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先駆者の導き  作者: 腹ぺっこ
第一章 入学
15/217

1_13_目標に向かって

展開を掴んだ! もう放さない!

 


「こんなに早く行動してくるとは……」


苦虫を噛み潰したような顔で言葉を零すのはクリストフ先輩だ。



「すいません。俺がしっかりしてれば……」


同じような顔で謝罪を口にするのはケートス先輩である。



「いや、気にしないでほしい。むしろ私が迂闊だった」



なんとも沈んだ空気が部屋に漂っている。


俺達はケートス先輩の部屋で、生徒会の会員が何者かに襲撃されたという話を聞いてしまったのだ。



「でもさ、どうして襲撃されたんだ?」

「その前に情報の収集をする。一ヶ所に集めてるかい?」

「エントランスに連れて来ています」



詳しい話は後のようだ。ひとまず部屋を出て階段を下りる。



途中でクリストフ先輩から部屋に戻るよう言われたが、こんな状況で大人しく待っているのは肌に合わない。



なにより……


「ケートス先輩……」

「ん? 大丈夫だ。なんともねえよ」


そう、ケートス先輩も襲撃されたそうなのだ。


出会って2日目だが面倒見もノリも良い先輩であり、少なからず信頼を寄せていた。



だというのに……


「飯持ってくるのを忘れるなんて……」

「生徒会長を餓死させる気なんでしょうか?」

「先輩の失敗から学ぼうぜ」

「甘味ぃ……」


「少しは心配しとけよ!!」



まあ最初は心配したが怪我はないそうだ。


だが他に襲われた会員が居るらしく、彼らは魔力を封じられてしまったようだ。



魔力の識別は可能なので寮の部屋には入れるが、無意識に行っているらしい魔力励起とやらが不可能なので魔法は使えない。



で、今回襲撃された会員は6名いる。


その全員がエントランスに集まっているので、様子を見に来たのだが……



「会長……」

「何なんですか、これ」

「突然でしたよ」


そう口々に話す様子は、戸惑いの色が強く出ている。



「危険な目に遭わせてしまい、申し訳ない」

「「「「「「……」」」」」」

「私の油断が招いてしまった結果だ」

「さすがに予想出来ませんよ」


ケートス先輩がフォローしようとするが、クリストフ先輩の表情は固い。



「会長、彼らは?」

「ああ、新入生だ。この生徒会寮に部屋を構えている」

「そうですか」


俺達は軽く礼をして応じる。


各々が自己紹介を、なんて空気でもなく、クリストフ先輩による事情聴取が始まった。



「痛みは無いかい?」

「ええ」

「魔法を使おうとはしてみたかい?」

「しましたが何も起こりませんでした」


「魔力が励起しないのか?」

「そうです。全員が同じ症状です」

「襲撃された状況は?」

「新入生を誘導した帰りです。一人で歩いている時を狙われました」


「手段と襲撃者の人数は?」

「詠唱は聞こえませんでした。人数は2人です」

「魔具の可能性が高いか……顔は見たかい?」

「いえ、黒いフードで隠していました」


「魔具なども見ていないかい?」

「ええ」

「……ありがとう。各自の部屋で休んでほしい」



聞き取りが終わったようで、会員達が上階に去っていった。


残ったのはケートス先輩の部屋に集まっていた7人だ。



「やっぱり魔具ですかね?」

「そのようだ。ひとまず部屋に戻ろうか。私の部屋にしよう」



俺達も連れられてクリストフ先輩の部屋へ入る。


大きいソファに座らされ、飲み物を出された。



「いやはや、厄介な事態になった」

「今までも厄介でしたよ、会長」

「そうだね。幸いにも怪我は無いようだから、そこは一安心かな」

「どういった意図なんでしょうかね?」

「今から説明しよう」



クリストフ先輩が俺達の顔を見渡し、状況を説明してくれた。



「会員達が魔力を封じられたのは魔具によるものだろう」

