11話 真実
次に目を覚ました時は、既に見慣れていた夜空が広がっていた。
俺の体力も徐々に回復しているのを感じる。
やはり吸血鬼は夜行性のようだな。
「目が覚めたかい?」
そこに居たのは勇者クリス。
仲間である戦士ライガーと魔女のアイリスが見かけない。何処へ行ってしまったんだろう?
「ああ、仲間である彼らは、近くにステルス性の結界を貼っていて、視界からは見えなくなっているわ」
「……なあ、その口調はやめてくれない? まるでオカマのようで気持ち悪い」
「そのセリフをそっくり貴様に返してあげようか?」
「……ごもっともです」
しかし俺が目の前に居るのって、違和感が半端ないな。
「しかし、まさか私が魔王の王妃になっていたとはね。一体どんな誘惑を仕掛けたんだ?元勇者さん」
「ゆ、誘惑なんて仕掛けてないわ! 魔王が勝手に俺を惚れただけだ!」
思わず顔を赤くしてしまう。
魔王の好みがたまたま俺だっただけだ。
決して誘惑なんて一度も使ってはいない!
そんな様子をクリスはにやにやと見つめていた。
「なあ、俺を恨んではいないのか?」
こうなった原因は俺にある。
彼女が俺を恨んでも不思議ではないはずなのに、それどころか俺を助けてくれた。
「私は戦いに敗れた敗者だ。勝者を恨んでもどうしようもあるまい。今は現状を受け止めて、第二の人生を楽しんでいる最中さ」
「お前って強いんだな……」
「私を殺した貴様がそれを言うのか?」
俺は未だに元の肉体に帰りたいと思っていた。
かつての仲間達に会いたい。
そして、また和気藹々と魔物狩りをする日常……
だけどそれは、もう叶わない事は承知している。
「俺は魔王に何度も食われて散々な目にあっているんだぞ!」
「それほどに魔王様はクリスを愛していると言う事ではないか。実にめでたいね」
「めでたくないわー!」
こいつまでもが、俺と魔王の結婚を祝福しているだと……!?
それでいいのか? お前の肉体だぞ?
「お前もそろそろ現状を受け止めたらどうだ? 私は結構楽しんでいるぞ」
「そりゃあ、俺の仲間は頼りになるし、背中を預けられるぐらいに信用している奴らだからな」
「クリスも愛し合うほどの魔王様が居るだろ?」
「何故そこで魔王が出てくる?」
「魔王様は気に入った人物にはとても寛大なお方だ。王妃となったクリスならば、一番の愛情を注いでくれている筈だろ?実に羨ましい奴だ」
信頼できるのが魔王?
今までは全く信用なんておける存在じゃなかった。
だけど、不本意ではあるが、俺は魔王が頼りになる存在なのは感じていた。
それは信頼している事になるのだろうか?
……いかん! 俺は勇者だ。
魔王を信頼するなんて持っても他だ!
「……お前は同性の相手に愛せると思うか?」
「だが今の君は私の肉体を宿した女性だろ?」
「いや、そういう問題じゃないから……お前だって、女性に求婚されたらどうるんだよ」
「本当に愛しているのならば、喜んで結婚してやろう」
くそ、イルビアと云う人物は適応力が高すぎる!
なんで俺よりも人間との生活に馴染めるんだ?
あの戦士と魔女だって、打ち解けるまでが大変だったのに……
「はあ……俺には無理そうだな」
「まあ、時間をかければきっと君も……む!?」
「どうしたんだよ?」
「いや、微かに魔族の気配が感じた」
「まだベイルの残党が残っていたのか?」
「いや、これはまさか……!?」
クリスの様子がおかしい……俺も注意深く気配を探る……
あれ、この驚異的な魔力って、とても馴染みがある奴だぞ……まさかこれって……
その疑問は確信へと変わった。
闇の中から現れたのは、俺にとっては見慣れた漆黒の衣装を着ている魔王ジルスだった。
「初めましてと言うべきかな? 『今』の勇者クリスさん」
「魔王様……まさか貴方様がこんなにも早く駆けつけるとは思いませんでした」
「えっ……!?」
『今』の勇者……明らかにさっきの会話は聞かれてしまった。
それって、俺の正体が見破られた事になるじゃないか!?
