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9話 試合

 目をパチリと開いた俺は辺りを見渡す

 魔王の姿は何処にもない。

 まさか俺を置いて行った訳じゃないよな?

 まあ、それよりも早く服を着ないと……

 気を失ってから、また全裸で寝てしまったようだしな。


「むう……」


 着替える前に俺は自分の胸をじっと見つめる。

 それにしても……この胸はいつみても小さい。

 もうちょっと大きいほうがよかった。

 せめて魔女ぐらいにデカかったらよかったんだけどね。

 揉み応えがないのが悲しすぎる。

 まあ、あの魔王は「むしろこっちのほうが好みだね」とか言う変態野郎だった。

 とことん奴の趣味とは相容れないようだ。


「そんな事をしている場合じゃないな……さっさと服を着ないと」


 散乱していた下着を着ていたその時、ふと魔力の気配がして、警戒態勢に入る。

 かなりの大きい魔力だ……

 湖のほうから近づいてくるが、まったく人影がない。

 敵は水中の中か!


「隠れてないで出て来い! 水の中で何を仕掛けるかは知らないが、このまま氷漬けにさせてやるぞ!」


 俺の警告に反応したのか、湖の中から水しぶきを浴びながら、俺の良く知る人物が全裸で飛び出して来た。

 あまりの出来事に思わずその場で硬直してしまった


 ……なんで魔王が湖の中から出てくるのさ。


「おはよう、イルビア。 そんなに僕が水浴びしていたのが予想外だったかい?」

「いや、それは水浴びじゃない。ただの潜水だろ……」


 俺が眠っている間からも数分間は水中に潜っていたって事になる。

 ……魔族の肺は化け物なのか!?


「そっちはもう下着を着てしまったのか、全裸で泳ぐのも気持ちいいからお勧めだよ」

「悪いが遠慮させて貰う。もう俺は着替えている最中だしな」


 全裸とか冗談じゃないぞ

 勇者PTで旅をしていた頃の俺ですら戦士と一緒に水浴びをする時には、下着を穿いていた。

 全裸とかありえないから……


「うーん、それは残念」


 そう言って、腕を組んで仁王立ちしながら、残念がる魔王。

 カッコいい姿も全裸の前では台無しだ。


「お前もさっさと服を着ろ!」


 全く、これだから魔族は困る。




 そして着替え終わった後、俺たちは飛竜に乗って魔王城に帰った。





「ふう……疲れた」


 魔王の国では週に一日だけ休みをとらないといけない日がある。

 なので、疲れを癒す為に俺は真っ先に大浴場で温泉へと向かい、温泉に浸かっていた。


 しかし……風呂に浸かっているのはいいが、さっきから無数の視線を感じてしまう。

 ここまで注目を浴びてしまうのは、やはり魔王の王妃となってしまった影響なのだろうか?