「襲撃者の正体は心当たりないんすか?」

「はっきりとは言えないが、おそらく名門貴族だろうね」

「戦争でもする気かな?」

「似たようなものだ。実は、明日に試合が控えている」

「試合ですか?」

「ああ。私が交渉に赴いた時の話だが……」



クリストフ先輩は押し寄せる新入生達の誘導やら部屋の確保やらに奔走し、生徒会寮も使って一段落したので学校長の執務室へと向かった。



今後についての相談ではなく、そこに名門貴族の旗頭が居るからだ。



「いくら王家の指名といえど、例に無いからね」


なぜ一般を指名したのか、それを問うためにだ。



王家の人間が誰なのかは秘匿されている。


だからこそ、唯一知っている学校長へ話を聞きに来るだろうと予想していたらしい。



「案の定、両家の旗頭が来ていてね。そこで交渉を持ちかけようとした」



頼りになる先輩だが、相手は海千山千の名門貴族だ。


クリストフ先輩も生徒会長に指名された真意が分からない以上は、学校長のフォローを期待していた。



「ところが、既に話は決着しつつあったんだよ」


学校長は名門貴族達に、この魔法学校が掲げる理念だと答えたそうだ。


俺達は聞き逃してしまったが、その内容は一風変わっていたらしい。



「実力至上主義、そこは入学式で聞いていましたけど」

「そこが基本となる。捉え方に違いはあるようだがね」



今までだって実力至上主義と言えるだろう。


名門貴族が家名の誇りを胸に生徒会長の座を奪い合う。


そこには様々な謀略と衝突があり、実力無くしては到底届かないのだから。



「だが、今回は規模が更に広がる。生徒会長の座は誰にでも指名されるようになった」



1人目がクリストフ先輩だという。


気に入らなければ追い落とせば良いと、学校長は宣ったそうだ。



その方法は限定されないが、一能ではない。


学力、魔法、人柄など……様々な要素を考慮して指名されるのだ。



「まあ、その点は今までと同じだけれどね」

「それで、どうして試合が?」

「私が今回持ち出した交渉を、早期決着させる手を模索した結果だよ」



試合になるとは思わなかったらしいけど。


「負けたらどうなります?」

「一般が野宿する結果にはならないから安心してほしい」


勝った場合、生徒会寮と大部屋寮はクリストフ先輩の管理下に入る。


負けた場合、大部屋寮しか残らない。



ただ、負けてしまって不足する住居は名門貴族が負担するそうだ。


都の別荘や宿などを提供するという方法で。



「金の使い道が……」

「その間に大部屋寮を増築する。これは試合に関係ない確定事項だよ」


来年からも一般の入学者が多くなる傾向が持続するそうだ。


なので、今年の内に居住環境を整えておくのは必須らしい。



「でも、名門貴族にメリットあります?」

「今後の活動拠点として生徒会寮を確保出来るし、対外的にもメリットはある」



今のところ、一般の生徒達は居心地が悪いから部屋の移動を希望している。


それに名門貴族が対応したという結果になるのだ。



「別荘は勿論だが、宿も名門貴族が”知っている”ランクだろう」

「住み心地は最高っすね」

「それを無償で提供するのだから、一般の生徒達は認識を改めるだろうね」



他にも魔法学校への往復に馬車を提供したり、何か困った事があれば気兼ねなく相談出来るような体制を用意するそうだ。



「そういった点で考えれば、割合の多くなった一般生徒から支持を得られる」

「たしかにメリットは大きいんですかね」

「でも、それなら……」

「分かっている。別に名門貴族が勝っても問題ない」



ただし、とクリストフ先輩は付け加える。



「そうなれば一般が萎縮し続けてしまうだろう」

「恐縮とも言えますね」

「この学校は在り方を大きく変えようとしている。その第一歩を踏み外す事態は避けたい」


学校の理念が実力至上主義というのは、些か剣呑な雰囲気を感じかねない。


