夢見島
港を出発して1時間もしないうちに、さほど広くもない甲板に佇む私の視界に一面緑に覆われた島が見えてきた。諏訪瀬曰く、この島にある研究所に案内されるらしい。
この島はどこかで見覚えがある……そうだ、一昔前は観光が盛んだった「夢見島」と呼ばれていた島だ。当時は世界最長とまで言われた「夢見大橋」によって本州と繋がり、その豊かな自然と心の現れるような景色とで観光客を集めていた。もっとも、10年前の地震により多数の死者が発生し、夢見大橋も崩落するというオマケが付いて今では無人島と化しているのだが。
そんな所に研究所を新たに建てたというのだろうか。疑問と疑惑が拭いきれないまま頭の中でコロニーを作る。けれども後戻りはそう簡単に出来ないのだろうとも同時に感じていた。それに諏訪瀬の話だと今回集められたのは私だけではないらしい。こんな話にやすやすと乗ってしまうような人とは一体どんな人なのだろう……と思ったが、私の立場だと何も言えない事に気付いて再び海面の波を眺める事にした。
「もうすぐ着くぞ。着き次第研究所へ移動する」
……そんなにゆっくりできる時間はもうないようだった。
夢見島に着いた私は諏訪瀬にただ言われるままに案内され、これまた周囲の自然や人の気配をなくした人工物から少し浮いた近代的な建物に到着した。
「ここが今日からお前が研究をする場だ。さて、まずはお前の部屋へと案内しようか」
そういって諏訪瀬は私を建物の中に入れ、そのまま先導を続ける。途中で研究室らしき部屋を突っ切ったが、そんなに設備の整ってなかった大学の研究所に通っていた私にとって夢のまた夢のような機材がいくつもあるのがすぐに分かった。
「諏訪瀬、こんな機材の購入資金一体どこから……」
私が諏訪瀬に質問しようとした時、この研究所の先客がひょこりと現れ、私に笑みを零しながらその長い黒髪が揺れる。
「あなたが久瀬 響さん? これからよろしくね」
私の今までの人生に全く無関係だった、ふわりとした甘い香りを纏うその女性の名は、晦日 亜依といった。




