第22話【反撃】
壁の上にいる者たちは打ち上げられた緑の光に注意がいっていた。
「光弾……? オリヴィア、あれはなんて意味だ?」
その1人であるヴィクトルはその意味を知っていであろうオリヴィアに聞いた。
「好きにやれ、だね」
「任意タイミングで攻撃許可か、どうするんだ?」
彼がオリヴィアに聞く頃には光は消えていた。
「まあ、ちょうどいいタイミングがあればするよ。 でも今じゃないね」
オリヴィアは巨大な水色の球を見つめながら喋っている。 魔法を放つ時の誤差はある程度許容できるが、できるだけ少ない方がいいからだ。
「それじゃ私も下にいる方々と一緒に待つとする。 変に魔法を使って狙われたら危ないからな」
オリヴィアは少しだけヴィクトルの方を向いた。
「私、か…… 上品になったね、ヴィクトルも」
彼女にとっては昔と同じヴィクトルだったが、彼の一人称によって彼が変わっていることを感じた。 昔は自分のことを私などと言うことは絶対になかった。
ヴィクトルは一瞬彼女の言ったことが理解できなかった。 もう何年もそのように生活していた。 昔と今を照らし合わせ、ヴィクトルは自身が変わっていたことを認識して喋る。
「貴族でしかも皇帝と話すことも多い生活になれば上品さが求められるんだ。 もう完全に癖がついたな……」
「貴族にもなると人も変わるものだね」
「貴族じゃなくても大人になれば人は変わる。 全く変わってない君の方がおかしいんだ」
あの時から外見だけしか変わっていない彼女にヴィクトルは不思議な感覚を体験していた。 ヴィクトルも自由に生きていたつもりだったが、彼女ほど自由には生きれておらず、その僅かな不自由さが自分を変えたことを理解した。
「変わらないようにしてきたんだ」
「なぜ?」
「それは……まあ、後で話すよ。 暇だけど、今はそんな話をできるほど余裕があるわけじゃないからね」
そう言いながら彼女はその言葉とは反対にヴィクトルの方を向いた。
「でも1つ聞きたいことがあるんだ」
「余裕がないんじゃないのか?」
「1つ質問するくらいはできるはずだよ」
オリヴィアは彼と目を合わせて質問をする。
「君はまだ結婚していないのか?」
ヴィクトルはその言葉に驚き目を逸らしてしまった。
「そんな目を逸らすような質問じゃないじゃないか? よく聞かれるんじゃないのかい?」
「──仕事で会うような人にはよく聞かれる。 だが君がその質問をすればこうもなる」
「純粋な疑問だったんだけどね」
彼自身はその質問には慣れていた。 既に広まってしまっている噂、彼と関わった人間は必ず一度は聞くほどだ。 それが貴族であれば親族との婚約について離そうとすることもある。 皇帝に重用される彼に配偶者がいないとなればその地位を貴族が見逃すはずもない。
彼にとってもはや生活の一部となりつつある質問だったが、それをオリヴィアがするというのは特別な意味がある。
「結婚なんてしてない。 これでいいか?」
「もう少し話してくれてもいいと思うんだけど。 でもまあ、今はそれでいいよ。 それも後で話そうか」
「……面倒なことになった」
彼はこの話題を彼女にするのは避けたかったが、彼女から逃げるのは無理だろう。 この戦いが今すぐ決着が着くとは到底思えない。 何日か、あるいは何ヶ月か、どちらにせよしばらくはこの街にいることになる。 皇帝からそのように命令されていた。
「──話してる間に主役の準備はできたみたいだ」
話していた時間は長くなかったが、インペラトルはその間に邪魔なものを脱ぎ捨てていた。 インペラトルは必ず近付いてくる。 そして今最も彼女を見つけるのが困難な距離だ。
「それじゃ、始めさせてもらおうか」
彼女は自身の杖の魔法石が付けられていない方の先で魔法陣の中心を叩く。 杖の魔法石はその衝撃で杖自体の構造から衝撃を加えられ僅かな光を発した後、魔法陣から魔法石に続く光の道ができていく。
「描かれし魔術よ、お前にこの石の力を与えよう。 ただの情報に過ぎないお前の持つ力、お前の能力をこの世界に示す時だ」
石から石と同じ色を持つ青色の光の筋が魔法陣の外周に伸びる。 そして徐々に外周から内側に向かい青く染まっていき、中心へと到達すると杖に走る光も青く染る。
「術は使うものがいなければ依然として情報に過ぎない。 私がお前の主となろう」
魔法陣へと伸びていた青色の光はなくなり、魔法陣の発していた僅かな光と色は抜けていった。 全てなくなった時彼女は杖を魔法陣から離す。 だが杖に走る光は残っていた。
「私に従え」
彼女は巨大なスライムに杖を向けた。 そして杖から新しく陣が発生する。
「放て」
その言葉と同時にスライムの前に新たな陣が現れた。 だが人々が認識して間もなくそれを中心として大爆発が起きた。 爆発の煙によりスライムの上部は覆われ、どれほどのダメージを与えたかはわからなかった。
爆発の光と轟音にそれを放った彼女以外は襲われよろける。
「このタイプのはいくつも見たがやはり威力は圧倒的だな……」
「魔法陣を直接描くからできる威力だね。 人によっては展開型でもこのぐらいの威力を出せるみたいだけど──」
2人は煙の中から岩が飛んできているのを見てしまった。 まっすぐこちらへ向かって、高速とは言えないが煙によって気付くのが遅れてしまった。
「──っ!?」
「オリヴィア!!」
岩は彼女の前に壁に当たり半分なくなったが、もう半分は彼女に向かい続けた。 だが彼女に当たる前に突然現れた半透明の壁のようなものに当たったが、防ぐことができずに彼女に当たってしまった。
「クソっ!」
ヴィクトルは防御され何個かに別れた岩を退かし埋まった彼女を引っ張り出す。 だが彼女の意識はなかった。
「オリヴィア!?」
彼はオリヴィアの身体を揺らしたが反応はない。 最悪の事態を考えてしまったが、彼にはまだ冷静さが残っていた。 彼女の口元に耳を近付け呼吸を確認する。
「……生きてる、大丈夫だ」
彼女は呼吸をしていた。 そして大きな外傷もない、衝撃で意識を失っているだけだろう。
「おい、そこの! 彼女を安全な場所に運んでくれないか!」




