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クリスマス番外編 イルミネーション

「しかし素晴らしい。このような光の芸術は心が癒されるのぅ……」

「ほんとだね」

私と魔王の目の前には、闇夜に浮かぶ星々に負けず劣らずの輝く光の群れ。

それはトナカイだったり門だったりと、様々な形や色で形成されている。ライトの光は癒しの効果があるようで、魔王にせがまれあまり興味がなかった私でもその魅力をはっきりと身を持って知ったぐらい。


今宵はクリスマスイブ。

例年通りまたイブとクリスマスに有無を言わさずバイトのシフトを入れられた。


イベント時期にはカラオケもお客さんが多い繁栄期。けれども、カレカノがいるバイトの子達は休みをいれる。そのため、従業員は人手不足。なので、少ない人数でやることに。そのため、古株バイトで仕事に慣れている私が出る羽目に。私にも一応魔王がいるのだが……


――なぜだ。毎年、「来年はちゃんと調整するから!」と言われるのに! 店長ーっ!!


そのため、バイト前のクリスマスデートとなり、こうしてイルミネーションを見に訪れたのだ。


クリスマスのせいか、辺りは家族連れや恋人同士が多い気がする。

みんなこの光の世界を楽しんでいるようで、笑顔の人々ばかり。

そのため、ちょっとほっこり。


「あっち行ってみようか」

「そうじゃのぅ」

ここのイルミネーションも見たのでそろそろ違う方へと移動しようとしたら、「ぬぉ!?」という魔王の間の抜けたような声が届く。

これはぶつかったなと思いながらそちらへと顔を見れば、案の定「ごめんなさい…っ!」という少女の可愛らしい声が聞こえた。

こんなに人が多いのでは、肩などがぶつかる事があっても珍しい光景ではない。


「こちらこそすまぬ」

魔王にぶつかってしまったのは、灰色のダッフルコートを着た少女だった。パステルブルーのマフラーを首に巻き、それに顔を埋めている。大人しそうな子というか、控えめな印象だ。

そんな彼女の隣には、紺色のコートを纏いのマフラーを巻いた少年の姿が。

二人共高校生ぐらいだろうか? 少年の方はかなりのイケメン。


……でもなぜだ? イケメンと言えば残念という公式が浮かんでくるのは。


きっと魔王のせいだ。この少年も同じように見えてしまうのは魔界の後遺症なのだろう。


「すみません」

少年は魔王にそう告げ頭を下げた。そして隣の少女へと顔を向け、「大丈夫か? 朱音」と気遣っている。それを少女が申し訳なさそうに眉を下げながら、「大丈夫……」と返事をしていた。


――なんだろう。すっごく初々しい! 付き合う手前みたいな感じがする。


「そなたの体は大丈夫か?」

「…はい。大丈夫です。お兄さんは大丈夫ですか……? 本当にすみません……」

「余も平気だ。こちらこそすまぬ。もう少し周りに気をつければよかった」

「いえ。私の方が……あっ!」

少女はそう口にしたが、途中で声を上げてしまう。

どうしたのだろうか? と首を傾げれば、どうやら魔王の顔をぼうっと見ている。もしかしたら、見惚れているだろうか? 魔王は外見だけは綺麗系だから――


でも、隣の彼氏もかなりのイケメン。モデルか俳優ですと言われても全く違和感ないのだが。

もしかして、綺麗系が好みか? と思いながら事の成り行きを窺うことに。


「綺麗……」

そう零れた少女の声に、イケメン少年の瞳が大きく見開く。そして、魔王と少女を交互に見始めてしまった。それこそ、首を痛めるんじゃないかというぐらいに激しく。

無論、その表情は引き攣っていた。


――落ち着け、少年。


つい口にしたくなるぐらいに、彼の戸惑いがこちらにも伝わってくる。


「ふむ。確かに余は綺麗じゃ。それは余もわかっておる。変えられぬ事実」

「おい!」

謙虚さを持て。謙虚さを。


「紫の瞳って珍しいですね。見惚れちゃうぐらいに綺麗です」

そっちか少女。良かったな、彼氏。

……と、少年の方を見れば、そっと息を吐き出し安堵している。


「余の国でも、余と父上ぐらいだからのぅ。確かに珍しいな。それより、それはどこに売っていたのじゃ?」

そう言って魔王が視線で指したのは、少年と少女が手に持っている飲み物。紙コップにプラスチックの蓋がされている。


――おっ、温かそう。ホッカイロ代わりになるなぁ。


どうやらこの飲み物。結構暖を取れるらしい。現に少女は両手で温まるように握っている。

今にも雪が降りそうだというぐらいに、気温が低下しているのを肌で感じていた。

そのため、手袋をはめていても凄く寒い。あぁ、これはちょっと欲しいかも。


「えっと……あっちに……」

そう言って少女が顔を向けたのは、私達がいる斜め後方。そこには街路樹があるのだが、その隙間になんだかぼんやりとした灯が窺える。


「では、俺達はそろそろ……」

「あっ、そうだね。じゃあ、バイバイ。よい、クリスマスを!」

「お姉さん達もよいクリスマスを」

少年達は顔を緩めて会釈をすると、人の波に消えていった。


「美咲。寒いし喉が渇いたので、あそこで飲み物買ってくるので待っていてくれ」

「わかった。いってらっしゃい」

私は魔王を見送り、再度イルミネーションへと視線を向けた。






――バイトまた忙しくなるだろうなぁ。バイト後にデートの方が良かったかも。なんか今からだとバイトに行くのが面倒になっちゃうんだよね。


魔王が来るまでぼーっとトナカイのイルミネーションを眺めながらそんな事を考えていると、「桜音。もっと寄って」という声が耳に届く。何気なく自分の左側へと見れば、そこにはまだ高校生ぐらいの少年と少女が。


