本当の始まりとでも言うべきか
それからいよいよ一年という日が間近に迫ってきた。
オーラさんの方針であの岩を過剰に気にすることはせず、直接的な被害の出る可能性が高い魔獣対策に専念していた。
でも、どれも町から離れた場所とはいえ、あの岩は確実に量を増やしていて存在感を増していっていた。
あれは本当に放っておいていいのかな。
とか思ってたけど、俺の見回りの時間がきたので、仕方なくアルラインと一緒に出かけることにした。
「しかしまあ、あのよくわかんない岩がずいぶんたくさん出てきたよな」
「そうだな。でも今は放っておくしかないだろ」
「本当にそれでいいのか? あれはやばい雰囲気がするけどな」
「でも、オーラさんの言う通り、今はどうにもできないだろ」
「そうだけど、俺は心配だよ」
俺も心配だよ。
「それはわかるけど、仕方がないさ」
それから俺達は見回りを継続したが、いきなり今までにない、長く低い地響きがした。
俺とアルラインは顔を見合わせた。
「これはまさか」
「あれかもな」
俺はそう言ってから岩が点在する方向に足を向けた。
目指す場所に到着すると、岩が震えながらゆっくり動いているのが見えた。
「なんだよあれ、気持ち悪いな」
確かに気持ち悪い。
「どうする、攻撃するのか?」
俺はアルラインの問いに首を横に振った。
「いや、様子を見よう。アルはこのことを報告に戻ってくれ」
「わかった」
アルラインは町のほうに走り出した。さて、これからどうなるのかな。
俺が岩の動きを見ていると、それは岩同士が近づくと勢いよくぶつかり始めた。不思議なことにそれはぶつかるたびに融合して、不定形の存在になっていった。
なんで岩みたいなのがそんなぐちゃぐちゃなものになるのかさっぱりわからないが、なんとも言えない不気味な光景だな。
「次元の鉄槌よ! その姿を現し我が手におさまれ!」
俺は鉄槌を呼び出してそれに近づくことにした。
ぐちゃぐちゃしたものはゆっくりとしたペースで岩を取り込んで、どんどん大きくなっていた。
というかあれってよく見てみると浮いてる。さらに尋常じゃない感じが強まるな。
しばらくして後ろから俺の肩を叩く手があった。
「これはまた大変な状況ですね」
オーラさんが大変じゃなさそうな声で話しかけてきた。
「いよいよ本番が始まりそうですよ」
俺も振り返らずに答えた。オーラさんが後ろでうなずいたのがわかった。
「そのようですね。さて、何が出てくるか楽しみじゃありませんか」
楽しくねー。
そうしているうちに、不定形の存在は直系二十メートルくらいはありそうなまるい塊になっていた。
そうなってからは動きがなくなって、静けさがおとずれた。
だが、いきなりその塊から四本の柱のようなものが突き出し、まるで足のように地面をつかんだ。
やばくない?
「この程度では最後だとは思えませんね」
確かに、最後というにはちょっとしょぼい。
「ここで止めますよ」
「わかりました」
俺とオーラさんは塊の前に出た。足が生えた塊は姿勢を安定させて町の方向に進みだそうとしている感じだった。
それにしても不恰好だし、動きもバランスもいまいちに見えるな。
まずはオーラさんが走りこんで前の足を剣で薙ぎ払った。スパッと切れることはなかったが、その一撃で塊は少しバランスを崩した。
俺はそれを追うように走って、逆の足を鉄槌で横殴りに打った。
それで完全にバランスを崩した塊は前方にゆっくりと崩れ落ちた。
オーラさんその倒れてくる場所に走って剣をかまえた。
「ハッ!」
低く鋭い気合と共に剣が一閃し、前足を綺麗に断ち切った。
うわー、あんなの切れちゃうのかよ。
切れた足はいきなりボロボロになって、その場で砂利になってしまった。これは空間の歪みに消えたりしないんだな。
おっと、こうやって見てるわけにもいかないな。
俺は少し遅れて鉄槌を塊の足に振り下ろした。鉄槌はそれを打ち砕いて、さっきと同じように砂利になった。
これで前足二本は潰したから、もうこいつはろくに動けないはずだよな。と思ってたら、足はまた生えてきそうな雰囲気になった。
俺はすぐにその生えてきそうな場所に鉄槌を叩きつけた。塊にはひびが入って、新しい足が生えるのは阻止できたようだった。
さらにオーラさんは後ろの足にも剣を振り下ろして砂利に変えていた。うわあ手早い。
これで残るのは本体だけだ。これって捕獲しても面白いんじゃないか?
「早く潰しなさい!」
そういうことなら仕方がない。俺は鉄槌をかまえて全力でジャンプした。そのまま落下の勢いと腕の力で鉄槌を塊に向けて振り下ろした。
そして、鉄槌が命中した部分から亀裂が走った。俺は鉄槌を振りかぶって、もう一度固まりに振り下ろした。
その衝撃で固まりの全体に亀裂が広まり、次の瞬間には足と同じように砂利となって崩れた。
とりあえずこいつは片付けられたってことだな。




