4_09_夢想の都 寂しい夜
こんにちは。
対抗試合を二戦目で敗退してしまった俺達は、観戦席へ戻ってきた。
「惜しかったな」
「あと2つまで削るって快挙だよ!」
などと生徒達が出迎えてくれるが、なんだかな。
「やっぱエグラフさんは強かったな」
「これからはエグッさんと呼ぼうぜ」
「間違いなく沈められますよ」
「エグいぐらい強い、って褒め言葉じゃんよ」
最後とか地元組の4人で攻めてたんだが、また土壁に引きこもっちまったしな。
もうこっちは俺以外が魔力切れって状態だったし、物理で突破しようとしてた。
オラ出て来いやあぁ!! って土壁を蹴り壊そうと群がってたのは異様だったと思う。
なんとか蹴り壊してからはタコ殴りにしたんだけど、俺とハイクが至近距離で魔具による中級魔法を撃たれて即脱落。その前に物理残命を1つ削れたからマシだけどさ。
で、ソマリとラグは残命こそ多く残っていたが、それはエグラフさんも同じだ。
剣術でラグを追い払いながら、ソマリを優先的に狙って魔法残命を削りきられた。
最後に残ったラグとエグラフさん……引きこもってる間に維持待機させていたらしい魔法と、魔具による集中砲火を避けきれず、ラグが倒れて決着である。
まあ全力で戦ったし、悔いはない。
「あれ? ケートス先輩は?」
「さあ……お、来た」
まさか負けた悔しさで便所に篭ったりしてるんじゃ……と心配したが、杞憂だったようだ。
「よお、お疲れ」
「どこ行ってたんですか?」
「そりゃアレだ。クソしてた」
訂正。
便所行ってた。別の用件で篭ってたわ。
てかさ、クソ言うなし。どうしてアレで止めなかったんだし。
ともあれ俺達は負けてしまったわけで、以降の試合は腑抜けた顔で見るだけだな。
次に始まった交流戦の様子を視界に収めて寛ぐ。
「ルイス」
「ん?」
呼ばれて顔を向けると、ケートス先輩が難しい顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「ちょっと一緒に便所行こうぜ」
「いやいや、さっき行きましたやん」
どんだけ捻り出すんだよ。まさか試合中も我慢してた?
「いいから来い。なんか飲み物でも買いに行きたいしよ」
「ご馳走様です」
「へえへえ、可愛い後輩に奢ってやる」
仕方ないな、付いていくか。
ケートス先輩の背中を追いながら通路を歩く。
いつもなら何か雑談でもするんだが、静かだな。
「先輩、どうしたんですか?」
「あ?」
「だってさ、あからさまじゃん」
こんな強引に連れ出すなんてさ、何か理由があるとしか思えんわけで。
するとケートス先輩は振り返る事無く答えてくれた。
「今回は相当ヤバい状況になるかもしれん」
「へ?」
ヤバいって、どんな?
「エグラフの手勢が3人消されてる」
「は!?」
消されてるって……どういう意味だよ。
手勢……殺された? ……名門勢力の生徒って意味か?
「あ~違う違う。生徒じゃねえよ」
「……ちょっと焦りましたよ」
さすがに生徒が3人も消されたって話なら大事件だし。
だが、消された者が居るってのは事実だ。
「エグラフだけじゃねえ、名門貴族の何人かは表に出してない部下を持ってる」
「何のために?」
「色々とある。情報収集だったり、陰から護衛したりだ」
ただ、情報収集のためにも顔は割れないようにしているらしい。
「その部下が手勢って意味なんすね?」
「ああ。その手勢が3人消されたんだ」
「誰に……かは分からないんですか?」
「分からんが、騎士隊長が6人も殺されてるからな」
その犯人と同一人物が、エグラフさんの手勢も消した可能性はあるそうだ。
もしかしたら別の誰かかもしれないけど、そうなると殺人を厭わない勢力が複数存在するって事を意味する。
「なんで俺に教えたんですか?」
「お前が動かなけりゃあよ、他の奴らも動かねえだろ」
そうだろうか?