だが実際は、貴賎に関わらず飛躍する機会を存分に提供しよう、という意志が込められている。



「今までの一般と下級貴族は、不遇とも言える立ち位置だった」



実力で抜きん出ていれば名門勢力に目を掛けられたりもするだろう。


けど、他の勢力から煙たがられたり、同じく目を掛けられたい者達に足を引っ張られてきた。



「それも社会の一環ではあるが、ここは学校なんだよ」



学び、成長し、飛躍する。


それを阻害するような要素は排除していこう、というのが今年からの目標である。



「ここで名門貴族が勝ってしまえば、結局は同じ事の繰り返しとなる可能性がある」



当然のように一般が負け、脚光を浴びるのは名門貴族。


学校に通う意義は家名の誇りを守るためであり、一般など実質的には眼中に無い。


また一般から見ても、そういった勢力争いを傍目に、巻き込まれないよう身を低くして4年間を過ごす。



「それでも得られるものが多いからこそ、一般からの入学希望者は後を絶たなかった」

「けど色々と気になっちゃいますよね」

「既に諦めていたんだろう。伸び伸びと学べなくても通いたい、と」



ここでクリストフ先輩は席を立ち、棚から菓子を出してくれた。



「甘味っ!」

「お前さっきから甘味しか言ってねえけど!?」



だが、今日は色々と知る事が多くて頭が疲れている。


ここで甘いものは有り難かった。



「そういうわけで、今は主導権を握る事が肝要だ」

「でも勝ったとして、上手く運びますか?」

「長い時間を掛ける事になりそうだね」

「勿論そうなる。だが、地道に進めていくしかないだろう」


当面の目標は、一般だって表に出られると証明する事だ。


だからこそ試合には勝ちたかったらしい。



「そこにきて今回の襲撃だ」

「いきなりピンチですね」

「ただ、旗頭が指示したとは限らないし、名門勢力かも定かでない」



とはいってもさ、タイミング的に名門貴族ぐらいしか仕掛ける理由が見当たらないんだよな。



「他に候補は居ませんね」

「だな。そんな狼藉働くなんざ……」

「狼藉?」

「「「「……」」」」



ふとマリを見ると、菓子を味わいながら幸せそうにしている。



「なあに?」

「お前が犯人か!」

「え!? 何が!?」

「狼藉者つったらマリが第一人者だろ!」

「知らないわよ!」

「ケーキを報酬に裏切りましたか」

「そんな安くないもん!」



ちょっと無理矢理すぎたが、空気を解しつつ、俺も菓子を口にする。



お……美味い。



「これ美味いな」

「ね、美味しいよね!」

「もう残り僅かなんですけど……」

「マリ、お前本当に太るぞ?」

「ふ〜んだ」


ふ〜んて……


「言い返さないあたりに自覚が垣間見えるね」

「だな」



ともあれ話を戻すか。


生徒会として試合に勝ちたい理由は分かった。



しかしながら、事態は深刻だ。



「試合のルールはどういったものですか?」

「今回は3人チームで特殊な総当たりになる」

「他に魔法を使えるメンバーは居ますか?」

「私とケートス、他に会計担当のみだよ」



会計担当か……ん〜……


「その会計担当って強いんですか?」

「数字には強いがね」

「絶望的っすね」



ぶっちゃけて聞いてみると、戦力にはならんようだ。



「仕方ないさ」

「さっきの人らが魔法抜きで戦えたら良いんですけどね」



などとソマリが呟くと、クリストフ先輩が反応した。


「あぁ、エントランスで君達が見た会員は臨時なんだよ」

「え、そうなんですか?」


臨時だったのか。


「だから正規の生徒会員ではない。試合にも出られないよ」

「襲撃側は知らなかったようですけどね」



となれば、存分に戦えるのは2人しかいない。


「私達だけでは後が無くなってしまうな」

「ひとまず人数だけは揃えましょうか」

「どのみち、私とケートスと会計担当となるだろう」



先輩2人が明日の試合について話し合っている。


その間に俺達は菓子を食べきってから相談し始めた。




