになったんだろな」
名門貴族の勢力ならば教室も同じ方が厄介事とかなさそうだ。
チャールスは分からんけどリンは直属の部下らしいしさ、近くに居た方が良いんじゃないのか?
「私から申請したのよ」
「シャロンが?」
「ええ。リンは私が近くに居ると世話ばかり焼くから」
鬱陶しいとか思うんだろうか。
てかさ、もうリンって部下じゃなくてメイドじゃね?
「邪魔なのではなくて、授業に集中させたいからよ」
「あ、なるほど」
そっか、メイド想い……いや、部下想いだな。
「あと、チャールスは……分かるでしょう?」
「そだな」
聞く必要ないな。
「ですが、お二人が居心地悪い思いをしませんか?」
「その程度を跳ね除けられなくて、私の部下が務まると思うの?」
「なんかシャロンかっこいいね」
「無茶振りしてるだけだろ」
だがまあ、もし気まずい思いをしてるなら俺達の出番だ。
そう考えながら、もうすぐ来るであろうチャールス達を待つのだった。
・・
・・・
「シャロン様!」
「黙りなさい」
「お嬢様、ご無事でなによりです」
「リン……心配かけたわね」
「いえ、ラグ様からお話を伺い、安心いたしました」
「昼食はもう済んだのかしら?」
「まだです」
「それなら座りなさい。チャールスも」
やっと俺も食事を始めようとした時、チャールスが凄まじい勢いで登場してきた。
俺達が座っているのは食堂の奥であり、そこに至るまでは沢山の人が行き来しているのだ。
だというのに走ってくるのだから危うく衝突しそうになった学生達が迷惑そうにしている。
けど相手がチャールスだと見て取ると、諦めたように各々の食事へと戻っていった。
ラグとリンも後から続いてきていたため、この場にいないのはハイクだけだな。
「なあチャールス」
「気安く呼ぶな!!」
「チャールス」
「お呼びでしょうかシャロン様」
「声を抑えなさい。周囲に迷惑よ」
「は。かしこまりました」
ナイスフォローだ。
「なあチャールス」
「だからっ……気安く呼ぶな」
「いいじゃん同い年なんだから」
「よくない。一般が貴族を呼び捨てなど」
「シャロンとリンは呼び捨てだけど?」
「ぐ……たしかに……」
そっちも改めろ、とか言わないあたり扱いやすさを感じてしまうチャールスだったが、こうやって静かにしてれば近寄り難いほどの気風を感じるのだから不思議だ。
「……分かった。好きに呼ぶがいい」
「よっしゃ。よろしくなゴブリン」
冗談だって、剣柄に手をやるなよ。
ともあれチャールスも落ち着いたので話を聞いておこうと思う。
「チャールスも飯食ってないよな?」
「貴様らのお陰でな」
「悪かったって。じゃあさ、注文しに行こうぜ」
断ろうとするのを聞き流しながら、チャールスを連れて食堂の入り口付近へ。
そこでは注文・受け取り・返却を行う窓口が設置されている。
複数設けられているので混雑しにくいし、幾つか美人のお姉さんが担当しているので、そこを避ければ更に待ち時間が少ない。
「それで、何の用だ」
「ん?」
「わざわざ私だけ連れて来たのには理由があるのだろう?」
たしかに、ラグもまだ昼食を取っていない。
周りが見えてるんだな。
「ちょっとした事なんだけどさ」
俺は、シャロンが憔悴しているようなので何か力になれるならば言ってほしい、と伝えてみた。
生徒会としては名門だろうと一般だろうと分け隔てなく学校生活を支援したいのだ。
だからシャロンが授業に集中できないような
状況に置かれているのなら、何か助けになりたい。
そう言ってチャールスの顔を見ると、彼は毅然とした表情で言い放った。
「シャロン様は今、苦境に立っておられる。しかし、必ず乗り越えられるし私が支える……それだけの話だ」
それ以上は何を言う事もない。
……まだ頼ってもらえるほどの仲でもないか。
よし、だったら勝手にさせてもらおう。
「シャロンって何のケーキが好みなんだ?」
「は?」
「シャロンは疲れてんだよ。たぶん色々考えてんだと思う」
エグラフの伝言とか、ご意見箱の事とかな。
そりゃあ疲れもするだろうと思う。
「そういう時は甘いものだ。んで、相談に乗る」
「待て。何の話をしているのだ?」
「だからさ、シャロンを元気付けるんだって」
たとえ一言すら相談してもらえなくても、甘いもの食べて女子トークとかしてれば少しはストレス発散できるだろ。
「てなわけで、女子3人分のケーキを買う」
「……それがシャロン様の助けになるのか?」
「分からん。けど、何もしないよりマシだろ」
「…………いいだろう。ただし、私も払う」
そういうわけで、シャロンとリンの好みを教えてもらった。
シャロンはチョコケーキ、リンはシフォンケーキだ。
え? なに? ……マリ?
