第十六話【騎士団】
騎士団が戦闘に参加して数分程経過し、スライムの数は先程より遥かに減っていた。
騎士団員は武器と魔法を組み合わせて多数のスライムを一人が相手するような形で戦闘していた。 スライムも投石を行ったりなどして反撃するが、硬い鎧の前では雑兵程度の攻撃もほとんど意味がない。
「ここのスライムだけ異様に重武装ですね」
女性の騎士がフランツに言った。
「そうだな。 板状に加工した装甲で弱点を完全に防御している。 それだけじゃない、あの兵器型の存在、明らかにここに戦力を集中しているように見える」
騎士団が先程までいた戦線には兵器型はおらず、完全装備のスライムも大した数ではなかった。 大型の兵器としては初期も初期の形、ただの大きなクロスボウのようなものでしかないが、これを数日の間に作れるようになるほどの知能を持ったインペラトルが理由もなくこのような戦力の集中をするはずはない。
「しかし、昨日の今日でただの石を鎧として使っていたスライムが鉄製じゃないとはいえプレートアーマーを作り出すとは……」
スライムに鉄を精錬できるほどの施設があるとは到底思えないため、鉄製の鎧を扱うことは騎士団も思ってはいない。 だが予想外だったのは、鎧が青銅製であったことだ。
スライムは驚くべき速度で文明レベルを上げている。 昨日まで石器時代だった集落が金属加工が可能なレベルまで進歩したとなれば誰でも驚くだろう。 ベラ達のような冒険者ではスライムの内側に重要器官を守るように配置されたアーマーを見分けることは困難だ。 武装スライムを倒してアーマーを取り出し初めてそれが金属製だと気付くような配置なうえ、スライムの粘液や細胞等でアーマーは取り出したとしてもそれが金属製だとは外見ではわかりずらい。
「一体どこでこんな知識を得たのでしょう」
「恐らくだが……」
騎士団はここに来る前に大聖堂からの報告を受けていた。 それは大聖堂に張り付いたスライムがいたという情報。
「スライム達は大聖堂にある無数の本から得たんだろう。 あそこには無数の本がある。 青銅の作り方、加工方法、そして他の情報もそこが元だろう。 しかし厄介なことになったな……」
本を読むことができるということは、必然的にスライムは少なくとも文字を理解できるということになる。 スライムは目がないように見えるが、実際は黒点として外側から認識できる。 この目は他の部位と同様に青く、向こう側の世界におけるスライム像とは異なり高度に発達した目を持つ。 それもそのはず、非捕食者の中でも特に弱者として扱われるスライムはその進化の過程で外敵を素早く発見できるように目、正確に言えば光を感知する機能を持つ個体が進化していった。
似たような生物の中でも特に視覚に優れたスライムはものを正確に捉えることができる。 そのため文字を文字として認識できるようになれば本を読むことは容易い。
「……ん? 兵器を作るほどの知能があるなら、もしかするとゴーレムを模倣することも……」
見事なフラグであった。 スライムの集団の後方から増援のようにゴーレムが現れた。
「……不吉なことを口に出すのは良くないですね」
ゴーレムはかつては神が生み出した機械と考えられていた。 そう、考えられていた。 強大なゴーレムを倒せるほど魔法と科学が発達したことによってその内部構造が判明した。 驚くべきことにゴーレムの中はスライムがいたのだ。
ゴーレムはスライムが巨大な群体として進化し、更に外骨格のように土や岩等を纏う進化をしたスライムの仲間だった。
つまり、それを理解することができたならば、ここにいるインペラトルに統率されたランセンフライサースライム達も、ゴーレムと同様の形態を取ることが可能なのだ。
「1、2、3……10体もいますよ」
