第十七話 【帝国の魔術師】
「氷杭」
こりゃ凄い。 この世界の魔法はあんなのもできるのか。
ゴーレムもすぐに倒されていくのはさすがの火力といったところか。
「さすがは戦略兵器と呼ばれるだけのことはある」
「そんなこと言って、公爵閣下の方が私より魔法の扱いは上手いでしょうに」
「お世辞はいい。 私のは父から受け継いだもので、あなたのように多くを学んだわけではないからな」
戦略兵器なんてすごい異名だな。 というか誰なんだ? この人は。
『よく分かりませんがすごい人というのは確かです。 公爵がああなってますし』
そもそもまともな魔法使い見るのも初めてだな。
「……それで、あなたは何をしにここに?」
公爵にとっても予想外の来客か。
「たまたまこの街にいたので、依頼を受けただけですよ」
「たまたま、か…… 契約的に問題ないのか?」
契約っていうとどっかに雇われてるのか。 まあこんな魔法使い雇われてない方がおかしいか。 平均がどんなのかは知らないが。
「さあ、どうでしょうか。 一応これでも冒険者ということになっていますし、契約には帝国の為に働けとは書いてあっても他の依頼を受けるなとは書いていません。 それにこれも帝国のため、と言えるでしょう?」
帝国が雇った魔術師とは驚いた。 そりゃ公爵も敬意を払うわ。
「否定はできないな」
「そういうことです」
帝国もスライムなんかに滅ぼされたくはないだろうからな。
「しかしスライム達がここまで進歩しているとは予想できませんでしたね。 それと、向こう側の人がいることも」
「……ん? どうして俺が向こうから来たのがわかったんだ?」
「噂が広まるのはどんな魔法よりも早い、なんてこの世界では言うので。 聖職者もついてますし、すぐにわかりましたよ」
噂は光より早く広まるなんて言うがこの世界ではそういう表現なんだな。
「私は帝国の魔導士、ヴィクトル・テオ・ラルフ・フォン・デュートリクス。 帝国に雇われた"護国魔導士"の一人です」
職はよくわからんが貴族ではあるらしい。
「帝国が戦争になったら駆り出される魔法使いの一人と言えばわかりやすいでしょうかね。 とは言っても帝国自体が戦争になることは少ないので、普段は魔法使いの育成ぐらいで暇なものですがね」
それは暇と言えるのか? ただある程度余裕があるのは確かだ。 なかったら今こうしていなかっただろうからな。 なんかこういうファンタジーだと師弟関係が多い気がするんだがそうじゃなさそうだ。
「デュートリクス伯…… あなたは確か領地も持っていたはずですが」
レナはさすがにこの人のことを知ってるみたいだな。 それにしても爵位だけじゃなく領地まで持ってるとは。
「あそこは弟に任せています。 元々私は貴族の生まれではないですし、魔法の研究ばかりしていた私より経営能力は弟の方が高い」
魔法一筋で貴族になったって感じの家か。 この世界ならではと言った感じだ。 まあ、大抵は貴族じゃなくて冒険者になるんだろうが……
『貴族になれるのも護国魔導士みたいな、国に認められたひと握りの実力者だけでしょうから。 冒険者は特に縛られるものがないのでそれに憧れる人も沢山いるんでしょうね』
「なあレナ、伯爵について教えてくれるか」
「私も詳しくは知りませんが……」
伯爵めっちゃ若いし、貴族になったのもつい最近だろうから情報少ないのは仕方ないか。
「伯爵は自由農民の出身です。教会の影響圏ではあらゆる人に自由が保証されてるので、生まれは一般的ですね」
近世前半も前半なのに自由が保証されてるのは驚きだな。 そりゃあんなでけえ市場もできるわけだ。
「幼少期のことはほとんど知られてませんが……先程言ったことを考えると魔法のことばかり考えていたのではないでしょうか」
「じゃなきゃ貴族にまで上り詰めることなんて難しいよな」
「そうですね。 貴族になったのはつい数年前らしく、私も噂で"平民出身の魔法使いが貴族になった"というのを聞いただけでした」
本当につい最近じゃねえか。
「それと、どこから来た噂なのかは知らないですが平民時代からの婚約者がいるとかなんとか……」
なんか、そういう設定のあるやつ見たことあるぞ。
「その婚約者が見つからなくて未だに結婚していないなんて言われてます。 実際結婚はしていないみたいですが……」
「平民から貴族に、結婚するなら昔婚約した人とって俺の世界の物語にありがちな話だな」
「昔話みたいだとはその噂が流れてた頃に言われてましたね」
そんな昔話あるんだなこの世界というかここは。
『人の考えることっていうのはどの世界でも似たようなものということですよ』
まあ、違いは魔法の有無ぐらいだからな。
「せっかくだ、帝国が今回の件についてどう考えているのか聞かせてもらおうか」
伯爵が狙えるくらいの敵がいなくなり余裕ができたのを見て公爵が喋った。
「いいでしょう。 とは言っても大したことはないですが」
情報は伝わっちゃいないだろうから派兵とかはないんだろうが……
「陛下はスライムが大増殖した時点でこうなるのを憂慮されていました」
「当時はただのスライムでしかなかったはずだが…… その時には皇帝はインペラトルが再来したかもしれないと?」
「ええ、陛下の家系はレギオンによって一度滅びかけたと幼い頃から伝えられていたそうですから。 もう300年も前の話なので多少誇張は入っていたらしいですがね」
恐怖が強すぎるだろ。 何があったらそこまでなるんだ?