何でもいいだろ。チーズケーキにするか。
席に戻りながら壁に掛けてある時計を見ると、午後の授業開始まで……あと90分くらいだった。
充分に時間も残ってる。
「ただいま〜っと……お、ハイク戻ったのか」
「おー、さっき戻ってきた」
良かった、女子は連れてないな。
ケーキが足りなくなるとこだった。
「シャロン、まだ食えるか?」
「もう無理よ」
「そっか、じゃあケーキどうぞ」
「人の話を聞き……これ、どうしたの?」
きょとーん、と目を丸くしているので胸を張って答えてやる。
「チャールスと俺からの奢りだ!」
・・
・・・
「これ美味しいぃ~!」
「幸せそうな顔ね」
「幸せだもん。あ、ちょっと分けて」
「あまりそういうのは……」
「いいから、ね? リンも分けっこしよ?」
作戦は成功だったようで、マリを中心に華やかな空気が溢れている。
そして少し離れた席に集まって様子を窺うのは、むさ苦しい野郎どもである。
「なんか空気が違うよな」
「だな。何を話してるんだろ」
「見すぎては駄目ですよ。放っておきましょう」
ソマリが注意してくるけどさ、あまりにも乾いた発言ではないか。
「潤いを求めて何が悪いんだ!」
「そーだそーだ!」
「騒ぐな貴様ら。品性が疑われるだろう」
「お前にだけは言われたくねえ」
捕獲して冒険者ギルドに突き出すぞこの野郎。
「せっかく学校に来たんだしさ、浮ついた話ぐらいねえの?」
「まだ1週間ですよ。早すぎます」
「ソマリは手紙から始めるタイプだな」
「悪いんですか?」
悪くは無いけどさ、オリビアさんとかだったら相性が悪いと思う。
「俺とラグは直感でピンときたら直球で攻めるタイプだからな」
「よく言うぜ。度胸無くて目も合わせないくせに」
ラグに裏切られた。
俺だって初恋ぐらいあるが、裏切り者が供述するように目も合わせられない純情だったのである。
一方のラグは快活に話しかけて、ガンガン攻めて、嫌がられたら近付かなくなる。
あっさりしてんだよな。
振られるのが怖くないんだろうか……今んとこ全敗なのに。
「ハイクは興味がないってタイプだもんな」
「むしろ男が好きって噂も出ましたね」
「面白がって広げたんだっけ?」
チャールスが僅かにハイクから遠ざかったが、安心してほしい。
噂だし、ハイクとの甘い生活を夢見る女子達によって全面的に潰されたから。
俺も被害に遭ったな。
「チャールスは?」
「私か?」
「おう。どんなタイプ?」
「決まっている。堂々と想いを告げるのみだ」
意外。てっきり飛びかかるタイプだと思ってた。
「そういやさ、ハイク連れてかれたよな?」
「おー、校舎裏まで行ってきた」
「いかにも、って場所だな」
「もう廃れた文化だと思ってた」
ともあれ、そこまで連れて行かれたら何が目的かなんて分かるだろう。
「断ったのか?」
「いや、受けたよ」
「「「なにっ!?」」」
おいおい嘘だろ!
「お前興味ないって言ってたじゃんか!」
「裏切り者ぉ!!」
「勝負の事だからね?」
「「……は?」」
勝負……?
