2_05_細目との接触
前回のあらすじ・・・案内役のタチアナ先輩が仲間に加わった!
「まず細目さんを知るのが重要だと思いません?」
「細目?」
「エグラフさんの事かな」
「細目さんのプロフィールを知りたいと思いません?」
「いや、別に」
「……そうですよね……そんなの知っても失敗するだけですよね?」
「すげえ知りたい!」
「だな! 知りたい! めっちゃ知りたい!!」
てことでクリストフ先輩やケートス先輩から
情報の提供をお願いすると、以下の情報が得られた。
エグラフ・ゼグノート。3年生だ。
ゼグノート家の修練世代旗頭であり、逆立った赤い髪が特徴。
地系統の魔法を使い、バリエーションは豊富だが威力の高い魔法を好んで使う。
学力は高く身体能力も高いので、黙しても構わない分野なら得意だ。
だが、誰かとのコミュニケーション……いわゆる社交性は苦手な分野になるらしい。
そしてケートス先輩をライバル視していて模擬戦闘の授業では必ず狙ってくる。
今までケートス先輩が生きていたのが不思議だ。
「貴族らしくねえだろ?」
「そうですね。貴族は社交性が重要だと思うのですが」
「背中で魅せるタイプだから、勢力内での信奉は篤いよ」
「漢だな」
強くて無口で無愛想って感じかな?
でも配下からは慕われていると。
「でもさ、一人になったら心配されるんじゃね?」
「そこは配下が遠くから見守っているのかもね」
こっそり護衛してるのか。
大変だな……放浪癖のあるボスを持つと。
「タチアナは身長、体重や座高が知りたいと思いません?」
「あ~……すまん、そういう数値は知らないな」
「背は私より10cmほど高いようだがね」
「それではお兄様の身長を基準とした方が良いと思いません?」
「お兄様?」
「え? 兄妹?」
「いや、違うよ」
「お兄様と呼ぶのが当然だと思いません?」
「そっすか……」
まあ誰が誰をどう呼んでも構わないが、タチアナ先輩は懐から取り出したメモ帳のようなものに何やら書き殴っていく。
「何してんだろ」
「さあ……」
待つこと5分……
「出来ましたと思いません?」
「お?」
メモ帳を見せてくれるが、難解な数式や、その他にも箇条書きで色々と付け足している。
「おおよその身体情報から、寮から出発して適度な疲労感で歩ける距離内で、人が近寄らない孤独スポットの候補ですよね?」
「おぉ……」
「ただし先ほどのお話を聞くに、誰かが見守っているようなので、配下が隠れられるという条件を考慮したほうが良いと思いません?」
「そ、そっすね」
「しかるに現状は候補が一ヶ所しかないので、想定移動範囲を少し広げたほうが良いと思いません?」
「んでもさ、誰も見守ってない可能性は?」
「そういう悲しい現実を想定するのは次の段階で良いと思いません?」
たしかに最初から、お前ぼっちだろ! と決め付けるのは良くないな。
「では、その広げた範囲での孤独スポットは幾つですか?」
「四ヶ所あると思いません?」
「よっしゃ! そこ回ってみようぜ!!」
やっと出発となり、俺達はタチアナ先輩の手を引いて医務室を再び飛び出していった。
・・
・・・
「いたね」
「ああ、まさか一発で見つかるとはな」
「さすがタチアナ先輩」
「偶然に酔いしれるのは危険だと思いません?」
「すぐ醒めるなら少しは酔って良いと思う」
医務室を出発して孤独スポット巡りを開始した俺達だったが、最初に目を付けたのは"地の庭"と呼ばれる場所だった。
他にも特徴的な庭は5種類あり、それぞれ趣が違う。
色彩鮮やかな花々が咲き乱れる、火の庭。
清涼な一時を味わえる、水の庭……これが噴水広場だったらしい。
木陰や芝生が涼やかな、風の庭。
白を基調とした煌びやかな装飾が心を奪う、光の庭。
明暗を切り替える夕日が一望できる、闇の庭……というより丘そのものらしい。
で、俺達が訪れたのは地の庭だ。
赤茶けた広大な大地に、全容を見渡せないほど配置されているゴツゴツした岩。
「てか、これは荒野だな」
「魔物とか出そうね」
「これで庭って……悪意あんだろ」
そんな感想が出てくるほど、憩いの場としては不適切に感じた。
だが、タチアナ先輩一押しの孤独スポットらしい。
「一人で過ごしたい者にとっては良い場所だと思いません?」
「誰も来ないからですか?」
「それもありますし、もし見つかっても煙に巻けると思いません?」
「たしかに障害物多くて、把握してれば逃げやすそうですね」
タチアナ先輩が何から逃げるのかは不明ではあるものの、俺達はヒソヒソ話しながら岩の上へ登って遠目に一点を見つめている。
そこにはエグラフが石で出来た長椅子に座っており、腕を組んでいた。
何か考え事か? それとも寝てるのか?
