第十八話【爆ぜよ】
「どんどん来るな。 代わりがいくらでもいるのは厄介だ」
騎士の一人がスライムの装甲を叩き割りながら言った。
戦況は優勢、だがスライムは援軍、主にゴーレムを送り続けている。
「それにしても、なんか小さくなっていってないか?」
「確かに、明らかに最初のより小さい」
巨大なゴーレムを作るのは大変なことだろう。 人の作るイミテーションと違い、多少の加工はされているがほとんど自然物で構成されたスライム・ゴーレムは適切な素材を見つけるのすら難しい。 生産コストを低下させると小型化するのも当然だろう。
「小さいってことは攻撃も通りやすいってこった!」
「代わりに小回りが利く、気を付けろよ」
「言われるまでもない、油断大敵はみっちり叩き込まれてるからな!」
「……もう少し静かに丁寧に喋るようにも教わったはずだぞ」
彼はため息をして小声で言った。 聖職者ではあるため礼儀作法の教育は当然行われているが、純軍事的組織である騎士団においてそれがどれほど効果があるのかはわからない。 多少性格が荒くとも許容されているためこのような一般的な聖職者像とは異なる者が多い。
邪魔なスライムを排除した騎士たちはゴーレムに向かった。 ゴーレムと交戦中の騎士と冒険者は多くいた。
「フンッ!」
ゴーレムと戦闘していた騎士の一人が攻撃を当てる。 しかしまるで効いていない。
ゴーレムの反撃が来るがダイブして躱す。
「危なかった。 小さくなると隙間を狙うのも難しいな。 これだけ動いてると援護も難しいそうだな」
追撃は来ない。 誰かに注意が向いているのだろう。 この完全に無防備な状態で攻撃を食らえば重装備な騎士でも死んでいたかもしれない。
小型ではあるがその装甲は厚い。 大型の武器でなければダメージも与えられないだろう。
彼は起き上がって自分の剣を拾い、腰のベルトに差す。
「だがこの大きさなら俺の魔法も効きそうだ」
だが分厚い装甲も強力な魔法には耐えられない。 大型であれば魔法も大した効果はなかっただろう。 分厚すぎるからだ。 だが、このサイズであれば魔法が通用しないほどの装甲を今の機動力を保った状態で持つのは不可能だ。
「脚力補助:30秒」
騎士はとても重いアーマーを身にまとっているとは思えない速度でゴーレムに接近する。
身体強化魔法、これは重装備である騎士達にとって必須と言える。 魔法と銃弾、この2つを防げるアーマーと複数の武器を装備しながらある程度の機動力を確保しなければならない。 だが素の状態ではそれは不可能だ。 訓練によって強靭な肉体を持っている騎士であっても歩くだけで体力を消耗する。 それを身体能力を魔法で強化するという実に単純な方法で重装備の戦士は解決した。
幸い身体強化は腕を使い指向性──魔法の発動する場所の指定を行う必要がないため、片手が塞がるという魔法の致命的な欠点は身体強化にはなかった。 だが魔法を持続的に発動し続けるのは術者の持つ魔力、訓練、そして戦闘中であっても発動するために魔法が発動するための情報を送り続けなければならない。 つまり洗練された動きが困難だった。
その欠点をなくすために重要な役割を持つ胸当て、両足の大腿部プレートには身体強化の効果を持つ魔法陣が刻まれるようになった。
魔法陣によって発動する効果は同様の効果を持つ、通常の魔法と重複する。 併用すれば素の人間が身体強化を行った時と同等の速度で動けるようになる。
「ほッ!」
騎士は大きく飛び上がった。 高さはおよそ1m、彼の頭はゴーレムの腹の辺りと同じ高さだ。 とても人が出せるジャンプ力ではない。
