暗闇の中を
日が落ちて何時間経ったのかは分からない。そもそもいつ日が落ちたのかも分からない。この研究室の蛍光灯は常に点けられ実験に最適な光源となっている。
とは言いながらも特に何もやってない私は机に今までの実験ノートを広げながら、顕微鏡を覗き込む几凪の姿をぼうっと見つめている。別に部屋に帰って休んでも良かったのだが、今日はなんとなくその気になれなかった。
几凪は顕微鏡を覗きながら、背後の藁之谷に何か指示を出している。その度に、まるで中学生かのような体躯に少し大きすぎる白衣を揺らしながら藁之谷が研究室の中を駆け回る。
夢見島、かつては観光の名所だったこの島。10年ほど前の大きな事件によって客足が一気に離れ、そのまま廃墟の無人島と化したこの島に造り上げられたこの研究所。まだ世界では知られていない調べているこの研究室。そして試験管に納められた、「0-virus」。
再生医療の全てを覆すという荒唐無稽な、それこそSFの出来事のような事が現実にそれが起こりうるかもしれない。それも私達の手によって、ここで。
私、久瀬 響を含め、たった7人のメンバーだけが世界の中でその事を知っている。ロマンに溢れているようで、全てが手探りで暗闇の中を彷徨っているようなものなのだが。それでも止めないのは、今ここにそれを起こしうるウィルスがあるという事実があるからだ。
人選ミスだろうが、人手不足だろうが、チョイスの誤りだろうが、もう変わらない。後戻りはできない。時の流れは止まらないし、止められないのだ。灯りが消え途方に暮れようとも、見えない何かに押される背中によって暗闇を突き進むしかないのだ。
この実験が正しいのかは私には分からない。きっと誰も分かっていないのだろう。しかし1つだけ言えるのは、ここにいる科学者全員が外に遊びに行きたいと言わなくなった事だけだった。




