最終話 魔王の王妃になった元勇者
気が付けば朝の日差しが照らされている。
そして、俺は魔王のマントに覆いかぶさっていた。
横を向けば、魔王がすやすやと眠っているな。
まあ、一夜を共に過ごしたのだから、当然か。
「うう……日差しが強すぎてだるいな……」
やはり吸血鬼には日差しが堪える。
俺はもう、魔の領域しか住めない肉体に変わってしまったのは明らかだ。
つまり……俺は魔王と共に暮らさなければならないって事になってしまう。
以外と吸血鬼は不便な肉体なのかもしれない。
「僕もこの日差しは好きになれないね」
気が付けば、魔王も俺と一緒に目を覚ましたようだ。
実にスマした顔である。
まるで、あの夜が無かったのかのような平常心だ。
俺なんて鬼畜な魔王の顔を見るだけで熱が込み上げてくるのを感じてしまう。
なので、上手く視線が魔王に向けられない。
魔王も服を着るようだし、俺もさっさと着よう。
さっさと城に帰って忘れよう……うん。
着替え終わった後、俺は勇者PTの人達と合流した。
あれだけ敵対していたのが嘘のように、友好的だ。
どれも俺と入れ替わってしまった勇者クリス(イルビア)が説得したお蔭かもしれないな。
「では、裏切り者を始末した礼を言わなければならないね。この恩は一生に忘れない」
「ははは! 極悪人を倒すのは俺たちの仕事だからな! また何かあったら、勇者PTに依頼してくれよ!」
「あんたは、何でそんなにごテンションが高いのよ!少しは自重しなさいな。相手は魔王よ!」
「まあまあ、魔王様は私達と争う気がないから安心して」
勇者クリス(イルビア)はそう言ってガミガミと怒った魔女の怒りを鎮火させていた。
本当に勇者PTと仲良くなっているな……偽物なのに悔しいぞ!
「私からも礼を言おう。本当にありがとう」
そう言って俺も軽く礼を言った。
「君も吹っ切れたようで何よりだ」
そう言って笑顔になっている勇者クリスと握手を交わした。
確かに俺は、吹っ切れたのかも知れない。
元勇者だと言う理由で拒絶されてしまう不安があるのは確だ。
だけど、想像以上に図太かった魔王ジルスはそんな俺に全く気にも留めて居ない。
本当に大した奴だな。
「しかし……魔王は凶悪な化け物だと教えられたが……随分と印象が違うぜ」
戦士ライガーは、魔王と違和感なく解け込んでいて、拍子抜けしている様子だ。
……俺なんてそれ以上の事をさせられてしまったけどね。
「まあ、過去の魔王が、人の土地を攻めたのは事実だから仕方のない事だね。だけど僕はどちらかと言えば平和主義者だ」
「それだけ統治が安定しているって事でしょうね……争いが無いなんて羨ましいわ」
「食糧危機で、みんな必死のようだしね」
勇者クリス(イルビア)よ、他人事のように言うなよ!
確かに、食糧調達は魔女の『サーチ』のおかげで楽だろうけど、数多くの民衆は未だに食糧が食べられずに苦しんでいる。
通貨なんて、今ではゴミクズも同然だ。食糧が高騰しすぎたからな。
マナの枯渇をどうにかしなければ、今後も作物が育ちにくいに違いない。
「まあ、僕も相手側が和平を結ぶなら、可能な限りは食糧問題に協力をしてやってもいい」
「いいのか? 魔王ジルス」
「イルビアを助けた恩は忘れない。この世界の問題を解決するのなら、僕も出来る限りは支援をしてやってもいい。だけど今まで争って悪化した関係が改善させるのは、まだまだ時間がかかりそうだけどね。」
そのほほ笑みは本当に感謝がこもっているように感じる。
魔王は俺がかけがえのない存在になってしまったのだろう。
俺の正体を知ってしまっても、決して見捨てる事をせず、それどころか、ますます俺に愛情表現をするようになってしまった。
本当に、お前って変わったやつだよ。
世界一の変態だと自称してやってもいい。
その後、勇者PTとお別れを済ました後は、魔王が連れて来た飛竜に騎乗した。
今回は前の席ではなく後ろの席に乗っている。
まあ、お蔭で魔王に抱き着かないといけないんだけどね。
そもそも、飛竜を操縦するのならば、魔王は前の席でしたほうがいい。
だが、魔王はどちらでも操縦が可能と言った。
「なあ、一つだけお願いしてもいいか」
「なんだい?」
「俺はあの泉でマナ創りだしていた植物を大量に生産させる」
「マナを生み出していた植物なんてあったかな?」
「あそこだけ、マナが大量に生まれている。俺は植物にマナが生み出されているのを微かに感じた。だからきっとマナを生み出す植物がある筈だ!」
マナの枯渇を回復させる……
それこそが今の俺に唯一出来る仕事だ。
勇者じゃなくなったとしても、俺には俺のやるべき事も探さないといけない。
「フフフ……なるほどね。それが勇者としての務めだったのかもしれないな」
「確かにそうかもしれないな……」
力ずくで魔族を征服したところで、マナはますます枯渇してしまった可能性が高い。
ならば、マナを生み出す植物を探して、それを大量に生産すればいいだけの話だ
大量に生産させるのに成功させれば、そのマナを人間に安く売ればいのさ。貿易を結べば、きっと良い関係になれる。
その行動がいつ実るか分からない。
だけど俺の出来る限りはやってみせる!