「交渉試合で俺が戦うのを見て、血が騒いだんだってさ」
「血の気の多い女子だな」
「いつやんの?」
「今日の授業」
「早いな」
それなら放っておこう。
ハイクなら負けないだろうし。
「なんだよ告白じゃねえのかよ」
「だから1週間で告白なんか無いですって」
「チャールスなら……ないか」
「どういう意味だ!」
深い意味は無い。
なんとなくだ。
「そもそも私には必要ない」
「あれ? チャールスも興味ないのか?」
「イケメンは皆そう言うんですよ」
「そうそう。いざとなったら幾らでも見つけるから余裕こいてんだぜ」
ラグとソマリの言い分は極端かもしれないが、実際そんなものだろう。
焦る必要ない、とか余裕持ってそうだもんな。
「そうではない。既に恋人がいるのだ」
「「「「……は?」」」」
驚きすぎて大声も出せなかった。
え? もういるの?
「相手が誰か聞いてもいい?」
「この学校には居ない」
「遠距離恋愛か」
「もう冷めてたりする?」
「失礼だな! 冷めるわけがないだろう」
「まあ、頑張れよ」
「終わったら慰めてやるからな」
「どこまでも無礼だな貴様ら」
・・
・・・
いくら聞いてもチャールスが恋人の話を
吐いてくれなかったので、俺達は男子トークを展開し始めた。
全然具体的に語れない恋愛話など放っておいて、魔法だったり武術だったりの話だ。
さすがチャールスは良い教育を受けているようで、魔法なら上級を使えるし剣術も嗜んでいる。
俺達なんてハイク以外は中級が限界だ。
練習できる環境なんて碌に見つからなかったし、魔力量にも不安が残る。
あとは、どんな魔法か理解していないと行使できなかったり反動が起こったりするからな。
さすがに上級で反動起きると命が危ない。
軽々しく使えないのだ。
「チャールスって上級は何の魔法使えるんだ?」
「教えると思うか?」
「いいから教えろよ」
「おら、キリキリ吐け」
「まずは剣術から教えてやろうか」
抜くなって、ここ食堂だから。
「そういえば系統も知らないな」
「貴様らが教えたら答えよう」
そんなのお安い御用だ。
「俺は火系統」
「俺も火系統な」
「僕は風系統です」
「で、俺が風系統」
チャールスは一言呟いた。
「偏ってるな」
そうなんだよ!
全員の系統が分かった時は驚いたもんだ。
火と風……攻撃に向いている系統ばかりだ。
「で、チャールスは?」
「地系統だ」
「お、じゃあメテオ使うのか?」
「使えるわけないだろう。あれは本来、複数人で詠唱する魔法だ」
そうなのか……でもエグラフ使ってたのにな。
「よほど才能があるか、努力の結果か、魔具の補助ありきだろうな」
「じゃあ何が使えんの?」
「……グラッジシールだ」
「どんな魔法?」
「地形利用の魔法だ。持続行使が可能で、そちらの制御方法が主流だな」
地面を変形させて、攻撃や防御に使える汎用性の高い魔法らしい。
地系統だから相性の良い岩とか土なら適用されるそうだ。
「貴様らは何を使えるのだ?」
「ハイクは上級魔法でトルネード使えるぜ」
「試合でも使ったし」
「なんだと!?」
いきなりチャールスが大声を出した。
え? なに?
「貴様っ! シャロン様に上級魔法を使ったのか!!」
「駄目なの?」
「当たり前だ! 万が一にも当たったらどうする!!」
そんな事言われてもなあ……試合だし。
ハイクも当てる気無かっただろうし。
「チャールス、お静かに」
「リン!?」
どう答えるべきか悩んでいると、いつの間にかリンが近くに寄って来ていた。
気付かなかった……
「お嬢様がお休みになっておられます」
「シャロン様が?」
シャロンの方を見ると、机に突っ伏して寝ていた。
あーあー、そんなとこで寝ちゃって。
「あんなとこで寝させて良いのか?」
「できれば寮までお運びしたいのですが……」
あと40分ほどで午後の授業が始まるし、動かすと起きてしまうかもしれない。
少しでも寝させておきたいのかな。
と、マリもこちらへ近寄ってきて俺達に注意する。
「男子は寝顔見ちゃダメ!」
「あぁ?」
「そういうのって恥ずかしいんだから」
さいですか。
まあマリの場合は寝顔どころか寝相の酷さまで拝見しているわけだが、言わない方が良いか。
というわけで……
俺達男子どもはシャロンの寝顔を守るため、他の食堂利用者達から見えないように直立不動で並び、壁を作るのだった。
時間が欲しい・・・




