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10話 危機一髪

 謎の審判に転移された場所は魔の領域とは思えないほどに明るい。

 身体がやけに重りを乗せられたかのように不調を訴えているのは、この日差しが照らされているせいだ。


「もしかして……ここは人間の土地なのか!?」


 すると、突如に地面から、男性の声が俺に話しかけてきた。


「フフフ……そうさ。ここなら恋敵である魔王様でもそう簡単には見つけられない。でもまさか、昼間だったとは予想外だよ……」


 下を見下ろすと哀れにも床に横たわっていた審判。

 日差しの影響なのだろうか、俺よりも遥かに、衰弱していた。

 どうやら彼は吸血鬼のようだ。


「お前……馬鹿だろ」

「馬鹿とは心外だね。恋のハンターと言ってほしいな」


 横たわりながらもニカっと笑う姿は実にアホである。

 魔王にケンカを売るほどにイルビアを執着していた奴が居たとは……ある意味で危険な男なのかも知れない。

 しかし、どうしたものか……俺は魔王から逃げたかった。

 でも、ここに居場所なんて何処にもない。

 しかも、吸血鬼の弱点である日差しも照らされてしまう。

 マナの枯渇で荒れたしまった大地。生きていくには、あまりにも過酷すぎる。


 ……結局は、今の俺は魔王に依存してしまっているかもしれない。


 俺は魔王城に帰る為に、倒れている吸血鬼はほっといて、さっさとこの場から立ち去ろうとする。


「ま、待ってくれ! これほどに愛している私を置いて行かないでくれ!」

「……」


 チラっと余所見したが、無視だ、無視……って、おかしいな? 吸血鬼の馬鹿以外にもかすかな視線を感じる。しかもこの視線は殺気!?


 俺はとっさにその方向に視線を送るが、辺りは草原で身を隠す場所は見当たらない。だとすれば、魔法で隠れている可能性が高い。


「燃えろ!」


 視線を感じた場所に、俺はファイアーストームを唱える。

 詠唱時間を殆ど放棄したので威力は減少してしまうが、それでも姿を隠れている敵は何かのリアクションを起こすだろう。


 そして、俺の読みは当たる。

 敵は俺のファイアーストームを土壁で防いだ。

 炎はその壁を燃やしつくす事が無く消え去ってしまう。


 しかしどうしたものか……今の俺は明らかに不調だ。

 上級職のハンターが相手ならかなりマズイ……


「いやはや……流石は真祖の吸血鬼ですねえ……日差しの中で倒れる所か反撃を食らってしまうとは……魔王の王妃になってしまったのが実に惜しいですねぇ」


 土壁を解いた先には4つの白い翼を生やした魔導師のロープを被った男性が姿を現す。

こいつの姿は明らかにハンターではない……だとすれば魔族か!


「ベイル閣下! これはどういう事ですか! 私との愛の巣を邪魔立てはしない約束の筈だろ!」


 倒れたままの姿勢の吸血鬼はベイルと言う名の魔族に怒鳴りながら怒っていた。

 どうやら、この魔導師が裏切ったって事になるな。

 まあ、どう見ても俺を助ける為に裏切った様子ではないようだがな……


「捨て駒の分際で生意気ですなぁ……少しの間は大人しくしていて欲しいですねぇ。ストーンブレス!」

「き、貴様! この私を裏切ったなあああ!!」


 そう言って杖を床に叩いたベイルは床に倒れている吸血鬼に空から大きな岩が出現する。

 その場で動く事が出来ない吸血鬼はそのまま落下した岩に潰されてしまった。

 吸血鬼なので、このくらいでは死んでいないだろうが、強い日差しの影響で、放置すれば死亡してしまいそうだな。

 どうやら、あの吸血鬼は使い捨てだったらしい。

 実に哀れな奴だ。

 だが、今はそんな事を考えている場合じゃない。


「……で、私に何の用で拉致した?」

「いやねぇ……君には死んで貰いたいんだよ。まあ、肩書はこうだねぇ……イルビア様を誘拐した吸血鬼は哀れにも人間たちに遭遇して惨殺される……そんな悲劇的なストーリをして頂きたい」