「イルビア」
「なんだ? まだ城には着いていないぞ」
「愛しているよ」
「……そう言うのは頼むからやめてくれ、恥ずかしい」
その言葉を聞いてしまうだけで、俺は体が熱くなり、思わず魔王を強く抱きしめてしまった。
「だけど悪い気分じゃない」
これが恋なのだろうか?
……分からない。
だけど、この感情を表に出すのは恥ずかしい。
「本当に素直じゃないね。まあ、そこがイルビアの魅力だけどね」
「……素直になれたら苦労しないさ」
全く、俺はとんでもない相手に求婚を迫られてしまったのかも知れないな。
いつかきっと、俺はその言葉を言う時が来るかもしれない。
だから認めてやるよ……ジルス。
お前が世界で一番かっこよくて、俺の大好きな魔王だって事を――
翌日――――――――――――――――――――――――――
「おめでとう……!!イルビア!」
「なんだ?なにかいい事でもあったのか?」
寝室から、先に起きていた魔王は、なぜか俺を祝福している。
いつも以上に笑顔で気持ち悪いな。
しかも俺の腹を固執に撫でてくる。
全く意味不明な行動だ。
だが、魔王が話し出した言葉で、そんな気になる行動が一気に吹っ飛んでしまった。
「妊娠しているよ」
「…………え!?」
「いやーまさかこんなにも早く僕の子どもが誕生するなんてね。やっぱり僕達は相性が良かったようだ」
「……そ、そんな冗談は俺には通用しないからな!? だから、そんなに笑顔になるな!……た、頼むから嘘だと言ってくれー!」
だが、魔王は全く冗談を言っている様子がまるで無い。
そう言えば、オレは女性の苦しみでもある生理はまだ体験していないな。
まだ、その時期ではない可能性もあるが、妊娠すれば生理って無くなるらしい。
ヤバイ、本当に妊娠をしてしまった疑惑がますます高まってしまった!?
可愛い子どもは確かに欲しかったさ。
だけど……俺はこんなにも早く妊娠してしまうなんて思ってもいなかった。
俺には、子を産む覚悟なんて、全然持ち合わせてもいない。
魔王よ、頼むから嘘だと言ってくれ!
「嘘じゃないさ。正真正銘の僕達を受け継いだ赤ん坊がイルビアのお腹に宿っている。だから心配する事はない。ふふふ……生まれる日が楽しみだね」
「うう……いくらなんでも、妊娠するのが早すぎる……」
「毎日、愛を育んだからね。その実りが結んだんだろうさ」
当然のように魔王はそう言い放った。
妊娠が確定して動揺している俺を見ていても、実にやさしく微笑んでいる。
そうだったな。俺には魔王の子孫がお腹の中に宿ってしまったのだ。
喜ぶのは無理もない。俺だってちょっとだけ、嬉しくなってしまったのが実に歯がゆい。
魔王のせいで、超えてはいけない一線を超えてしまったのだ。
俺は女性として生きる覚悟を決めた。
だから最後まで責任は取ってもらうぞ!魔王ジルス!
最後は駆け足となってしまいましたが
本編はこれで終了いたします。
最後まで読んで下さった方々に心より御礼申し上げます。
ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました!