ゴーレムは一体だけでも脅威となる、自然界でもかなりの強者だ。 本物のゴーレムではないが、その脅威は変わらず対処するのが困難だろう。 種によって大きさは異なるが、戦闘目的であるならば必然的に大きくなる。 かといって機動性を失わない程度の大きさのゴーレムとなっている。
「後方援護があるとはいえ、流石にあれを全部やるのはなかなか難しいな」
「どうにかするしかないでしょう。 あれよりも大きいのを5体相手にしたこともあるんですから、今回もできないことはないはずです」
「大きさ違うとはいえ倍の数らあの時とは比べられない気がするが……」
フランツは大声で騎士達を集めた。
「武器を強化しろ!」
騎士達は懐から宝石を取りだし各々の武器、刃があれば叩き食い込ませ、鈍器であれば潰すなどする。
そうすると武器が炎、氷、雷のような放電、土、そして水などを纏う。
「他のは無視しろ! 我々はゴーレムを攻撃する!」
騎士団はゴーレムを待ち構える。 普通のスライムと違い走ることができるゴーレムはすぐに騎士団と接触する。
騎士たちが使った属性付与は武器の強化であり、特定の効果を持つ。 この世界における属性とは武器にこのような何らかの物体や現象を纏わせる魔法を使用して付与される。 外見は一般なファンタジーと大して変わらないが、それらと違いこの属性が与えるのは物理ダメージでしかなく、特殊なダメージではない。 そもそもこの世界には魔法が与えるダメージは精神的ダメージを与える幻覚等を除きほとんどが物理的なダメージだ。 属性が持つ効果というのは同じ属性であるならばその作用も基本的には変わらない。
「うおっとととっ!」
例えば今攻撃を躱したこの騎士が使う水。 これは普通の水ならばただ邪魔なだけだ。
「お返しだよッ!」
ゴーレムの足、岩の隙間を切りつける。 剣を纏っていた水はスライムの傷口に浸透し、凍っていく。
水を付与する魔法というのは古代から"実戦向きではない"という意見が大部分を占めていた。 闘技場などでのパフォーマンス用とまで言われた水属性は、ある一件によって実戦に耐えうる能力を与えられた。
それは氷属性を与える際に起きたただの失敗の1つでしかなかったが、僅かな刺激によってその水は凍りついた。 "過冷却"、液体が凍結する温度であるが液体のままの状態、これに僅かな魔法による変化を加えることによって敵にダメージを与えることが可能になった。
この水というよりは氷に近い属性は氷と違い物理的ダメージを即座に与えるのではなく、過冷却された水によって体温を奪う。 一般的な冷気などの魔法と同様に遅れて効果が出る。
「斬ったはいいがここまでデカいと俺のじゃ効かなそうだな」
大型の生物は体温を奪うのが難しい。 はっきり言って水属性とは相性が良くない。
「ハンス! 斬ってダメなら刺してみろ、だ!」
水属性の使い手ハンスはその声に従ってゴーレムの隙を見て剣を突き刺す。
魔法石由来の属性付与は魔法石が武器などの表面に残っている限り続く。 突き刺さった剣は過冷却水を生み出し続け、体温を奪うと共に突き刺さった周辺の部位が膨らんでいく。
「助言ありがとよ!」
ゴーレムは足元にいる人間を狙うために足を動かし旋回するが、地面に足がついた衝撃でそれらは氷結した。
片足の温度を奪われ自由に動かせなくなったゴーレムは機動力を失った。
「もう片方もいけるか!?」
「了解い!」
大柄な騎士がハンマーを持ってもう片方の足に向かって走る。
彼のハンマーに付与された属性は"土"だ。
「どおおりゃあああ!!!」
人間で言えば指先にあたる部分を粉砕し、地面にハンマーが接触すると足の内側から地面が急速に隆起する。 隆起した地面は足に刺さっているようにも見えるが、実際は下から貫かれる形だ。
「もう一丁お!」
ハンマーにもう一つ魔法石を勢いよく叩きつけ、もう一度ハンマーを振る。
先程と同じように地面と接触すると地面が隆起して足を貫く。