「とにかくだ。人を殺すような段階にまで状況が進んでる」
「聞くだにヤバい状況っすね」
「おうよ、誰が中心にあるのか探りきれてないがな」
「探りって……ケートス先輩が?」
「エグラフが探ってんだよ。俺は情報を流してもらっただけだ」
「そっすか」
あのエグラフさんと仲が良いのは分かってるんだが、そんなヤバい話も共有してんだな。
「他に知ってる事とかあるんすか?」
「お前に教えるわけねえだろうが」
「なんでっすか!」
「余計な事しそうだからだ。もう大人しくしとけ」
……なるほどね。
ヤバい状況だから何も伝えず動くなって指示するよりかは、人がどんどん死んでるって状況まで教えて現実味を持たせてきたんだろう。
俺としては余計な事するつもりもなければ、巻き込まれるつもりもないけどさ。
「皆に危険が及んだりは?」
「確実じゃないが、何もしなければ無事に過ごせるだろ」
「……了解です」
と、無難な返事をしてから俺とケートス先輩は観戦席へと戻った。
それからは何事も無かったかのように観戦を続け、やがて対抗試合二日目は終了。
皆で所定の宿に戻ってから夕食を済ませ、シャワーを浴びてからベッドに飛び乗る。
「ん~……」
ベッドで寝転んでたら眠気が襲ってくると思ったんだが、色々と気になって全く寝られない。
だってさ、ドリポートに来てから情報が錯綜しまくってるんだ。
何がどうなってんのか、さっぱり分からん。
しかもケートス先輩からは大人しくしてろとか言われるし、俺としては元から何もなければ動きもしない、ってわけで。
「……よし!」
ベッドから降りて部屋を出る。うだうだ悩む前に情報を整理しよう。
つまりハイクだ。
あいつが今の混迷した状況下で何も考えてないはずが無い。
きっと何かしらの想定を広げているはずだ。
俺だって考えるぐらいは出来るけど、正確性に欠けるかもしれんしさ。
だったらハイクと一緒に考えたほうが効率的だし正確だろ。ひとまず起きてるか確認して、ラグとソマリも集めよう。
てなわけでハイクの部屋に行き、扉を叩く。
すると間を置かず返事が聞こえてきた。
「開いてるよ」
「んじゃ入るぞ」
そう断ってハイクの部屋に入ると、そこにはソマリとラグも居た。
「何してたんだ?」
「別に、何もしてないですよ」
……怪しい。
睨むように疑っていると、やがてハイクが諦めて溜息でも吐きそうな声を出した。
「正直に話すね」
「そうしてくれ」
「試合も終わって一段落したから、情報を整理してたんだよ」
「マジか、考える事は同じだな」
なら話は早い。さっそく俺も参加して……
「ルイスは部屋に戻っててよ」
「……なんで?」
酷くね? 俺だけ仲間外れ? 混ぜてくれよ!
てな感じに言い募ると、ソマリが強めの口調で返してきた。
「人が死んでるんです」
「っ……」
「今までみたいに気楽な状況じゃありません。下手すると怪我じゃ済まないんです」
「そういうこった。情報を整理するとな、どうしても穴が空く」
そうやって空いた情報に憶測というピースを当てはめていくわけだが、完成した全体像を見ると俺が暴走するかもしれないらしい。
「自覚してんだろ? たまに考え無しな行動するってよ」
「……おう」
たまに、って表現なのは気を使ってくれたんだろうか。
「だからさ、まだ聞かせられない。本当にゴメンだけど、冗談じゃ済まないかもしれないから」
「僕達だってルイスをずっと放置するわけじゃないんです」
「じゃあさ、いつまでだし」
「とりあえず今夜は、ですね。ひとまず情報の整理と想定を済ませます」
「そしたら全部教えてやるから。んで、動きたくなったら一緒に動くぞ」
「おぉ……」
「先にルイスが暴走したら目も当てられないですからね」
「そういう事。まずは何があっても早く判断できるようにしておきたいんだよ」
なんか……こいつら同い年とは思えないな。
「てかさ、絶対に暴走しないって約束したら混ぜてくれないのか?」
「「「ダメ」」」
「なんでだし!」
「ルイスは顔に出るから」
「うっ……」
やはり顔に出るのはバレてんのか。
「事の次第によっては、気付いてないって装う必要も出てくる」
「だからよ、教える範囲も考えなきゃならん」
「いやさっき全部教えるって」
「言葉のあやだ。察しろよ」
ぐぬぬぬぬ……なんっか納得できん!
「ほら、納得できないって顔してる」
「そりゃそうだろうがよ!」
「ルイスが無茶するなら俺達も付き合う気ではいるんだよ」
「けどな、さすがに全員が状況も知らずに動くのはマズいんだって」
「……」
「絶対に引き返すべき部分が出てきたら、ルイスを止めるのが僕達の役割です」
「無茶だろうが無謀だろうが一蓮托生だ。その準備をさせてくれ」
「……分かった」
ここまで言われては、こいつらの意志を折る事なんて出来ないだろう。
そう判断して俺は自分の部屋へ戻ろうとした。
けど、今日ケートス先輩から聞いた話を思い出したので伝えておこう。
どうせ情報は必要なんだろうから、共有しておいたほうが良いだろ。
「なんかさ、エグラフさんの手勢が3人も消されたらしい」
「……誰から聞いた情報だ?」
「ケートス先輩。ヤバい状況になりそうだから、俺は大人しくしとけって言ってた」
「他には?」
なんか尋問みたいだな。
「そういえば……俺が動かなかったら他も動かないだろ、って意味分からん事を」
「いやそれ事実だから」
え……そうなん?