「貴族の坊ちゃんがさ、こんな埃っぽい場所に来るもんなのか?」
「実際来てるしな……見ろよ、あの堂々とした佇まい」
「見るべきは場に在らず人に在り、だと思いません?」
「何言ってるか分かんないよ」
てなわけで華麗に参上! からの接触開始!
……と、いきたかったのだがエグラフに近付く人影が二つある。
「あいつら誰だろ?」
「同じ勢力の人じゃね?」
「それにしては挙動不審だと思いません?」
「暗殺者かな」
「物騒すぎるだろ。ここは学校だっつの」
正体は不明だが、服装からするに一般ではないだろうな。
どう接していいのか判断しかねるように、遠巻きにエグラフの様子を窺っている。
が、決心したように近付き……跪いた。
エグラフは気付いているようだが、動かない。
ん~……跪いている二人が何か喋っているようだが聞き取れないな。
「もうちょい近付こうぜ」
「でも見付かるんじゃない?」
「おそらくですが下級貴族だと思いません?」
「あ~……取り入ろうとしてんのか」
それなら納得だ。
「ですが、いきなり旗頭に接触するなんて無茶だと思いません?」
「俺らのことですか?」
「ここで自分達の行動を否定する意味が無いと思いません?」
「てことは、あの下級貴族のことっすか?」
「勢力に入れてほしいなら旗頭に会うんじゃないの?」
「順序を間違うと相手にしてもらえないと思いません?」
「そういうもんなんすか?」
「俺ら一般だし関係ないよな?」
「順序以前に相手してもらえないと思いません?」
「ねえ、今何の話になってるの?」
みんなが疑問を出すので全く話が進まない。
いったん落ち着こう。
「つまり、俺らはともかく下級貴族が旗頭に接触するなら順序があるって話ですか?」
「そうなりますよね?」
「これじゃ駄目って事か。まずは下っ端に話を通してもらって……」
「目通りが叶えば初めて接触できる、と」
「もう話が通ってるとか?」
「だとすれば場所を選ぶと思いません?」
「まあ見た感じは孤独を楽しんでる最中だったしな」
「けど、それを邪魔してでも会いたい理由があると思いません?」
「……そうみたいだな」
ラグの言葉に再びエグラフの方へ視線を転じると、何かを訴えるように身振り手振りで説明する下級貴族らしき人達。
エグラフは全くの無反応であるように見えるが、構う事無く自身の胸へ手を当てて騒いでいる。
けっこう大きい声になっているわけで、何を話しているかが聞こえてきた。
「……ですから! 我々にお任せいただければ有益な情報を入手いたします!」
「……」
「今のままでよろしいのですか!栄えある名門の血筋なのですよ!?」
「……」
「このために一般と同居しているのです! 情報の入手に利用できましょう!!」
「……」
お~、それっぽい会話だな。
「これって報告すべき内容だと思いません?」
「だな。折角用意した部屋を悪用されてるぜ」
「あ……」
突如エグラフが手を上げ、すぐに岩陰から
誰かが飛び出してきた。
エグラフが何事かを耳打ちすると、配下と思われる人物は下級貴族を連れて地の庭を去っていく。
「どうなったんだろ」
「詳しくは部屋で聞こうか、みたいな展開?」
「それとも鬱陶しいから追い返せ、とか?」
「ともあれ接触のチャンスだと思いません?」
「「「思います」」」
今なら誰も近付いてないし大丈夫だろう。
そう考えて体を起こそうとして……
エグラフがこっちを向いた。
「「「「!!」」」」
「……」
やべ……見つかってんじゃん。
「逃げる?」
「でも逃げたらさ、やましい事してましたってならない?」
「実際しただろ」
ただ、仲良くなるための接触でもある。
ここで逃げ出しては悪印象を持たれてしまうかもしれない。
そのつもりじゃ無かったとはいえ、盗み聞きをしてしまったのだから。
「なあ、詠唱してないか?」
「分からない」
こんな遠くからじゃな。
てことで目を凝らそうとした刹那、何かが俺の頬を掠っていった。
「ルイス! その傷は!?」
「……へ?」
頬に手を当てると、少しだけ血が出てる。
え? 俺って魔法撃たれたの?
「おそらくですが初級の魔法を最小最速細心の制御で行使したと思いません?」
「つまり?」
「今のは警告で、次は当てるって意味だと思いません?」
逃げよう!
「散開! バラバラに逃げるぞ!」
「よっしゃ!」
「まだ死にたくないぃ!」
ラグとマリが岩から飛び降りて走り去る。
てか、マリは怯えすぎだろ……優しくしてもらったじゃん。
「タチアナは腰が抜けたので動けないと思いません?」
「は?」
なんとタチアナ先輩が座り込んでしまっている。
おいおい! どうすんだよ!!
「あ~くそっ! 先輩! 俺の背中に乗って!」
「後輩の背に乗るのは屈辱だと思いません?」
「知らねえよ! 早くしてくれません!?」
先輩を半ば強引だが背に乗せて、岩から飛び降りる。
……くそ、降りると方向が分かんねえな。
「先輩! どっち逃げたらいいんですか!?」
「あっち、ひとまず細目さんから離れるのが先決だと思いません?」
「思います! しっかり捕まってくれよ!!」
逃げるなら即断即決が命!