「なあ、これってさ……」

「俺達が試合に出る流れだよな」

「そう思う」

「引き受けるんですか?」

「まあ、どっちでもいいかな」


「でも誰が出るんだ?」

「必要なのは1人か」

「だな」

「じゃあ勝率重視でハイクか」

「俺? ……まあ、いいけどね」



相談はあっさり終了し、先輩達の方へ視線を転じる。



すると……先輩達もこっちを見ていた。



「まさか試合に出るつもりかい?」

「その流れかと思いまして」

「会員ではないから出られないよ」

「なら生徒会に入ります」



一言で済ませたが、ケートス先輩は苦い表情だ。


「……新入生には荷が重い」

「ハイクなら大丈夫ですよ。やれば出来る子なので」

「その言い方だと結局やらない気がしてくるな」



と、ここでクリストフ先輩が溜め息を吐く。


呆れたのか?



「実は、君達に期待していたんだよ」

「何をですか?」

「明日に控えている試合ではなく、今後の活動を協力してほしいと思ってね」

「でなければ、ここまで詳しい事情を説明しないさ」



ですよね。


臨時会員より食い込んでる気がするし。



「それに、ここまで聞かれてしまっては逃がすわけにはいかない」


いきなり悪者っぽい!!


「というのは些か過激な発言だが、いずれ巻き込むつもりでいた」

「それこそ逃げられないぐらいの状況に持っていってな」

「いきなりで申し訳ないとは思う。だが……」



先輩達が頭を下げ、俺達に願った。



「君達の力が必要だ。協力してほしい」



そう言われても、俺達は顔を見合わせることすらない。



代表して俺が言葉を発する。



「頭を上げてください。そんな軽いものじゃないっすよ」

「……」

「一つ質問良いですか?」

「なんだい?」


頭を上げた先輩に、俺は気になっていた事を聞いた。



「俺達に期待した理由は何ですか?」

「……これほどの状況を知ってなお、君達は前を向いているからだよ」

「あ〜……そうですか」



前向きと言われたら事実だけど、期待する理由としては微妙な感じだな。



「それに……」

「?」

「居心地が悪くなったら気兼ねなく学校を去るんだろう?」

「それは……」



絶対に無い、とは言えない。


しがらみだったりが多いのであれば、学校に拘りはしないだろうから。



それを把握しているのか、クリストフ先輩は力強い声で言い切った。



「そんな未来は断固阻止する。そのためにも、近くで見ていたい」

「……」

「どうかな?」



答えは決まっているが……



「すいません、もう一個質問良いですか?」

「いくらでも聞こう」


これも気になるんだよな。



「マリって含みます?」

「……もちろん」

「ちょっと間があった!」

「いや、どうにも存在感が希薄になっていてね」



甘味ばっか食ってるからだよ!


「だってさマリ! お前もっと頑張れ!」

「どうやって!?」

「まずは自覚から始めろって。お前にしかない役目があるだろ?」

「役目……」



少し考えていたが、マリは結論を導き出したらしい。



「潤いよ!」

「は!?」

「この中で紅一点……戦場の華なのね」



いや、違うから。



「アホか」

「え!?」

「最終兵器だ」

「名門勢力に潜り込んで引っ掻き回してこい」

「自爆でも何でもいいです」

「俺達は巻き込まないでね?」

「ヒドい!!」



まあでも皆は否定的な空気を出していない。


それだけを確認して俺は答えた。



「任せてくださいよ先輩」

「それに、お互い様です」

「ですね。持ちつ持たれつ」

「楽しく過ごせりゃ何でもいいっすよ」

「……ありがとう」



先輩達と握手を交わし、俺達は生徒会員になったのであった。




結局あまり進まず・・・

まあ所属をハッキリさせた分は進歩でしょうか。

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