いよいよ一周年だ
ついに俺がこの世界に来てから一年が経った。長かったなあ、と特に感慨に浸ることもなく、その日は静かに始まった。
俺はいつも通り、朝起きてからみんなと一緒に朝食をとった。それからギルドに向かったが、いつも通りなのはそこまでだった。
空気を震わす低い音が響いて、町を歩いていた人たちが一斉に頭を押さえて膝をついたり、建物にもたれかかったりした。
これはあの空間の歪みのせいだな。でもここまで大規模なのは今までにないことだ。
俺がギルドに到着すると、オーラさんが外で待っていた。どうもこの人はあれに耐性があるみたいなんだよな、俺みたいに全然影響がないってことはないけど。
「いよいよ大物が来たようですね」
「他のみんなは大丈夫なんですか? 町の人にはかなり影響があったみたいですけど」
「大丈夫、全員動けますよ。早速原因を調べましょう、と言いたいところですが、その必要はなさそうですね」
オーラさんは俺の背後を見上げていた。振り返ってみると、なるほどこれは探す必要はない。
かなり遠くのようだったが、ちょっと前までは存在してなかったはずの、まるで小さめの山みたいなものが見えた。
「アレですか」
「そうでしょうね。幸い距離はあるようですから、しっかり準備をしてから出発しましょうか」
そういうわけで、俺はいったんエニスの家に戻ることにした。
ドアを開けると、顔色が良くないエニスがいた。
「エニス、大丈夫か?」
「あ、ヨーイチさん。さっきのあれはなんだったんですか?」
「いよいよ最後の大物が出てきたんだ。まもるさんは?」
「奥にいますよ」
俺が奥に入ると、まもるさんがテーブルに両肘をついて座っていた。
「まもるさん、ついに最後のやっかいごとが出てきたみたいですよ」
「そうなの。じゃあ、いかないとね」
まもるさんは立ち上がったが、少しふらついているように見えた。
「調子が悪いなら無理しないほうがいいんじゃないですか?」
「平気だって。それに、ここまできてのんびりしてるわけにもいかないし」
「そうですか。じゃあ先に行ってます」
俺がそう言って店のほうに戻ると、エニスが色々入ってそうな袋を抱えていた。
「ヨーイチさん、これを持っていってください。使えそうなものは何でも入れておきましたから」
「ああ、ありがとう」
俺はその袋を受け取った。でも、エニスは何か言いたそうに俺のことを見ている。
「絶対に、無理はしないでくださいね」
「そうしたいな」
俺はそう言って、余裕があるように見えるように笑顔を見せた。
エニスは俺の顔を見て、安心したような笑顔を浮かべた。
「じゃあ、いってらっしゃい」
俺はエニスの笑顔に送り出された。そのまま外で待っているとまもるさんが出てきたので、俺達はギルドに向かった。
ギルドの前にはすでにオーラさんを筆頭にギルドの主要なメンバーが集まっていた。
オーラさんは俺達が来たのを確認してから、ギルド員のほうに向き直った。
「さて、見ればわかる通り、今までにない巨大なものが現われました。あれが敵でなければいいのですが、そういった期待は持たないほうがいいでしょう」
そこでオーラさんは言葉を切って全員を見回した。
「ヨウイチさんとマモルさんの二人、それにセローア、ケイン、ザグ、あなた達は私と一緒にあれのところに向かいます。残りの者は町に残って守りを固めておいてもらいましょう」
そういうわけで俺達六人は町を出ることになった。
あのでかいのの近くに到着するまでに、俺はケインとエニスから渡された袋の中身を確認していた。
傷薬やら毒薬やら爆薬やら、とにかく考えられる限りの薬が入っているようだった。
「これだけあれば、必ず役に立つと思いますよ」
「できればこれを使わないで済めばいいけどな」
「そうですね。でも、あれだけのものを相手にするのにはこれでも足りないかもしれませんよ」
「かもな」
それからしばらく歩いて、俺達は山みたいな奴の全身が見える位置に到着していた。
なんというか、本当にゆっくり動く小さな山っていう感じだな。
しかも具合が悪いことに、その近くには例の謎の魔獣達がいた。どうも、このでかぶつだけを相手にすればいいわけでもないらしい。
「これの足の速さからすると、町に到達するまではだいぶ時間がありそうですから、まずはあの足元の魔獣から片付けますよ」
まあ、それがいいよな。
「ヨウイチさんとザグはここで待機。ザグはあれの情報をできるだけ読み取ってください」
「了解しましたよ」
ザグはそう言ってでかぶつを見始めた。で、俺は?
「ヨウイチさんは必要だと思えば援護に動いてください。できればあれのことをザグと一緒に観察してもらえるといいですね」
「わかりました」
さて、こいつを片付けるのにはいったいどれくらいかかるんだろうな。




