『侯爵様と女中』『侯爵様の好敵手』あとがき
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最後までご覧くださり、心から感謝いたしております。
気が付けば、『侯爵様と女中』を書き始めてから4年の月日が流れておりました。
途中、他の連載を始めてしまったり、日常の変化があったりと更新が遅くなってしまうことも多々ありました。しかし、完結することができたのは、その間も支えてくださった読み手様の存在があってこそだと存じております。
*『侯爵様と女中』について
** 経緯 **
もともと、他の長編の気分転換として書き始めました。
お話は、母としていた他愛ない雑談がもとになっています。母が体験したわけではありませんが、母の友人らでこんなことがあって……というお話です。けれど、そこにはセシルポジションの男性は存在しておらず、物語であるならばバッドエンドでした。現実は残酷なもので、エステルポジションであった女性が幸せになったかは不明ですし、カイルポジションであった男性はもしかしたら今もエステルポジションであった女性を疑ったままかもしれません。そうなれば、カレンポジションであった女性の独り勝ちだと感じました。
母の話を聞いた時、私が思ったのは「せめて物語の中でも、エステルのような体験をした方に幸せになってほしい」という気持ちです。このような体験をしたことのある方は、母の友人だけではないでしょう。第三者の発言――それが善意からのものでも悪意からのものでも――によって破局することは世の中にありふれているかもしれません。だからこそ、エステルと同じような体験をした方にどんな形であっても幸せになってほしい、と願いました。
つまるところ、私のエゴです。
その後、さすがにそのまま母の話を物語にするわけにはいかない為、”疑い・裏切り”というキーワードは残して他は色々変更しました。設定を自分の萌えに合わせて中世+近代ヨーロッパ風異世界にしたり、セシル・エステル・カイル・カレンなどの登場人物を考えたりと、結果として今のような形になっています。
それでも、ご覧いただいた方に”異世界の非現実的なもの、フィクション”としてではなく、”身近にも起こりうること”として捉えていただけたらいいなぁ、と思いながら書きました。
*『侯爵様の好敵手』について
『侯爵様と女中』開始時にお話はできておりました。が、結末だけ二択――どちらもエグいバッドエンド――で迷っていました。
結果、エグい方を選択しまして、それに関して後悔はしておりません。カイルならこうするかなぁ、と思うので。一つだけ危惧しているのは、カイルが魔法使いになるのではないか……ということです。
読み手様がドン引くのではないかなぁ、と不安だったのですが、いただいたメッセージを拝読し、「この結末にしてよかった」と安堵しております。
このお話の主人公のテーマは、”負の連鎖”と”予言の自己成就”でした。その為、負の連鎖や予言の自己成就によって不安を抱いている読み手様がもしいらっしゃった可能性も考え、物語としてはハッピーエンドで希望を感じさせるラストの方が望ましかったのかもしれません。そういった気持ちがあった一方、やはりこちらのお話はスピンオフであり本編ではない、ということから初期の予定通りのバッドエンドにしました。
ネタとして、魔法使いを危惧したお話を活動報告(2012.4.18)から引用します(笑)。
『侯爵様の好敵手』より 偽 予 告 「魔法使い候補 カイル」
カイル・セドリック・ハーシェル。
二十代、独身。
次期侯爵となることが約束されている。
そんな彼には、一つだけ、誰にも言えない秘密があった。
――それは、魔法使い候補だということ。
三十まで純潔を守りぬいたその時、彼は候補ではなく、本当の魔法使いになることができるのだ。
けれど、カイルは次期侯爵。家のため、血のため、子を生すことは義務。
それでも彼は迷わなかった。
「俺は、魔法使いになる」
頑なな誓い。
――もし、彼に誓いを破らせることができるとするならば。それは、かつての彼の婚約者だけだろう。
彼に近づく政略結婚という名の陰謀。
求め続ける元婚約者は、夢の中でカイルを甘く誘惑する。
カイルは魔法使いになれるのか。
――待て次回。
(※続きません)
*連載前のプロット段階から決めていたこと
・『侯爵様と好敵手』まで書くこと……『侯爵様と女中』のみをご覧いただいた後と、『侯爵様の好敵手』までご覧いただいた後で読み手様の感想が変わるようなお話にしたいと思っていました。そんなこんなで、『侯爵様と好敵手』までのお話は『侯爵様と女中』開始時には決まっておりました。『侯爵様の好敵手』のラストのみ二択で迷い、エグいかなぁ、と躊躇っていたのですが、コメントでいただいたお言葉で踏ん切りがつきました。ありがとうございます!