「もちろんその時は偶然だと臣下に説得されましたが、日に日に勢力を増すスライムは偶然ではすまなくなっていきましたが、公爵閣下も知っての通り公国は他の領邦よりも聖地があることで自立性が高く、平時は陛下もあなたの許可なしでは何もできない」
公国と帝国は形式だけの主従関係なんだな。
「そういうわけで、インペラトルがいると確信できるほどの証拠が集まるまでは帝国は何もできない、ということです」
「つまり今の状況が伝われば帝国も動き出すと」
「そういうことになりますね。 今の状況は誰が見ても何者かの介入を受けてますし、ゴーレムもどきを作り出すほどスライムの知識を持った存在なんて、当のスライムだけですので」
帝国の軍が来るまでここが持てばいいんだがな。 インペラトル自身が来たらさっきのより酷い状況になるぞ。
「それはそうと、そこにいる彼女は?」
公爵の横にある魔法陣の近くに座ってるあの人、俺も気になってたんだよな。 めっちゃ魔女だし。 公爵は特に何も言わなかったし。
「聞くのが今更すぎるね。 しかも気付いてないみたいだし」
「はあ?」
「帽子が邪魔か……」
彼女は帽子を取って顔を見せる。
「久しぶりだね。 伯爵閣下」
「オリヴィア!? どうして君が……」
「……急に大声出さないで欲しいね」
ああびっくり。 さっきまで冷静だったから余計びっくりした。
「二人は知り合いか?」
「幼馴染だよ。 子供の頃よく一緒だった。 まあ、そんなに長い付き合いでもなかったけど」
伯爵の反応、もしかして見つからない婚約者ってこの人のことじゃ?
『そんな漫画みたいな……って言おうと思いましたがそもそも世界がそんな感じでした』
お前自身もそういう存在だろ。
「彼女には特別な仕事を頼んだ。 魔法陣はそのためのものだ」
「書くの大変だったよ。 あんまりこういう大きなのは書いてこなかったから。 ヴィクトルがいるなら頼めばよかったと思ってるよ」
設計図書いてるようなもんなら難しいだろうな。 俺はやりたくない。
『あなたが書いても作動するか怪しいですけど』
そこにも制約かかってる可能性あるのかよ。
「魔法陣の作成は専門外だ。 よくそんな高度な魔法陣を書けるぐらい学んだな……」
「私はたまたま魔法陣を書くのが得意だっただけだよ。 ヴィクトルも情報構築が得意だろう? 護国魔導士にもなったんだからヴィクトルも自分の魔法ぐらい書けるようになったらどうだい?」
「考えておく」
伯爵がオリヴィアの横に移動する。
「……どうしたんだい?」
「いや、特に理由はないが……」
「そうか、別に構わないけど、魔法陣は踏まないようにして欲しい。 修復は大変だから」
「わかってるよ」
二人はしばらく黙っていた。
「そうだ。 これ、いるかい?」
「なんだそれは?」
オリヴィアは懐から袋を取り出した。
「私の携帯食だよ。 魔力の補給に最適化して作ってある」
「何が入ってるんだ……」
「魔物の血肉を混ぜたものがいくつか入ってる。 好きなのを食べていいよ」
ヴィクトルは袋の中からパンを出した。
「それはスライムの血を煮詰めて固めたのが入ってる。 もう結晶化してるけど」
「スライムと戦いながらスライムを食べることになるとは思わなかったな」
彼はパンをちぎって口に運んだ。
「ザラザラしてるな」
「結晶化してるからね」
ヴィクトルは二口食べた。
「ちなみに、それさっき私がそのまま噛み付いて食べたのもだよ」
「!?」
ヴィクトルはむせた。
「サラッと言うなよ!? オリヴィアは何も感じないのか!?」
「昔はよくしていたからね」
「感覚も昔と変わらないのはどうかと思うぞ……」
とっても久しぶり主人公視点……とオマケ。
死亡フラグが立ってる気がするって?気にするな!まだ早いから死ぬことはないのだよ。死なないだけとかじゃないからね!