 まあ、祖国の広告塔として活動していた頃から、大勢からの視線には慣れている。だから、多少はリラックスが可能だ。

 だが、そんな気持ちよく浸かっている俺に、睨みつけながら近づいてくる女性が居た。


「見つけたわよ! イルビア!」


 そう言って因縁を付けるかのように、そう告げた竜族の女性。

 どうやら俺に因縁があるようだ。


「ここで遭ったが100年目よ!貴女に決闘を申し込む!」


 そう言って全裸で風呂に浸かっていた俺に突撃しだす女性。

 俺はその場でジャンプして回避する。

 そして避けられた影響でバランスを崩した女性は、そのまま温泉にダイブしてしいた。

 せめて戦う場所ぐらいは考えようよ……


「ぷはっ! 避けてないで戦いなさいよ!」

「せめて大浴場では大人しくしてくれ」


 既に辺りはざわめき始めている。

 これ以上、目立つ行動はやめてほしいものだな……

 竜族の女性は辺りをキョロキュロして、顔を真っ赤にしながら俺に睨みつけた。


「……今回は見逃してあげる。けどね……私は貴方が王妃なんて絶対に認めないんだから!」


 言いたいことを言った後、彼女はドスドスと大浴場から立ち去って行った。

 彼女もまた、魔王のスキルの影響で惚れてしまった被害者なのだろう。

 まあ代われるなら代わってほしいけどね。


 ……やれやれ。

 俺もまさか王妃になってしまうなんて、想像すらしていなかった。

 しかも魔王からの一方的な求愛。

 俺は密かに惚れていた魔女に、失恋する恐怖が湧いてしまっている。そのお蔭で全く告白すら出来なかったのに、あの魔王は堂々と告白をした。

 そして俺を無理やり王妃にさせやがった……


 魔王は俺の何処に魅力を感じているのだろうか?

 いくら俺が惚れないからって、あそこまで執着するモノなのか?

 けど、この関係が長く続くとは思えない。

 奴はスキルの影響で惚れていた女性は毛嫌いしている変わった男だ。もしも俺が本気で惚れてしまえば、スキルの影響だと感づいた魔王は直ぐに捨ててしまう可能性だってある。

 それに、勇者クリスだとバレたら、何をしでかすか予想がつかない。

 やはり、今の関係のほうがマシだ。

 だからせめて、愛人の一人くらいは増やしてほしいものである。







「やあ、アースドラゴン。僕になんの用だい?」


 図書室は魔王が趣味でかき集めた本が大量に貯蔵されている。

 この部屋に来場するには事前に魔王から許可を取らなければならない。

 今回はその許可をしないまま、アースドラゴンは図書室へ入場していた。


「魔王様。一つ頼みごとをお願いしたい……どうか、我が娘とイルビアと試合をして頂きたいて欲しい」

「それは僕の妻を傷付けてしまう危険性を知っていて、お願いしているのかい?」


 魔王は過保護とも言えるほどにイルビアを愛している。

 王妃となってしまったイルビアは、王城から勝手に出入りするのは禁止されているので、既に軟禁状態だ。


 とは言え、未だに王妃に納得していない連中を説得させるためには、イルビアの実力も示さなければならない。

 力で黙らさなければ、またイルビアに危害を加える女性が現れてしまう。


 そして魔王はある事を思いつく。

 危ない戦闘をしなければいい話なのである。

 力に自慢のある竜族が納得できる試合。

 これなら問題はない。


「じゃあ、特別に許可をしてあげよう……ただし、条件はあるけどね」











「……で、腕相撲で決着を付けるって事になったのか」

「まあね」


 戦闘すら禁止にするとか、少し過保護すぎないか?

 むしろ腕相撲のほうが厳しいかもしれない。


「相手は竜族だぞ? 力勝負で勝てる気がしないのだが……」

「イルビアなら勝てるさ」


 だが魔王は、俺に勝つと確信しているようだ。

 一体、その自信は何処から来ているんだ?


「まあ、そう言う訳だから、今日はやさしくしてあげるよ」

「結局、やるのかよ! 体力が消費してしまうから、本当に勘弁してください」

「吸血鬼の回復力なら大丈夫さ」

「それって、全く手加減をする気がないだろ……」


 そして、俺がそのまま一夜を過ごした、翌日……

 ついに決戦の舞台へと向かう。



 戦いの舞台は訓練場で行われる。

 只の腕相撲なのにかなりの観衆が見に来ているようだ。

 もちろん、魔王も両親も俺たちを観戦する為に駆けつけている。

 まあ殆どは、この城の兵士だけどね。

 既に土台も審判もスタンバイしていて、もうすぐで腕相撲が始まりそうな気配だ。



「逃げずにここへ来た事を褒めてあげるわ!」


 腕を組みながら、俺を煽って来る竜族の女性。

 名はマリアース。

 四天王アースドラゴンの娘でもある存在だ。

 力は魔族で最強の種族……

 俺もかなりの苦戦を強いられるだろうが、腕相撲は今までに誰も負けたことが無い。

 負けるのは貴様のほうだ!