「マジかよこいつ……」
「ここまで自覚ないとか逆に感心しました」
「やっぱ何も教えないほうが良くない?」
「「賛成」」
「おいっ!!」
そんなこんなで洗いざらい情報を搾り取られた俺は部屋を追い出された。
しょぼくれながら自分の部屋へと戻り、ベッドに体を投げ出す。
「なんだよ、あいつら……」
なんとも寂しい夜である。
今宵は枕を濡らして過ごさねばならないのか。
と、しばらく落ち込んでいたら部屋の扉が叩かれた。
というか、イリーナの気配だったから訪れてきたんだろう。
寂しかった俺は喜んで扉を開ける。
「おっす、入れよ」
「ふふ……散歩を喜ぶ犬のようね」
「……」
噛み付いたろか?
「はいはい、そんな顔しないの」
「で、何か用か?」
「ラグに頼まれたのよ。ルイスが拗ねてるから元気にしてやれって」
何が悲しくてラグにメンタルケアを手配されなきゃならんのだ。
てかさ、それぐらいなら混ぜろよな。
けど、どうせ追い返されるんだ。そうに決まっている。
なのでイリーナと雑談でもする事に。
ベッドに座らせ、俺は床に座って語り合う。
「ラグと何かあったの?」
「ラグってか、ハイクとソマリもだな」
「あら、あんなに仲が良いのに」
「情報を整理したいんだってさ」
「……そういう事ね」
なんか納得した表情だ。
「分かるのか?」
「ええ、ルイスが馬鹿な真似する前に色々と想定しておきたいんでしょ?」
「……ご名答だ、くそっ」
「ワタシとしては同情してあげたいけど、ハイク達だって心配ね」
「はん?」
なんでハイク達まで心配なんだ?
「だって、ルイスの無茶に合わせようとするでしょ?」
「そうか? けっこう止めてくるぞ?」
さっきは一蓮托生とか言われたけどさ、なんだかんだで俺の手綱を引き絞りそうだ。
「まあ、今日のところは諦めなさい」
「……」
「仕方ないから添い寝してあげるわ」
「要らねえよ、部屋戻れ」
「嫌よ。あなたを孤独にさせたくないもの」
……そかそか。
「本音は?」
「……落ち込むルイスを見るのも楽しい」
「お前な……」
結局イリーナが自身の部屋に戻る事はなく、やがて二人とも寝てしまった。
イリーナはベッド、俺は床である。
シーツは奪ったから、最低限の寝床は確保できたのであった。
・・
・・・
「ん……?」
体が痛い。
ん? あれ?
ベッド硬くね? カチンコチンですがな。
……と思ったが、床だった。なぜか俺は床で寝ていたらしい。
ひとまず起こした体を捻ってみると、バキボキと骨の鳴る音が響く。
シーツはあるんだが、こんな最低限の寝床で爆睡してたんだな俺は。
とりあえず、まだ早朝ってか外も薄暗いし、起きるには早すぎる。
二度寝するか。今度こそベッドで。
「!?」
先客が寝ている。
なんでイリーナが……あ、思い出した。
昨晩は仲間から冷たく扱われて寂しい思いをしてたんだ。
そしてラグから送られてきた刺客がイリーナである。
俺を慰める任務を授けられたそうで、今は俺のベッドで熟睡していた。
雑談してたら寝ちまったんだよなぁ……床で寝る羽目になったじゃんかよ。
てことで、追い出そう。
「おい、起きろ」
「……」
「お~い、早く起きろ~」
「ん……なぁに?」
薄目を開けて何用かを聞いてくるけど、寝ぼけてんな。
「ほら、自分の部屋に戻って寝ろよ」
「ぃや……まだ眠い……」
「だから戻って寝てくれよ。俺が寝れねえじゃんか」
「ぅ~……仕方ないわね……」
やっと理解したのか転がってベッドから……って、おい。
なんで奥に転がってんだし。そっちじゃねえだろ。
しかしイリーナはベッドの端に寄ってから、両腕を俺に向けて広げた。
「はぃ……おいで」
「……」
おいで、じゃねえよ!!
・・
・・・
叩き起こしはしなかったが、イリーナに何度も呼びかけていると半ギレ気味に目を覚ました。
不機嫌そうに上体を起こし、少し乱れた髪を撫で付けながら呟いている。
「そこは飛び込んでくるところなのに……」
「何をブツブツ言ってんだし」
「なんでもないわよ。もう寝ていい?」
「いやだから出てってくれます!?」
今度は俺が半ギレ気味である。
するとイリーナは欠伸をしながら部屋を出て行った。
残された俺は二度寝するためにベッドへ横たわり……すげえ良い香りだ。
「寝れるか!」
気が散るわ! って誰にでもなくツッコミながら着替えを始めると、何やら音が聞こえてくる。
耳を澄ませば窓の外からであり、少しだけカーテンを捲ってみると通りには誰も居ない。
しかし音は次第に大きくなり、すぐ向こうの角から馬車が曲がってきた。
曲がった直後に停車して、誰かが下りてくる。
「……シャロン?」
なんでシャロンが?