エグラフの居た方向とは反対へ!
「にしても、気付かれ、てたんですっ、ねっ」
「無駄口叩くより足動かした方が良いと思いません?」
「捨てていいっすか!?」
「ダメ」
「そこはハッキリ言うんですね!!」
愛のない逃避行は5分ほど経過し、そろそろ地の庭を抜けてもいい頃合だろうに、全く景色が変わらない。
「少し止まれば良いと思いません?」
「なんで!?」
「調べたい事があると思いません?」
「了解っ!」
急停止して先輩を降ろすと、地面に手をついて動かなくなった。
「……」
「……」
「……」
「……あの」
「振動と、音が聞こえません?」
「へ?」
俺も同じようにすると、地面から微かな振動が伝わってくる。
それと、重いものが落ちるような音も聞こえる。
「聞こえます」
「おそらくですが岩を動かしていると思いません?」
「えぇ!?」
なにそれ!
そこまですんの?
「配置を変えて……あ」
「うぉ!?」
突如として周囲にあった岩が浮かび上がる。
次々と空へ浮遊していく様は荘厳ですらあった。
そして、いきなり開けた視界の中でパラパラと舞い落ちる砂を背景に佇んでいるのは……
「沈め」
「やっぱこの人怖い!」
俺が叫んだ直後、無慈悲にも岩が落ちてくる。
あ、これ死ぬんじゃね?
これってメテオの再現だよな。
環境次第では上級魔法を使わなくても同じような事が出来るって聞いた気がする。
こうやって、迫り来る岩を呆然と見つめながら、走馬灯ではなく魔法の知識を引っ張り出しながら冷静に観察している自分がいた。
? ……いや、これは……
轟音が響き、土埃が宙を舞う。
たまらず目を閉じたものの、結果として岩が俺達を潰すことは無かった。
静かになり目を開ければ、周囲を岩に囲まれて逃げ場を失くした俺と……
「先輩?」
俺を庇うように、目の前で両手を広げている
タチアナ先輩がいた。
「命拾いしたと思いません?」
「先輩……」
エグラフは潰す気はなかったようだが、それでも先輩は俺を庇おうとしてくれた。
先輩……こんな小さな体で……
「……あんまし意味ないような気が」
「他に言葉があると思いません?」
ともあれ少しは愛のある逃避行だったようだ。もう終わったけど。
「貴様、生徒会だったな」
そんな言葉と共に閉鎖された空間へ着地したのはエグラフだ。
鋭い視線が俺を刺す。
「あ、え~と……」
「安心しろ」
「はい?」
「あのような輩と手を組むことはない」
さっきの下級貴族っぽい人達の話か?
「私が見据えているのは世代の節目だ。この閉鎖された環境ではない」
「……どういう意味ですか?」
「修練の身で家名を徒に掲げるなど愚行であり、それが泥を塗る事態にもなり得る」
「???」
「既に流れは変わった。縋るほど情けない姿を晒すと、ローレライの旗頭に伝えておけ」
「俺が?」
「他に誰がいる」
「……了解っす」
「では消えろ」
そう言ってエグラフが腕を振ると、岩の一つが浮いて道を開けてくれた。
そこから出て行けって意味だろうけど、真上に岩が浮いているわけで……
「落とさない?」
「話があるならば正面から来い。でなければ……」
脅すように、岩が少しだけ高度を下げる。
「愚か者は沈める」
「正面から行きます!」
落とすなよ? 絶対落とすなよ!? と祈りながら、先輩の手を引いて岩の下を通り抜けた。
そこでやっと見渡してみると、岩が規則正しく並んでいて地の庭から抜ける道が出来上がっている。
すげえな……一本道だし迷いようがない。
「ここはエグラフの庭、ってか」
「相性が良すぎなんだと思いません?」
「ですね。地系統だし」
岩なんて動かし放題だろうな。
精製する必要がない分、消費魔力も少なくて済むだろうし。
「ですが、魔法の実力が突出しているのも事実だと思いません?」
「というと?」
「これほどの数を短時間で移動させ、制御し続けるのは並大抵の力量ではないと思いません?」
そういえば道を開けてくれた時も詠唱聞こえなかったな。
たぶん動かし始めてからずっと制御していたんだろう。
「やっぱ強いんですね、あの人」
「学校でも上位5人に入ると思いません?」
「余裕で入りそうです」
そんな会話をしながら地の庭を抜けると、ラグとマリが走り寄ってくる。
どうやら逃げた後に合流したところ、遠目に地の庭が大惨事になっているのを見て駆けつけて来たらしい。
とりあえず散り散りにならず済んだみたいだな。
……そういえば散開させたの俺か。ごめんよ。
ともあれ伝言も預かってしまったわけなので、ひとまず戻る事にしたのだった。
約2日空くと随分投稿していないような気持ちになります。
でも、ちょっと書き進められていないので・・・




