第十九話【発見】
「バカデカいスライムを見たら教えろって言ってたが本当にそんなのいるのかねえ」
フレストブルグの市壁から少し離れた丘の上に二人、大量のスライムとゴーレムが戦場に向かっているのを見る男がいる。
「いなかったらこんな依頼されないだろ」
「何百年も前に現れたって言うんだろ? そんなの本当かどうかわからないじゃないか。 だいたい、ここのスライムは肉食ですらないんだぞ?」
彼の言っていることも正しいだろう。 スライムと共に進むゴーレムがいなければ。
「肉も食うって聞いたぞ、何でも食うんだろうあいつらは。 赤くないから大した量ではないんだろうが」
「食うっつったって貧弱なスライムじゃ狩りできないだろ? 残り物を探すとしても、あいつらじゃ同じものを目当てに来たやつに狩られちまうのがせいぜいだ」
多くのスライムはその生態的地位は最下位だが、移動が遅いという特徴を補うために植物のみならず動物性の食物も取ることが一部で知られている。 だが菜食主義であるのは確かで、昆虫や小さな動物を栄養源とするようなことは滅多にない。 もしそのような状態のスライムがいるなら、スライムが移動した跡がくっきりと見えるほど無差別な食事を行うだろう。
「それはそうなんだが、一部……ちょうどそこにいるキングなんかは身体が大きくて強いのも確かだ」
スライムの群れにおけるリーダーであるキングは他のスライムより多少賢い程度の知能しか有していないが、その体格からキング単体では外敵と呼べる生物はほとんどいない。 稀に自身の身体を平たく伸ばし、部下を囮にして捕食者を逆に狩るといった行為も行うキングは──そのようなことを全ての個体が行うかは不明ではあるが── 一般的なサイズの孤独型と群生型スライムに比べ肉を食らう機会は多いだろう。
「ん? そういやキングクラスが通るのは初めてだな」
先程まで戦場に向かっているキングは確認できなかった。 大量のゴーレムは見たが、大きいスライムはいなかった。
「あれも武装してるな…… 下手すりゃゴーレムより厄介だろ」
「俺たちが直接相手にする訳じゃないが、あんなに固められたキングなんか相手にしたくはないな」
キングを仕留めるのはこの地域の冒険者にとって腕試しのようなものだ。 通常のスライム同様明確な弱点は一つだけ、それも通常のスライムの何倍も大きく、人一人かそれ以上の全高を持つスライムだ。 探すのは簡単であってもそこに至るのは困難だ。 抵抗するキングのパワーは凄まじい。
「例のスライムはあれの何倍もあって、装甲まで持ってるかもしれないと考えると近接戦闘なんかしたくねえな……」
「もしかすると大きすぎて逆に人間を捉えられないかもしれないぞ?」
「攻撃が当たらないからってなんだよ。 こっちは攻撃は当たってもダメージが通らないんだぞ」
キングですら冒険者のよく持つ武器では大したダメージを受けない。 ポールウェポンを使わなければ行動の阻害すら難しいが、ポールウェポンは取り回しが良くなく、更に重いため冒険者の大多数は好まない。 兵士ならともかく、機動力を重要視する傾向のある冒険者たちにとっては邪魔なのだ。
「パイクでも通用するかどうか……」
「的確に弱点を突かないとパイクの端を持っても無理だろうな」
彼はスライムの行進を眺めながら言ったが、何か違和感があった。
「なあ、あそこの岩さっきまであんなところにあったか?」
もう一人が彼が指した場所を見る。
「う〜む……あったようななかったような…… でもスライムなら他の奴と同じで本体が見えるんじゃないか?」
「まだわからん、仮に例の奴だとすれば他のスライムより擬態を優先するかもしれん」
あまりにも大きく、もし生物が擬態しているならすぐに気付くような20mはある岩ではあるが、インペラトルの大きさは記録ではキングの十数倍。 擬態すればあれほど大きくもなるだろう。 それにしては中身が空洞だとしても小さいが。
「言われてみれば動いてる気がするな、微妙にだが。 まだ奴と決まったわけじゃないからもう少し観察する必要があるぞ」
「あれだと大きめなキングが入ってるだけかもしれんからな」
豊富な栄養を得たキングは大きくなる。 他の生物と同じだが、それらと違って脂肪を蓄えるのではなく構成個体を増やす方向にエネルギーが行く。 そのため人間1.5人分の大きさになる場合もある。 ただし、この大きさというのは最低限の形状維持を行っている状態、つまり一般的なスライム像である多少潰れた球体での全高であり、強い個性を持つスライムのように特定の形状を維持し続けるキングであった場合──形状にもよるが──これより全高が高くなっていくだろう。
要するに、かなり大型のキングである場合、あの岩の中に入り移動することも可能だということ。 ただし完全に内部に入っている場合岩が地面と接触してただでさえ遅い速度は更に遅くなるだろう。
「確かにあの岩は動いてるみたいだが、何か……変だぞ?」
彼は岩が動いていることは認識できたか、他にも何か異常な状態であることを感じていた。 だがそれの正体を特定するのはそう難しいことではなかった。
「こいつは予想外だ…… あいつ地面を背負って動いてやがる」
彼らは岩の中にスライムがいるものだと思っていた。 だがそれは違った。 キングの少なくとも十倍以上はあるとされているインペラトルがあのような小さな殻に収まるはずがないのだ。
スライムは岩とその周りの地面ごと背負っていた。 その桁違いな大きさに2人は驚きというよりは困惑を感じた。
「……見てる場合じゃない、狼煙を上げたらすぐにここから離れるぞ」
「ああ……」
火をつけてスライムの集団とは逆方向に彼らは走った。
敵の歩兵部隊を発見!(ついでに親玉も) ようやく登場したインペラトルさん(なおめっちゃ遠い)
次回は別にインペラトルと戦うことはないです。




