港
目的のバス停に付いた。私は最低限の荷物が詰め込まれたキャリーバッグを手に降りる。目の前に広がるのは潮風が吹いてくる小さな港だった。
一目で古びていると分かるその港にも人影はない。今は漁の時期ではないのだろうか、それとも本当に捨てられた港なのだろうか……。詳しい知識がなく分からずじまいのまま、私は港へと入っていく。すると港の奥に1隻、この古びた港には似つかわしくない新品同然の船が穏やかな波に揺られているのが視界に入った。
そしてその前に立つ、黒いコートの男。
「諏訪瀬……」
私は連絡先に書かれていた名前でその男を呼んだ。
「こんな所までわざわざご苦労だったな」
私は伸びた前髪で顔を若干隠した諏訪瀬へと詰め寄りながら問いかける。
「あの日連絡した後、確かに口座へ100万円が振り込まれてた。だが……なんなんだ、あんたは一体」
「私はただの科学者だ」
こほこほ、と諏訪瀬は咳き込む。掠れて、決して健康とは言えなさそうな咳。
「だが、私は"知ってしまった"科学者だ。久瀬、お前も資料を見て"知った"だろう?」
風になびく髪の隙間から光る諏訪瀬の瞳は、私をまっすぐ見つめている。
「あれは確かに、新しい発見ばかりだった……だが何故私に? それに、あれの根拠を早く私に見せてくれ。じゃないと信用が」
「信用、できないと?」
私の言葉を遮るように、諏訪瀬は顔をぐいと近付けながら続ける。
「信用できていないのなら、何故お前はここに来た? それに久瀬、お前は私が無理やり連れてきた訳ではない。お前が自分の意志でここに来たのだ」
さあ、と言いながら諏訪瀬は船へと腕を伸ばす。
「乗れ。お前の知りたい根拠とやらを見せてやろう。0-virus……このウィルスがもたらす無限の可能性を」