 こいつの目的は俺の暗殺……

 普通ならこんなバカな事を仕出かす奴は居ない。

 どうやら魔王の陣営も一枚岩ではないようだ。

 


「なるほどね……殺した後は人間に憎悪を抱いた魔王が、人間の土地へ侵略させる気か!」

「そうだともぉ……魔王様は大変にお強い方だ……そんなお方がいつまでたっても、維持コストが掛かるという理由で躊躇っておられる。しかも、【絶対服従】のスキルがあるお蔭で、謀反は論外なんだよねぇ」


「貴様……そこまでして人間の土地が欲しいのか!」

「欲しいですねぇ……出来れば勇者と魔王様が共倒れになるのが一番の望ましい展開ではありますが……」


 ニヤニヤとそう告げているベイル。

 こいつは危険だ。

 こいつこそが勇者である俺が倒さなければならない本当の敵。

 警戒を最大限に上げて、俺はベイルに睨みつける。


「さてさて、そろそろ仕掛けて参りますか」


 そう言って、ベイルは杖の先端を地面に叩く。辺りの土が盛り上がり、一瞬にして数十体のゴーレムを出現させた。

 この迅速な速さ……明らかに用意周到に準備されていた可能性が高い。


「この私も舐められたものだな。この程度の雑魚が群れようとも、私を倒す事は出来んぞ」

「強がりはよすのですな。この日差しの中では、立っているだけでもお辛いででしょう……いっその事、楽になられてはいかがですかねぇ……」

「誰が楽に死んでやるか!」


 始めて感じてしまった死の予感。

 吸血鬼は不死らしいが、日差しの中で死亡してしまえば、灰となって消えるらしい。

 いいだろう……只では死んでやらん!

 何度も失った命だ。貴様の命を代償にさせて貰うぞ!






「おかしいわねえ……なんで魔族の気配が感じるのかしら?」

「なんだ? 魔物じゃねーのかよ?」


 アイリスは常時に発動し続けている『サーチ』のスキルで魔族を感知した。

 魔物や人間とは異なる反応……彼女のスキルに掛かれば、半径数十キロmのエリアでは丸裸にされた状態である。


「しかも魔族が同士討ちをしているわ。これって、どういう事なのかしら?」

「それは本当なのかい?」


 勇者クリスは疑問に思いながらも、アイリスが指した方角に向かって、注意深く魔力を感知させる。


 そして、数秒後にクリスは驚愕してしまう。


「……大変だ! 早く助けに行かないと!」


 そう言って、クリスはアイリスが指した方角へと全速力で向かってしまった。

 魔族の同士討ちならば、放っておいても問題はない。

 だが、クリスはそうは思っていなのである。

 取り残された二人はそんな状況をただ茫然と眺めていた。


「クリスがあんなに慌てるなんて……一体どうしたのかしら」

「まあ、クリスが助けに行くなら、俺たちも向かったほうがいいだろ」


疑念も持ちながらも、クリスを信じている仲間達もその現場へと向かうのであった。




「くそ! 倒しても倒しても新たなゴーレムが出現しやがる!」

「いやはや、中々しぶといですなぁ……まあ、高み見物をしながら、力尽きるのを

待ちましょうかねぇ……」


 奴は俺が不調なのをいい事に、持久戦を持ちこんでいる。

 もちろん、そんな事をさせない為にベイルに攻撃を仕掛けようとするが、無数のゴーレムに邪魔をさせられる。

 しかも破壊しても、次から次えとゴーレムが新たに生み出されていた。

 まさに、大ピンチである。


「逃げてないで勝負をしろー!」

「それは出来ない相談ですねぇ……自分は無駄な体力は消費させない主義なので……」


 力技が得意な魔族とは到底に思えない戦術だ。

 俺の体力は残り僅か……こうなったら、一か八か……あれをするしかない!?


 俺は迫りくるゴーレムの攻撃を避けながら、呪文を唱える。

 相手に悟られないように、念入りに注意をする。

 よし、後もう少しだ!


「今ですよぉ!」


 呪文を唱えるのに集中した影響で致命的な隙を俺は作ってしまった。

 避けられる場所が存在していない。

 このままでは直撃を食らってしまうのは明白……ならば準備は後少し足りなかったが、ここで使うしかない!