・エステルのハッピーエンド、カイルのバッドエンド……私が創作活動をする際に毎度前提としてあるのは、登場人物にとっての”一生に一度の恋”や”最愛”を書くことです。ゆえに、万人にとっての大団円率はかなり低くなります。それでも、一応ハッピーエンド推奨派だったりします。
以下は、登場人物の設定についてになります。
*登場人物について
** エステル・コーネリア・クラーク
このお話をつくった経緯により、彼女にとっては大団円に近いハッピーエンドを迎えることは決定事項でした。
両親と心すっきりする和解をしたわけではありませんが、時間が解決してくれたらいいなぁ、と書き手ながら思います。
・趣味や考え方から、社交界や貴族社会から少し浮いた存在。だからこそ、セシルとカイルの救いになり得た。また、同じ価値観・倫理観(潔癖気味)であるセシルやカイルが相手だったからこそ幸せになり得た。
・倫理観においては潔癖傾向。
・マカロンとミルクティーが好物。
・お菓子好きからお菓子作りに手を出し、ハーブ栽培にも興味を示す。
なんだかんだあっても、書き手的には図太いタイプだと思っております。
** セシル・ラフェーエル・キング
・ヤンデレ予備軍。
・カイルの永遠のライバル。笑顔でのらりくらりとやりすごすけれども、それは潔癖な心を守る為の術。
・カイルと対照的であり、同じでもある表裏一体なタイプ。
・母親に「愛した人を信じぬきなさい」と教育された為、カイルと同じことがあっても信じぬくと予想される。
・裏切られたらヤンデレの才能が開花し、監禁タイプになる可能性あり。
・貴族社会に馴染んだふりをしつつも、実は拒絶している。
なんだかんだで、完結後は幸せに浸りきっていると思いますが、カイルの存在にぐぬぬ……としていそうです。
正直、内面外見共にイケメンを書こうと思ったら、内面残念になっておりました……。不思議。えんとつ萌えである、影で主人公を支えるのに報われない当て馬タイプをヒーローにしました。たまには報われてほしいなぁ、と。金髪翠瞳というのも、当て馬の定番として。
初期設定に、「自分になにかあっても、エステルには幸せに生きてほしい、と考えているけれど、エステルに『どこまでもお供します』と言われてとてつもなく喜ぶ」とありました。当時は小話にする予定だったのかもしれない……。
** カイル・セドリック・ハーシェル
・テーマは”負の連鎖”と”予言の自己成就”。エステルとの破局に至ったのは、その結果となにより自分を一番信じ切れなかったことから。
・セシルと表裏一体。
・既にヤンデレが開花しつつあるが、とりあえず「お前を殺して俺も死ぬ」タイプのヤンデレ。
・性格は、良くも悪くも真っ直ぐすぎる。自分の邪魔をする者は徹底的に潰す、かもしれない。
・「自分になにかあったら、どこまでも共にいてほしい」と考えている。
初期設定にツンデレとありましたが、ツンデレ要素は出奔したようです。
完結後は、なんだかんだセシルへの嫌がらせとエステルに近づく策を練ることが生きがいになっていそうです。今後、催しがある度にわざと出席日を合わせて「偶然だな」をやりそうです。むしろやると思います。
ヤムチャ化はせず、『ガラス●仮面』でいうところの姫川さんポジション。
**カレン・ローナ・メイナード
被害者であり加害者だと思っております。
・カイルに対しては、幼馴染以上恋人未満の感情を抱いていた。
・もともとカイルやエステルの潔癖な考えに理解を示していたが、貴族社会も理解していた。他方でそれなりに純愛な恋にも憧れていた。
・ウィクリフ伯爵に売られるようにして結婚。結婚前に脅されるように身体の関係を迫られ、少しずつ歪んでいった。助けてほしい時も助けを求められず(エステルにとって姉ポジションの自覚があり、異性であるカイルには事情が事情なので言えない)、けれど察して助けてくれず幸せそうな幼馴染二人に対して憎しみも育まれていく。エステルに対しては嫉妬・羨望から可愛さあまって憎さ100倍に。