――あれ? あの二人どっかで……


イケメンとふんわりとした可愛らしい女の子。

どっかで会った事がある気がして、私はそちらに意識を奪われてしまう。

どうやらスマホで写真を二人で撮りたいらしいけれども、うまくフレームに入らないらしい。色々と角度を変えてやっているけど、すっきりとはまらないようだ。


「良かったら撮りましょうか?」

私がそう声をかけると、二人は一瞬目を大きく見開いた。


「いいんですか……?」

「全然構わないですよ。一緒に来た人が飲み物を買いに行ったので、ちょうど暇なんで」

「では、お言葉に甘えてお願いします」

差し出されたスマホを受け取り、「いきますよー」と声をかけてカメラマークをタッチ。カシャっという音と共に、二人の姿が綺麗に画面に収められた。


――おっ、後方のイルミネーションもばっちりじゃん。


「これで大丈夫ですか?」

撮った写真を確認して貰えば、

「ありがとうございます」

と、笑顔の二人にお礼を言われてしまいなんだかくすぐったい。

気まぐれに等しい些細な申し出を喜んでくれるなんて。

会釈した二人が去っていくと、「すみません」と背に声を掛けられてしまう。

もしかして写真かな? と思いながら振り返れば、私と年が同じぐらいの青年が二人佇んでいた。


「すみません、この辺りでカラオケってありませんか?」

「んー……カラオケって結構あるんですよね。この辺り」

「友達がいるんですが、俺達のスマホの充電切れちゃって……入口にマイクを持ったサンタが飾ってあるからわかるって言うんですが……地下にあるそうです」

あぁ、ならうちの店かな? でも、この辺りではなく駅の方向だもんな。それにこの時期だからサンタも出す店も多いだろうし。


「なんか、凄い巨乳美女が時々現れるとかで有名らしくて。確か店名が……――」

そう告げられたのは私が働く店だった。

「それ、ここじゃなくて駅前の方ですよ。ちょっと待っていて下さいね」

私は肩から下げている鞄を開けると、中からティッシュを取り出した。

これはクリスマス前に配っていた店のやつ。

そこには店名と簡易地図、それからこのティッシュをお持ちの方割引がありますという文字が印刷されている。


「これ、店のやつです。地図書いているんで、よかったらどうぞ」

「えっ!? いいんですかっ!? ありがとうございます」

「どうぞ。その地図のとおり、駅前の大通りに沿って歩いて行きます。するとたぬきの居酒屋があるんですよ。その隣に地下へと通じる階段があるのでそこです」

「たぬきの居酒屋……あぁ、あのたぬきの置物がいっぱいあるちょっと古い建物ですか?」

「そうですね。それです」

「いや~、良かった。お姉さんに出会えたのがサンタからのプレゼントかもしれません」

「そんな大げさな~」

と口にしようとすれば、「そうはさせぬぞっ!」という声が場を支配するかのように包み込んだ。


「「「は?」」」

それには全員がそちらへと顔を向ける。そこにいたのは、両手に飲み物を持った魔王の姿だった。


「このイルミネーションにも負けぬように、溢れんばかりの幸せオーラを纏ながら着飾っている娘達の中から、そこの闇に紛れても気づかぬ美咲を見つけ出したのは褒めよう! ん? それだから目立つたのか? のぅ、美咲」

「私に聞くな!!」

「まぁ、どちらにせよ、美咲は余のなのでナンパというものは駄目じゃ。確かに美咲に出会えたのはサンタからのプレゼントかもしれぬが!」

と、ドヤ顔を決めた魔王。

それに対して若干引き気味の青年達。ちらちらと顔を引き攣らせて、私の様子を窺っている。


「どうした美咲? 俯いて震えて……そうか! 胸キュンすぎて言葉が出ぬのか!」

「なんでだよ!? 前半全部不要だっ! それにこれからバイトなんだから着飾ったって仕方ないでしょうがっ! 髪撒いて綺麗に化粧してバイトでろと? この時期込むから修羅の地なんだよ、カラオケ店は!」

「美咲は何故怒っておるのじゃ……? 寒いのか? ほら、温かいミルクティーでも飲んで落ち着くのじゃ」

そう言って魔王が指し出したのは、購入して来たばかりの飲み物。

そのカップを受け取ると、一端落ち着くために口を付ければ喉元を流れる甘さと温かさ。


「彼氏さんですか? かなりのイケメンですね。俺達は、ただ道を尋ねていただけですので」

「ほぅ。彷徨い人か。それで、場所はわかったのかのぅ?」

「大丈夫です。お姉さんに伺ったので。では、ありがとうございました」

「ならばよい。気をつけて行くのだぞ!」

「はい。では」

青年達は手を振って人の波に溶け込んでいった。


「クリスマスなんだけど!? なんか、安定の流れじゃんか。闇に紛れても気づかないってどういう意味だ?」

「美咲のバイトの時間もあるから先へ行こう」

「は? ……って、確かにそうだ。バイトがーっ!!」

なんで店長毎年シフト入れるんだよ……23、24、25日って……しかも忙しい時間帯……

そのため、ゆっくりと出来ない。


「ごめんね、急かすようにしちゃって」

「よいよい。余は美咲とこうして一緒にいれるだけでよいのだから。それに美咲がバイト終わったら、余と美咲のクリスマスをやればよい」

そう言って魔王は微笑むと、私の右手を握った。


――……バイト早く終わるといいな。


私はイルミネーションに負けないぐらいに輝いて見える魔王を見てそう思った。







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