彼の行った魔法は時間制限付き、制限時間はあるが先述した欠点、情報を継続的に送る必要がなくなる。 時間制限型は扱いが難しい。 時間感覚が正しくなければ効果時間があと何秒あるかもわからない。 そして個人差はあるが長すぎる時間の設定はできない。 高度な訓練を受けた彼のような騎士でも使いこなせるのはほとんどいない。 だが効果が切れる前に戦闘を終わらせれば関係のない話だ。
「杭」
両腕から木の杭を打ち出しゴーレムの両足を固定した。 足の装甲を貫かれた訳ではないが、足首の隙間に杭が刺さっている。 こうなればゴーレムはそう簡単には動けない。 装甲が邪魔で装甲の内側にある本体を上手く抜くことができないのだ。 装甲が破壊されようとゴーレムは動けるが、装甲をそのまま固定されれば形を持たない半流体であっても動くことは困難だ。 人間に例えれば靴がきつく締められて抜けないという状態だ。 外見的にはそれよりも酷く見えるが、このゴーレムにとって本体が多少ダメージを受けたところで大したダメージではなく、それよりもこの杭も靴を脱ぐことの邪魔をしていることの方が問題だ。
「倒れろ」
杭を胴体に突き刺す。 杭は貫通せずにそのエネルギーが衝撃として伝わりゴーレムが後ろに倒れる。 動きを制限されたゴーレムはすぐにその杭を掴み抜こうとする。
「打て」
言うまでもないが杭というのは打たれるものだ。 杭状の尖った物体を射出する魔法は一部の冒険者も使うほど扱いやすいものだが、杭本来の役目で用いられることはほとんどない。 攻撃魔法として使用されるこのような魔法は基本的に打つ前に対象は破壊されてしまう。 だがゴーレムのような硬い装甲に覆われた特殊な存在、あるいは城壁のようなものを目標として使用する場合は目標を破壊するために衝撃を与えられる。 打たれる度に内側に深く刺さり、硬い装甲であればその内側へダメージを与える。
3つの杭は見えない何かに4回打たれ全てが地面に深く刺さるとゴーレムは腕以外を動かせなくなった。 杭はそれほど大きくなく、致命傷を与えることは期待できない。 だが拘束するには十分だ。
「うおっと! 鎧着たままジャンプなんかするもんじゃないな」
着地と同時に体勢を崩してしまった。 常人では動けないほどの重量であれだけの大ジャンプをすれば体勢を崩さない方が難しいものだろう。
「腕も拘束するべきか。 岩」
暴れる腕を拘束するために岩を作り出し固定する。 重り使うのは最も簡単な拘束方法だ。 魔力の消費も比較的少ない。 問題はよく動く敵には扱いずらいことだが、幸いゴーレムの可動域はそれほど広くない。
「……一体にこんな魔力消耗してたらキリがないな。 とはいえこれでこいつはもう冒険者でもやれるようになったわけだ。 あとは任せよう」
騎士は走り次の敵に向かった。
「うおっ! 何回やってもこの感覚には慣れないな」
一瞬体勢を崩したがすぐに立て直して走る。
「トドメ刺していかないんだ。 まあ、仕事なくて退屈してたからちょうどいいけど」
騎士が去ったのを遠くで見ていた冒険者がゴーレムに近付く。
「やっぱり本物とは結構違うね。 隙間も大きい。 やりやすくて助かるけど」
彼女はゴーレムの首元に近付く。
「見事な拘束だ。 やっぱ騎士様は凡人とは全然違うね」
彼女はゴーレムの体に触れようとするが、すぐにゴーレムが暴れて手を引く。
「おっとと……早いとこすませないと抜け出しちゃうな」
ナイフを取り出し首元の隙間に刃を入れる。
「痛いかもしれないけど暴れないでよ〜? って言っても無駄かな」
ナイフをより深く入れていく。 その間ゴーレムは暴れ続け抵抗していたが満足に体を動かせず首を振るのが精一杯だった。
肘まで入る深さの傷を作ると彼女はナイフをしまい、かばんから玉を取り出した。
「着火」
玉の上部に魔法で火を付けて傷の内側に入れていく。
奥まで玉を入れると腕を抜きゴーレムから離れる。
「やった後だけど上手くいくかな。 魔法石使った方がよかったかも」