「エクスプローション!」

「なにぃ!?」


 攻撃範囲があまりにも広く、破壊力がある為に、遠距離の攻撃魔法として使用されていた、禁断の魔法。

 俺は自分を中心にそれを唱えた。

 その様はまさに自爆。

 俺は最小限の被害に抑える為に準備は完了している。

 敵は何もできずに爆風をモロに食らうが……無論、俺も真面に食らってしまう。









「……やったか?」


 もはや極度の疲労困憊でその場で膝を突く。

 爆発は収まり、辺りはすっかりと荒地へと変わっている。

 敵の気配が無い……無事に倒す事は成功したのか?


「……!?」


 だがその期待は脆くも崩れ去った。

 土の中から中からもりもりと盛り上がりながら、にやにやとほほ笑んでいる一人の魔族が出現する。


「いやぁ……驚きましたねぇ。お蔭でゴーレムが全滅してしまいましたぁ……まあ、これで問題なく殺せるのならば、軽い代償でしたよぉ」


 そう言いながらゆっくりと俺に近づく魔族。

 今の俺は全く動く事が出来ない。

 日差しが照る中で無理をしすぎた。

 このままではマズイ! 頼む! 少しだけでもいいから動いてくれ!


「くそ……この私を殺した事を後悔させてやる!」

「後悔? 心配しなくてもぉ……その罪は誘拐した吸血鬼の男性と人間が被ってくれますから、全く後悔はしてませんなぁ……」

「いや、貴様は分かっていない。魔王の恐ろしさを」

「負け犬の遠吠えを聞いても、全く響きませんぞぉ……ではそろそろお別れの時間ですな」


 杖の先端を床に叩いたベイルは気が付けば、俺の真上に巨大な岩を出現させた。

 あの吸血鬼の男と同じ末路をする気か!?


「ではさようなら」


 こんな惨めな死に方をするなんて、勇者でも経験………してたな。

 だが不思議と俺は絶望はしていない。

 魔王ならば、きっとベイルを倒してくれるだろう。

 俺は目を閉じて、その場で死を受け入れる。


「そうはさせない!」


 岩に亀裂が入るような音と謎の声を発した人物の出現に、俺は再び目を開けた。


「え……?」


 俺を助けた人物は、勇者クリスだった。





 間に合ったか……

 後もう少し遅れていれば、懐かしい私の肉体は死滅してしまっただろうな。

 実に危ないところだった。


「勇者様……女性を助けるのはいいのですが、そのお方は魔族ですぞぉ?我々の争いに突っ込むのは止してくれませんかなぁ……むしろ、宿敵である魔王の王妃を殺すチャンスではありませんかぁ」

「四天王ベイル……貴様は勘違いをしている。人間は魔王軍との争いは望んでいない」

「そっちが戦争を仕掛けた分際で、よくそんな事が言えますねぇ」

「身勝手なのは貴様も同じだ!魔王様の王妃である方た、イルビアを暗殺するなど許さぬぞ!」


 何故、魔王の王妃が人間の土地に飛ばされて、四天王ベイルに暗殺されそうになっているのかは分からない。

 だが一つだけ言えるのは、私を殺そうとした事。

 その事実だけは許さない!


「お、お前は誰だ?」


 私の肉体に憑依しているイルビアは驚きながらも、そう問いかける。


「私を殺したのは貴様だろう? 後は考えても分かる事だ」


 その言葉を聞いたイルビア(仮)はかなり驚愕している様子だ。

 貴様が私を殺したお蔭で、これほどに面倒な事になってしまったのだ。

 後で、この借りを返させてもらうぞ!