「それで気が済むのだろう? ならばさっさと終わらせようじゃないか」

「何よ! その余裕ぶった態度は! 気に入らない……王妃は最強の種族である竜族こそがふさわしいの! 日差しに弱い、貧弱な吸血鬼じゃ勤まらないわ!」

「貧弱かどうかは、直ぐに分かるさ」

「そうよ!私の力を認めてくだされば、きっと魔王様は私を認めてくれるわ!」


 マリアースは力にかなりの自信を持っているようだ。

 まあ実力があるなら、戦力としては認めてくれるだろう。

 だけど、王妃になれるのはまた違った努力が必要だと思うけどね。


「そろそろ準備はいいですか?」


 仮面を被っている審判の男性が俺たちにそう質問する。


「私はいつでもいけるぞ」

「こっちも準備オーケよ!」


 既に頑丈な机に肘を立て、準備は万全だ。

 マリアースの手をガッチリ握って組み、後は試合の合図を待つだけである。


「では、カウントを始めます……さん……にい……いち……ゴー!」


「ふん!」


 俺は力の限りを振り絞って、マリアースの腕を机の土台へと叩きつける!


「えっ……!」

「あれ?」


 気が付けば大きな音が土台に響き渡り、一瞬にしてオレは土台へ叩きつけるのを終わらっしていた。

 おかしい……全然相手から力を感じなかったぞ?

 俺って、知らないうちに力が上がっていたのだろうか?


「う、嘘よ! なんでこの私が負けてしまうの!? そ、そうだわ! きっと力が入らなかったのよ!」



 相手は納得していない様子だ。

 俺もあまり実感がない。

 一瞬で決着がつくなんて予想外だな……


「残念ながら、これが現実です。素直に敗北を認めましょう。マリアース様」

「うう……力も魅力にもイルビアに負けた……く、悔しい!」






 その勝負を最後まで見ていた魔王はニヤリとほほ笑んでいた。

 今回の試合を決定した張本人である。


「どうやら、無事に勝てたようだね」

「まさか我が娘が一瞬で倒されてしまうとは……訓練場での噂は本当だったのか……」


 アースドラゴンもイルビア王妃がここまで力を付けていたのは予想外であった。

 それほどまでに我が娘の実力は本物だったのだ。


「(まあ……ちょっとだけズルをさせて貰ったけどね)」


 魔王は密かに魅了のスキルを使って、マリアースを一時的に操った。

 手を抜くように指示されたマリアースは、されるがままに敗北してしまう。

 無論、その事は誰にも気づかれないように発動させたので、一瞬の出来事である。


「おや? どうやら審判は景品をイルビアに渡すようですな」

「そんな要諦はなかったけどね。だとすると、あの審判が独断で行ったのかな? やれやれ、魔族は規則がなってないね」


 魔族は基本的にいい加減である。

 恵まれた肉体と知能も完全に持て余していた。

 そう考えると、わざわざ宝石のように輝いている景品を用意した審判はまだマシなのかもしれない。

 だが、この審判は予想の斜め上まで行動してしまった。


「では、この景品をお受け取り下さい。イルビア様」

「ふーん、景品まであるなんて、気前がいいじゃないか」


 イルビアは全く警戒せずに、その景品を受け取る。

 審判はその様子を眺め、仮面からは隠し切れないほどの不気味な笑顔が込み上げていた。


「おかしい……あの宝石は何かの呪文が施されている」


 違和感を察知した魔王はすぐさま『絶対服従』のスキルで無理やり審判の動きを封じようとする。

 だが……発動するのは、あまりにも遅すぎた。


「ふふふ……ついに捉えましたぞ! 愛しい人よ!」

「えっ!?」


 次の瞬間、審判とイルビアは一瞬にして光に包まれ、二人は消失してしまうのであった。



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