始まり
つくづく胡散臭い所に来てしまったな、と思う。
始まりは数ヶ月前の事だった。友人との待ち合わせ場所へと大学の構内を歩いていた時、その人物は突然現れた。
「月に100万の収入がある研究所で研究ができたら、どう思う?」
低くはない私の背丈よりも更に一回り大きな男が、冬はとっくに終わったというのに暑そうな黒いコートを着ていつの間にか私の隣にいた。
「……すみませんが、まだ就職活動はしてなくて」
「これは企業勧誘ではない」
その男は私の肩を持って揺さぶり……たそうな瞳を向けてくるだけだったが、それからまくし立てるように語りだしたそれは私の足を止めるには十分だった。
ああ、春だな……と私は心の中で呟いた。
しばらく男は私に向かって語り続けていたが、友人との待ち合わせがあった私はその話を右から左へと流しながら、そろそろ断りを入れて立ち去ろうとしていた。
「あの……」
「ここに資料がある。他人には見せない事、破棄はシュレッダーにかける事、もし内容に興味があるなら3日以内に、書いてある連絡先に連絡する事」
そう言ってその男は私に数枚の資料を無理やり握らせ、去った。
男が立ち去って、やっと今の出来事が頭の中で理解できるようになってきたような気がした。男の見た目も、話の内容も、どこか"こじらせて"るなという感じを抱きながら、半信半疑にすら思えないその資料に軽く目をやった。
表紙には「0-virusの細胞に対して与える影響」と書かれていた。