・社交界の花だった。
没落した後は、貴族の愛人として転々としますが、そんな自分に嫌気がさし、自暴自棄で街へおりた際にウォルターと再会……するといいなぁ、と思っています。
もともとは悪役として考えていたのですが、正義と悪の二元主義が好きではないことから視点によって同情する余地のある方向へ変更しました。
**ウォーレス・アシュレイ・マクラレン(名門伯爵家の子息)
・セシルの親友だが、潔癖ではない。
・女性経験もそれなりにある。
・しかし、セシルを理解し、エステルと出逢う前のセシルを心配していた。
・エステルとバカップルになったセシルを眺めて、「アホだなぁ」と思いながら内心で祝福しつつ喜んでいたりする。
**ジョエル(公爵の末子)
・カイルの親友だが、潔癖ではない。
・しかし、カイルを理解している。
・エステルに対して、(どうしてカイルくんをもっと理解し、支えなかったのか)と思っている。
多少カイルに贔屓気味ですが、客観的な目を持っている人物として捉えています。
**ウォルター
・カレンに恋をし、彼女の為ならばなんでもできる。
・カレンに同情している。
・使用人である為、カレンの変化に気づいたものの声をかけることができなかった。叶わぬ恋を享受していたつもりだが、自分でも気づけたのに傍にいるエステルとカイルがカレンの変化に気がつかなかったことを許せなかった。
父亡き後は、街にある父の店を継いでいる……予定です。
書き手的に、こういったタイプは嫌いではありません。
**ユーフェミア(王弟の娘)
・王族であるが、王弟が愚かと宮城でも認識されていることから、王弟は公爵位を賜っていない。けれど、王から王弟は愛されているから多少のやんちゃは許されている。そんな父である為、ユーフェミアも蝶よ花よと育てられた。
・カイルとの縁談は、小さなわがままのつもりだった。が、それがどんな結末を迎えたのか少しずつ真実を知っていき、罪悪感とカイルから向けられる負の感情に絶望していく。
・もともとはツンデレ気味で童心を忘れないお姫様。良く言えば無邪気、悪く言えば世間知らず。モデルはマリー・アントワネット。
**王太子
・ユーフェミアの従兄。
・実は王弟の存在が邪魔だったりする。
・王太子としての責任や孤独感からカイルやセシルに同族意識を抱いていた。
・ちなみに、セシルとカイルのどちらかを依怙贔屓していることはない。ただ、カイルの変化が気になった。
**イーミル(セシルの弟)
・将来は学者。
・ある意味、一番の常識人。
カイルをツンデレにできなかったので、ツンデレを目指しました。しかし、似非になった気がします。
**ハーシェル家とキング家
・どちらも古い一族。
・ハーシェル家は保守派、キング家は革新派と昔から対立関係。しかし、支持している者は同じ。
・カイルの両親に関しては、夫婦でお互いに割り切っている為、愛人の有無は気にしていない。典型的貴族。一族主義で、一族の為ならばなんでもするが、自分達が不利になることはしない。お堅い系の腹黒狸一族、ゆえに古い家系として生き残ってきた。
・セシルの両親に関しては、キング家は代々ハーシェル家と似た性質を持っていたが、セシルの伯父にあたる三人が相次いで亡くなったことからセシル母が後継ぎとなり、性質が変わった。セシル母の兄三人が相次いで亡くなったことから、当時は彼女が殺したのではないかと噂され、唯一信じ、味方でいてくれたセシル父に支えられた。これが、「愛した人を信じぬきなさい」というセシルへの教育の発端になった。美しい微笑を浮かべながら、内心腹黒狸一族、ゆえに古い家系として生き残ってきた。
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