こんな早朝かも怪しい時間帯に起きてるなんて、よほどの理由があるんだろうか。
不思議に思っていると、やがて急いだ様子で俺の宿泊している宿に向かってくる。
そのまま玄関から入ってきたようだが、えらい静かに入ってきたな。皆が寝てるだろうから気を使ったんかな?
てことで部屋を出て迎えに行ってみれば、既に玄関を通り抜けたのか見当たらなかった。
どこに行ったんだろ……チャールスに用事でもあるんかな。
ひとまずチャールスの部屋に向かうべく階段を上っていくと、僅かに扉の開く音。
やっぱりかと思い廊下まで出ると、そこには3人の姿があった。
シャロン、チャールス、リン…………そう、なぜかリンも居た。
部屋から出てきたようで、周囲を見渡して俺に気付く。驚いたような様子も束の間、すぐに訝しげな表情になった。
「……ルイス?」
「おう、おはよ」
「おはようじゃないわよ。こんな時間にどうして起きているの?」
「いやまあ二度寝するつもりだったんだけどさ」
「……来なさい」
「はい?」
「こっちに来なさい」
小さいが有無を言わせないような声で俺を呼んでくる。とりあえず近寄ってみると、チャールスの部屋に招かれた。
「入りなさい」
「あのさ、なんでリンが」
「早く」
なんなんだよ……仕方ないので部屋に入る。
座る事もなく、立ったままだ。
「で、どうしたんだ?」
「時間が無いから手短に済ませるわ」
「おう」
「これから言う事をハイクかソマリに伝えなさい」
「?」
直接言えば……時間が無いのか。
「何を伝えるんだ?」
「信じてなかった。全て終わるまでは関わらないで」
「は?」
「これ以上は危険なの。巻き込んで……ごめんなさい」
「さっきから何を言ってんのか分からんっつの」
しかし詳しく説明してくれず、チャールスが俺に近寄ってきた。
「ルイス……」
「チャールス……」
見つめ合う二人……絡み合う視線は熱を孕んでいるようで……
じゃねえよ!
「なに見つめ……っ……!」
突然に踏み込んできたチャールスが俺の腹に重い一撃を放つ。
手加減もしてないだろう一撃は気を抜いていたのもあってか、容赦なく威力を発揮した。
「な……にを……」
視界が霞む……呼吸が出来ないほどの痛み……
蹲る俺の頭上から、苦渋に満ちたような声が降ってくる。
「すまない」
何の意味か判断できる余裕なんて無い。
俺は痛みに顔を顰めながら、頭を上げる事すら出来なかった。
ただ、シャロン達の歩み去る音だけが聞こえる。
静かに、迷い無く、扉を閉める音も聞こえてきた。
その音を聞きながら、俺の意識は闇に沈んで……
なんてな。
「よいしょっと」
俺の鳩尾を舐めんなよ。こちとら毎日のようにマリから殴られてんだしさ。
俺の意識を刈り取るなら別の急所を狙わんとな。もしくは10発ぐらい叩き込むかだ。
いやまあ、痛いのに違いはないんだけども。
ひとまず自分の部屋に急いで戻る。そして窓の外を眺めてみれば、停まっていた馬車にはチャールスが乗り込み、そのまま出発していった。
すると、どこに隠れていたのか不明だが何人もの甲冑姿が現れて馬車の後を追っていく。
「何が起きてんだ?」
こりゃただ事じゃねえな。
あの甲冑は名門の騎士甲冑だ。赤を基調として青の線が入っている……たしかフラムグラス家だな。
どうする……放っとくか?
いやでもシャロン達の様子が変だった。
かなり急いでたようだし、けど馬車にシャロンとリンは乗ってなかったよな。俺が見るより先に乗り込んでたのだろうか。
それとも別行動? それに騎士まで動いてるし、別の名門だし。
「あ~くそ! わけ分かんねえ!」
とりあえず俺は単独で動かないほうが良い。
仲間にも暴走しないか心配されてるんだし、勝手に一人で動くのはマズいだろ。
けどさ、こんな早朝に誰が……イリーナは起きてるかも。
いや待て、イリーナが一緒に行動してくれるか?
たぶんだけど止めてくるな。だったらハイク達を先に起こそう。
やっと判断を下して、俺はハイクの部屋へと向かった。
次回・・・夢想の都 衝突