「まぁ勇者一人だけならば、まだなんとかなりますねぇ……魔王にも敗れ、四天王アースドラゴンに敗れた貴様が、果たしてこの四天王ベイル様を倒せますかねぇ」

「ふん、今までの勇者と同じだと思うなよ! シャドーストライク!」


 黒い影がベイルに襲い掛かるものの、直ぐに回避されてしまった。

 だがそれでいい。

 私は一人ではない。

 仲間がいるのだ。


「今だ! 叩ききれ!」

「おっしゃー! 王妃様を助けるなんて、燃えてきたぜ!」


 私の影の中から飛び出して来たのは、勇者PTの仲間である戦士ライガー。彼の剣技は勇者よりも強い。


「何ぃ! 勇者の仲間だとぉ!?」


 戦士ライガーの一撃を真面に受けようとしていたが、突如として出現させた土の壁に待貰える。だが……


「この程度の壁で俺を止められると思うなよ!」


 戦士ライガーの一振りはその土の壁を真っ二つに両断させた。

 本当に人間離れした奴だ……魔族でもそう簡単には両断できないほどの強度を持っているのだがな。


「ククク……よくぞ土の壁を切断できましたなぁ……だが手遅れです!」


 ライガーは剣を叩き斬った影響で隙が出来てしまった。

 その隙をベイルは見逃さないだろう……だが、その隙は貴様も同じだ。


「な……!? こ、これは!?」


 気が付けばベイルの胴体には大きな風穴が空いていた。

 あまりにも目には追えない程の速度で放たれた狙撃。

 遠く離れた魔女は、どうやら見事にベイルを打ち抜く事が出来たようだ。


「ほんじゃ、トドメを刺すとしますか!」

「ぐォォォ! おのれえ! 後もう少しのところで私の野望を!」


 そして、戦士ベイルの斬撃を真面に食らってしまったベイルは、呆気なく絶命してしまった。





 後始末を終えた勇者PTは、イルビアの元へと駆け寄ってくる。

 まさか、もう二度と会えないと思っていたかつての仲間達……その姿を見ただけで、涙が込み上げてきてしまう。


「貴方が魔王の王妃様なの?」


 魔女であるアイリスはそう疑問を持ちながらも問いかける。

 相変わらずの美人だな。


「ああ、不本意ではあるが、魔王の王妃として職務を全うしている」

「へえー? 魔王も随分な別嬪さんを手に入れたな」

「当たり前だ!イルビアほど美しい存在はこの世には居ない!」

「「……」」


 白い目が勇者クリスの元へと一斉に注がれてしまう。

 こいつ……自分が美しい存在だと自画自賛していたのか。


「……まあそう言う事だ。王妃を殺されてしまえば、魔王は人間の土地へ攻め込むだろうからな」

「てか、俺たちって、初めて魔王の四天王を倒せたな……」

「事前にクリスが四天王ベイルの情報を教えてくれたおかげだわね」

「奴は四天王で最弱の魔族だ。事前に対策をしていれば、簡単に倒せる」


 そう腕を組みながら自信満々にふふんとドヤ顔をしている勇者。

 もはや、確定的だろう。

 勇者クリスの正体はイルビア……

 つまりは俺の精神と肉体が入れ替わってしまった存在。

 まさか、かつて殺してしまった敵に助けられてしまうとはな。

 俺も随分と弱くなってしまったものだ……。


「その……助けてくれてありがとう」


 思わず下を向きながら、照れくさそうに言ってしまう。


「ええ、どういたしまして」


 そう言って、にっこりとほほ笑む勇者。

 流石は俺の姿を借りているだけの事はある。

 実に絵になるほどにカッコいい。


「で、この後はどうするの? まさか、王妃様を魔王に送り届ける気じゃないわよね……」

「そのつもりだったのだが」

「マジかよ!」


 戦士ライガーはかなり驚いた様子だ。

 どうやら、俺を護衛してくれるらしい。

 俺にとっても願っても無い話かもしれない。

 勇者PTは信用における人物である。

 しかも勇者クリスの正体はイルビアだ。


「その……そこまで世話になってもいいのか?」

「それが勇者としての務めでしょ? 元勇者殿」

「えっ!?王妃様が元勇者ですって!?」

「いや、軽い冗談さ」

「冗談でも笑えないって……」


 この野郎……わざと口をこぼしたな!

 流石にライガーとアイリスに知られるのは嫌だ。これは黒歴史として闇に葬らねばならない。


「では、イルビア王妃も疲労困憊で疲れただろうし、ここで休息を取ろうか」

「賛成ね」

「意義なし!」


 こうして、俺たちは休息を取ることになる。

 疲労困憊で既に意識が失いかけていた俺はゆっくりと眠りについた。



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