土属性は接触した地面を特定の範囲内なら隆起させることができる属性だ。 これはほとんどの人間がコントロールすることができず、優秀な魔法使いであっても扱うことができるのは少ない。 あの騎士は見た目とその雄叫びからは考えられないほど高度な魔法の操作を行っている。
「よくやった! お前たちは次のゴーレムの相手をしに行け!」
指揮官は槍を持ち、魔法石を穂先にぶつける。
左足を前に出し、槍の先の方を持ち標的に向け頭ほどの高さまで上げる。 狙いを定め、腰を回転させて槍を投げた。
投げ槍は一人の人間が扱える遠距離武器としては最大級のものだ。 大型の敵を相手にするには弓矢は小さすぎる。 投擲に最適化された形を有するこの槍は貫通力、直進性に優れている。 大型の敵には十分有効だ。 もちろん、天然の装甲を持つゴーレムにも有効だ。 が、そもそも魔法により正確なコントロールが可能なためその貫通力は今回活かせないだろう。
「誘導」
腕の付け根にある隙間に誘導された槍は異常なく正確な場所に突き刺さる。
突き刺さった槍の周りに氷の棘が発生する。 氷属性はこのような棘を生成してダメージを与える。 遠距離武器は着弾時に遅れて生成され敵の内部にダメージを与えるようになる。
「外れたか? まあいいだろう」
急所を外したようで腕が外れただけに留まった。
指揮官は次の相手をするために離れる。
ゴーレムは目の前の敵がいなくなり困惑するが、すぐに落ちた腕を拾い自己修復を始める。 が即座に先程のバリスタの時と同様のものがゴーレムに向かって飛ぶ。
胴体を貫通するように刺さった杭は槍と同じように棘を作り出しゴーレムの動きは止まる。
動きを止めたゴーレムを見てフランツは喋る。
「これで一体か。 あの五体が来ていたら更に厳しかった」
実はゴーレムは10体全てが来たわけではなかった。 五体はバリスタを守るための盾となり実際に騎士団と戦っているのはもう半分の五体のみだ。
「優秀な魔術師が依頼を受けていて助かりましたね」
「あれだけの力を持っているならフリーじゃなさそうだが。 帝国の魔術師なんじゃないか?」
フリーの魔術師は強力な力を持っていない、という意味ではない。 強力な魔術師はその力を買われ国に仕える魔術師になることが大半だ。 それを嫌いフリーで居続ける者もいるが、大多数は待遇のいい国家に雇われる。
「帝国と公国からの依頼、合わせていくらになるんだか……」
「腕のいい魔術師は雇うだけでかなりの大金ですし、我々の報酬とあまり変わらないのでは」
「さすがに高いな」
国家に腕を買われ雇われる魔術師というのは貴族並の収入がある。 それは騎士団も同様だが、その出処が違うため国家にとって魔術師を雇うというのは非常に負担となる。
「ところで副長、我々は参加しなくていいんですか?」
「冒険者も含めて魔術師を守るのが私たちの仕事だ。 二人いないくらいでは負担にもならないだろう」
二人はゴーレムと直接戦闘せず、後方で魔法使い達を守るために待機している。 魔術師の火力は冒険者と言えど侮れないため、それを失うことは避けるべきだ。
「しかしここまで戦力を集中させたならインペラトル自身も来そうな気がするな」
「……私さっき言いましたよね? 不吉なことは言わない方がいいって」
「おっと…… だが今回は来ないみたいだ。とはいえ来る可能性はある。 いつ来るかはわからないが」
インペラトルにとって、今日を逃せばチャンスはおそらく来ない。 目的がなんであれ攻撃を仕掛けるのには絶好のタイミングだ。
今なら、最も強力な戦力が二人ともいない。
説明が多いね。
属性攻撃はだいたいこんな感じ、一応普通の魔法と同じように詠唱からの付与もできます、が複雑なので使える人間は少ないし使えたとしても魔法石からやった方が早いので空気です。
ちなみに、騎士団の方々はその辺の魔法使い以上に魔法扱えるので魔法でゴーレムを蜂の巣にもできます。効果薄いんで使わなったんですけど。