動揺している俺に、魔王はこちらの元へとゆっくりと近づいてくる。
「どうやら反逆者は勇者が処分してくれたようだね。でもまさかイルビアが『元勇者』だったなんて僕でも思わなかったな」
「……俺に失望したか?」
「何故そう思う?」
「嫌になるだろ……宿敵の勇者に惚れてしまった事実なんて知られたら……」
「君は今の自分を自信に持った方がいいぞ、クリス」
隣に座っていた勇者クリスは、そう言いながら俺を励ます。
余計なお世話だ。
今、俺は全てを失ったんだ……
そう、今こそ俺は人類の責任を全うしなければならない。
きっと魔王は宿敵の勇者を拒絶するに決まっている。
ならばいっその事、魔王に殺された方がマシだ。
「俺を殺せ……俺は魔の領域に侵入した責任者だ」
「イルビア……君は誤解をしている」
「誤解?」
「僕が愛したのは今のイルビアだ! 過去の『イルビア』を好きになった訳ではないよ?」
あり得ない……こいつは、魔王を殺そうとした俺を好きだと言いった……
だけどその一言で俺は涙が込み上げているのを感じる。
これは、俺が渇望していた事なのか?
違う、そんなのは認めない!
「お前は馬鹿だろ……俺は魔王を殺そうとした敵だ! いつ貴様を殺すかも分からない奴を受け入れる筈がないだろ!」
「でも、僕を殺せる隙があったのに、イルビアは殺さなかったよね?」
「そ、それは俺には武器が無かっただけだ」
「往生際の悪い勇者様だ……今の君は女性だ。僕をここまで魅了させた責任は取ってもらわないとね」
魔王はそう言って、俺にさらに近づいてくる。
隣にいた勇者クリスは、空気を読んだのかそそくさと立ち去ってしまった。
やめろ! 変なムードが一気に進行してしまうだろ!
「訳のわからない魔王だな……こんなガサツで、態度も悪い、男女の何処がいいんだよ! こんな女性は、俺でもお断りだ」
俺の本性は、女性とかけ離れた性格だ。
当然だ。元々は男性だった勇者だからな。
こんな攻撃的な女性を好む奴なんて、居るはずがない。
「それがいいんですよ」
「……マジですか」
「マジです」
元男で敵だった勇者だと知っていても魔王は俺を受け入れてしまい、思わず、頭を抱えてしまう。
女っぽく口調を言えば変わるだろうか?
いや、こいつは俺が女の口調で喋った時でも既にノリノリで王妃にさせようとしていた奴だ。
きっと逆効果に違いない。
「どうして俺なんかに惚れるんだよ……少しは冷めたらどうだ?」
「冷める? それはあり得ない。イルビアが攫われた時に僕の心境が分かるかい?」
「分かる訳がないだろ! 魔王に惚れている魔族はたくさんいる。俺の存在なんて些細な問題だろ!」
「違うね。僕は絶望したのさ……あれ程に愛していたイルビアが隣に居ない事にね」
「一途な恋なんて、お前には似合わない。俺よりも魅力的な女性は沢山いる!だからもう放っておいてくれ!」
「僕が愛しているのは君だけだよ、イルビア」
そして、一気に顔が俺の元へと接近した魔王は、そのまま俺を地面へと押し倒した。
「……ん!……」
俺が勇者だと知りながらも、魔王は俺に口づけをする。
本気で求めている愛情の行為。
拒んでも、無理やり舌を絡みこんでいく。
何故、この魔王はここまで俺を求める?
魔族は悪の集団だと教えられながら俺は育った。
だから、俺は魔王が嫌いだ。
だけど敵だと知りながらも、俺に求愛を求めてくる魔王。
さっぱり分からない。
だけど、そんな俺をここまで愛してくれるのがとてもうれしい事なのは確かだった。
「ぷは……っ」
時間にして数十秒の間、口づけを交わしてしまった。
たったそれだけで、俺は体中に熱が込み上げているのを感じ取る。
既に、俺の体は真っ赤に染まっているのに違いない。
「お前は分かっているのか! 俺はお前の敵だ!人間と魔族は相容れない!」
「今は魔族じゃないか」
「そ、それはお前が俺を殺したせいだ!」
「ならば、僕は神に感謝しないといけないね……こんなにも素敵な女性に会えたのだから……」
「……っー!」
口説く言葉がいちいち俺の胸に突き刺さる。
こいつは本気だ……このままでは本当に、魔王に依存してしまいそうな愛情を注がれる。
俺は勇者としてのプライドと男としてのプライドの壁が粉々に打ち破られたかのような衝撃が襲われてしまう。
ヤバイよ……魔王の事しか考えられなくなってきている。
俺は魔王の魅了に掛かってしまったのか!?
あれは俺には効かない筈だろ!?
「ふふ……否定はしていても、身体は素直だね」
「お、おい、やめて、流石にここでやるのは……」
その後、俺は抵抗も出来ぬまま、魔王と一夜と共にしてしまった。
「くっ! 視界を阻害する呪文を唱えられたか! 魔王様め……っ!姑息な真似を……」
何かが聞こえたかも知れないが、きっと何かの気のせいだろ……多分。




