現われたアレだぞ
翌日、今度は昼頃に地響きがした。
俺は朝一番の見回りを済ませてエニスと一緒に昼食を食べていたので、俺とエニスは驚いて顔を見合わせることになった。
「これって、昨日もあったやつですよね」
「そうだな。今度は本当に何か起きたのかもしれない」
俺は昼食の残りを一気に食べて立ち上がった。
「ちょっと確認に行ってくる」
「はい、いってらっしゃい」
俺がギルドに到着すると、ちょうど戻ってきていたオーラさんと鉢合わせになった。
「ちょうどいいところに来てくれました」
俺としてはいいことなんだろうか。
「地響きの原因をケインと一緒に調べてきて下さい。見回りのほうは私が穴埋めしておきますから」
そういうわけで、俺はケインと一緒に町を出た。
「セローアから話は聞きましたが、ヨウイチさんはどう思ってます?」
俺はケインの質問にはすぐに答えず、少し考えてみた。
まあ、セローアの言うことが正しいっていう保証は全然ないんだけど、なんとなく俺は正しいような気がしてるんだよな。
「俺はセローアの言うことは当たってるような気がするんだ。たぶん段々姿を現してきて、時間をかけて完璧な姿になるような奴なんじゃないかな」
ケインは俺の言葉にうなずいた。
「きっと今まででは考えられないような魔獣なんでしょうね」
「できればしょぼい奴だといいんだけどな」
「そうですね」
ケインが軽く笑うと同時に、地響きがあった。
俺とケインはそれが聞こえてきたと思われる方向に足を向けた。
だが、しばらく歩いても特に何も見つからなかった。
「やっぱり音だけで探そうっていうのは無理があるよな」
立ち止まって俺がそう言うと、ケインは返事をせずに、どこか遠くを見ているようだった。
「いや、どうもそうでもなさそうですよ」
そう言われて、俺もケインの視線の先を見てみた。
あれ、あんなところにあんなでかい岩があったっけ?
「あの岩か。確かにおかしいな」
「二手に分かれて左右から近づいてみましょう」
「ああ」
俺が右、ケインが左から、その岩にゆっくりと近づいていった。
その岩には苔がこびりついていて、一見したところただの巨大な岩だった。高さは三メートル、幅は四メートルくらいか。
危険はなさそうなので、俺とケインは岩の目の前まで来てみた。
「昨日はこんなものはなかったはずですね」
「なんだろうな」
俺はそう言いながら岩に触ってみた。なんだこれ、生温かいぞ。
「ケイン、触ってみろよ」
俺がそう言うと、ケインは黙って岩に手を置いた。
「これは、まるで生きているみたいだ」
俺は一歩下がって手をかかげた。
「次元の鉄槌よ! その姿を現し我が手におさまれ!」
俺は鉄槌を振りかぶった。ケインはそれを見て後ろに下がった。
「はっ!」
軽く鉄槌を振り下ろしたが、鉄槌はわずかにめりこむだけで、岩を粉砕することはできなかった。
「思ったよりも硬いな」
俺は鉄槌を肩にかつぎなおした。
「そうみたいですね」
それから俺とケインは目を合わせた。
「これが、段々と姿を現していく、ということなのかもしれませんね」
「そういうことなら、ここで潰しておくべきだな」
俺はもう一度鉄槌を振りかぶった。
だが、岩の姿がいきなり歪んだ。いや、岩というより、空間そのものが歪んだ。
俺は鉄槌を振り下ろすのをやめて、一歩下がった。
岩はその空間の歪みに飲み込まれるようにして姿を消した。
「一体なんだよ」
俺がつぶやいてケインのほうを見てみると、ケインはその場に膝をついていた。
「大丈夫か?」
俺が声をかけると、ケインは頭を押さえながら立ち上がった。
「ええ、ヨウイチさんはなんともないんですか?」
「いや、俺はなんとも」
「ケインはさっきので何か影響を受けたのか?」
「少し頭の中に衝撃があった感じです」
そうなのか。なんで俺は平気だったんだろう。
「とにかくいったん戻ろう」
そういうわけで俺とケインはギルドに戻ってきた。
ギルドにはアルラインとザグがいた。
「やあ、例の地響きの原因はわかったのかい?」
俺とケインはとりあえず椅子に座った。
「原因らしきものはあった。まあなんか妙な岩みたいなのだったんだけど、消えたんだ」
「消えたって、どういうことなんだよ」
アルラインの疑問はまあ当然なんだが、それがわかれば苦労はしない。
「空間が歪んで、それに飲み込まれたといったところですね」
ケインが説明したが、二人ともピンときてないようだった。
まあ、あれは実際に見てもなんとも言えない光景だしな。
「昨日今日と連続だし、たぶん近いうちに直接見られるんじゃないか」
「それは是非、見てみたいところだね」
ザグはそう言って笑った。いつも余裕がある感じで、こいつも大物だ。
「俺はあんま面倒くさいことは嫌だね」
アルラインの意見に同感。