数秒経ったが何も起こらない。
「あちゃ〜、やっぱだめかな」
彼女がそう発した瞬間爆発した。
「うわあっ!? そんなタイミングいいことあるんだ!? まあでも、上手くいったみたいだし良かった」
爆発したスライムに近付いて仕留めきれたかを確認する。
通常のゴーレムは心臓は1つで破壊してしまえば
「おい!! 爆弾女ー!!!」
後ろから彼女を呼ぶ声が聞こえた。
「こんなところにいやがったか」
息を切らしながら男は言った。
「もしかして探してた?」
「そうだよ。 勝手にフラフラ消えやがって……声ぐらいかけろ」
彼の声には呆れを感じる。
「でも見つけたじゃん」
「爆発なんか起こすのはお前ぐらいだからな。 自分がどれだけ非力なのかわかってんのか?」
「わかってる、だから護衛として君がいるんだし」
「護衛対象が護衛から離れるんじゃないよ。 スライムじゃなかったらどれだけ危険だったか…… そうだ、今度離れたら爆発させろ。 そうすればすぐに見つけられる」
「はいはい」
彼女はその言葉を聞き流し、彼の手に持っているものに注意がいった。
「ねえ、それは?」
「これは騎士団の偉い人から貰った食料……らしい。 好きな時に食えと言ってた、中身はわからん」
彼は彼女にそれを渡す。 紙のようなものに包まれていて中に何があるかはわからない。
「なんなのか聞いてないんだ」
「お前を探すので忙しかったからな。 戦闘中の僅かな時間でもエネルギーが確保できるようなものというのは聞こえたが」
「ふーん」
包み紙を剥いて見てみると、中身のそれは所々光を反射する粉のようなものが含まれているがチーズとビスケットだった。
「飲み物ない?」
「ほら」
「ありがと」
飲み物を受け取った彼女はビスケットを口に入れた。
「ん〜??」
「どうした」
口の中のものを飲み込んでから話し始める。
「これ、魔法石入ってるね。 これなら確かに短時間でエネルギーが確保できる。 魔力含めて」
「騎士ってのは贅沢だな」
魔法石は種類にもよるが一部のもの以外は高価なものだ。 潤沢な資金がある騎士団だからこそ戦闘に惜しまず使用できるが、一般的な冒険者たちにとってはできれば使用を避けたい消耗品だ。
「粉だし、私たちぐらいでもできると思うよ」
「どうやって削るんだよ、それに魔法石はだいたいお前のかばん行きだろうが」
「だって私しか使えないし」
チーズを頬張りながら彼女はそう言い、飲み込んで続ける。
「でも魔法石にばっかり頼ってる訳じゃないんだし、やれると思うんだけどね」
「爆弾も高いんだぞ、お前のそのかばんの中身を合わせたらいくらになるんだか」
爆弾を好んで使う人間は多くない、単純に高いのも理由の一つだが、消耗品であるにも関わらずそれなりな大きさを持つのも嫌われている。 同じ消耗品であっても魔法石は複数回使用でき、更に様々な用途に使えるが爆弾は一回限りな上用途も多くはない。 そもそも爆発は大抵の生物相手にはオーバーな火力であり、発破以外では費用に見合わない。
「その支出に見合う仕事は受けてるつもりだよ」
「それだけ危険ってことなんだが……」
彼女は飲み物を飲んで喋る。
「君は強いんだから並大抵のことは何とかなるんじゃないの? 今までと同じで」
「誰のせいで強くなったんだかな。 食ったんなら次行くぞ」
「あっちょっと待って」
彼は歩き出そうとするが彼女が待つように言った。
「次行く前にやることがあってさ」
「なんだ、この残骸にまだ用があるのか?」
「ここにいると邪魔なのは確かだけどもうこの子には用はないよ。 君には言ってなかったけど公爵から依頼があってさ……」
タイトルになってる爆弾女さん半分ぐらいしか出番なかったですね、ちなみにあの人普通の魔法使えるのでただの趣味です。相方の方は使えないですけど。




