第十四話 【美味しい仕事】
「数だけ多くてもスライムじゃなあっ!」
剣を持った男が逃げ惑うスライムを追い、一体ずつ動きを止めていく。
スライムは人から逃げれるほどの速度を出すことは難しい。 振られる剣から逃れることはできない。
「ねえアレクシス! やたらめったら動きを止めても処理が追いつかないんだけど! こいつらしばらくしたら動き出すんだからもう少しペースを落としてくれない!?」
女の魔法使いがスライムを二体炎で焼きながら前方でスライムを切りつけるアレクシスに向かって文句を言う。
焼かれているスライムは本来水色の体色が黒く変色していっている。
「多少動いても焼けるだろ! それともベラ、しばらく休んだせいでスライムも焼けないぐらい腕が鈍ったのか!?」
「バカにして……!」
ベラはアレクシスに挑発され一瞬魔法の火力を上げたが、すぐに冷静になり先程より少し火力を高くした程度の炎でスライムを丸焼きにする。
火力が高ければ魔力の消費も激しい、それの管理ができなければ魔法使いとしては未熟だ。
「アレクシスはスライム相手でもこれですか」
金髪の細い男がアレクシスに呆れる。
「剣を振れればなんでもいいのはいつまで経っても同じとは……」
「言ってる暇あったらクラウスも手伝ってくれない? 一人じゃ絶対魔力足らなくなるんだけど」
「ああ失礼」
クラウスはスライムに冷気を当てる。 スライムの体内器官の動きが鈍り、やがて死に至る。 所謂凍死だ。 スライムは内部まで届くダメージに弱い。 火や冷気は相性抜群と言える。
このような冷気を操る魔法は瞬時に物体を凍らせるほどの威力を持ったものが扱える人間は少ない。 それ故に戦闘においては実用性に欠けるというのが一般的な意見だ。 だが、敵の動きを鈍らせるという面では秀でており、味方への支援としての評価は高い。 スライム相手にはその両方の効果が期待できる。
「魔法なんかより、直接潰した方が何倍も早いんじゃないのか?」
大柄の男がスライムを大きなウォーハンマーで潰した。
潰したスライムからハンマーを離すとぺしゃんこと化したスライムがいた。 潰れたスライムからは透明な液体が流れ出す。
「……ねえゲルト、しばらく見ない間にただでさえ少ししかない脳みそまで筋肉になったの? そんなことできるのはあんたみたいな筋肉バカぐらい」
「ひでえな!? それに筋肉量は前より減っちまってるんだぞ!?」
「私から見ればどこが変わったのかわからないんだけど?」
辛辣な言葉をゲルトに向かって放ちつつも、ベラはゲルトの提案を魔法で実践しようとする。
炎をやめ、アレクシスによって動きが止められたスライムに魔法を放つ。
「岩となれ」
スライムの上に潰せる程の大きさを持つ岩を作り出し、そのまま岩は自由落下によってスライムを潰した。
スライムは圧力にも弱い。 それができるほど大きな武器というのは少ない、その上それを扱える人間も多くはないが魔法を用いれば圧死させることは難しくはない。
「やっぱりダメね。 焼き殺すより魔力必要だし、詠唱もいる。 焼いた方がいい」
潰したスライムはそのままに、他のスライムを再び焼く。 炎は実に効率のいい魔法だ。 単純で、素早く放て、そして魔力の消費量も少ない。 殺傷能力に関しては言うまでもないだろう。
炎魔法は基礎的なものだが、生物を焼き殺すことが可能な程に火力を高めるのは決して簡単なことではない。 火をつける程度なら誰でも教われば可能だが、大きな炎を生み出すには魔力の持続的な供給に、何より慣れが必要となる。
炎を扱う魔法使いは周りから見れば一般的な魔法使いでしかないが、アレクシス含め彼らが思うより難しいものだ。
「そういえばさ、昔から気になってたんだけどクラウスはなんで冷気なの?」
「これが使いやすいってだけです。 それに私は戦闘が本業じゃないので、冷気の方が便利なんですよ」
「おかげで助かってるよ。 他の二人がアレだから戦闘以外じゃ大して役に立たないからねえ……」
その二人はスライムを剣で叩き斬ったり、餅つきのようにしていた。 ベラにとって二人は脳みそまで筋肉が詰まったバカと大きい子供のようなものだ。
アレクシスは戦闘以外ではほぼ役に立たず、ゲルトは力仕事しかできないという傭兵専門パーティという訳でもないのにも関わらずこのメンバーなのは致命的だ。 実際のところパーティの運営面ではベラとクラウスの二人で行っている。
「お? アレクシス、どうした? もうスライムは飽きたか?」
アレクシスが三人と合流しようとしている。
彼が持つ剣は最初と違い少し青みがかった色となっていた。 スライムの血液の色が付いたのだろう。
「違えよ。 前みたいにはいかないってだけだ」
「……疲れたということですね」
「そうとも言うな」
アレクシスは丁度座れそうな大きさの岩に座り、一息つく。
前方とそこにいるアレクシスには伝わっていなかったが、周囲はスライムが焼ける匂いがしていた。 見た目こそ不気味であるが、その匂いは肉の焼ける匂いそのものだ。
「この匂い、腹が減ってきそうだ」
「確かに匂いはいいけど……私は食べたくないわね」
「でも食えるんだろ? オレあ気になるけどなあ」
ゲルトはしゃがんでスライムを見ながら言った。 だがそのスライムは焦げている。 普通ならば食べたいと思わないだろう。
「確かに食べるけど、こいつら多分生焼けだから食べない方がいいと思うけど。 生焼けスライム食べて食中毒で死ぬ、なんて嫌じゃないの?」
「うっ、そりゃ勘弁して欲しいな…… 死んだら他のが食えねえし、筋肉もつけられねえ」
ゲルトはガッカリとしたように言い、立ち上がりスライムを潰すのを再開した。 焼けたスライムを小刻みに見ながら。
「そこですか」
「相変わらず食欲だけはあるんだから。 その筋肉に栄養吸われてるんじゃないの?」
昔と変わらない会話をしながら三人はスライムにとどめを刺す。
「……なんであんた手伝わないの?」
アレクシスは岩に座ったまま自分の剣に付いた汚れを落としていた。
スライムの血は透明に見えるが実際は水色だ。 それを拭き取った場所は元の輝きを取り戻す。 色では大して変わらないが、付いているのは血液。 切れ味を落とす原因であり、それを残す理由は見た目を他の剣と変えるということしかなく、今はその唯一の使い道も選択肢にはない。
「スライムの動きを止めるのが俺の仕事、そう言ったのはベラだろ」
「確かに言ったけど……」
「俺は細かい作業向いてねえんだ。 ゲルトと違って俺は狙って剣を刺さないとこいつら殺せねえんだから」
アレクシスは汚れの落とし忘れがないかじっくりと剣を見る。 光の反射を利用しスライムの体の一部や血が付いていないかを確認する。
全て落とせていることを確認し、左手で楽なように持つ。
「ま、安心しろよ。 例の攻撃してくるスライムってやつが出てきたら守ってやるからよ」
「いるかどうかもわからないからサボりと一緒じゃない……」
ベラはアレクシスに聞こえない小声で言った。
会話で魔法の制御に集中していないためベラの魔法は火力が下がりスライムは内側まで火が通る程にゆっくりと焼かれている。
「……その例のスライム、あんたはいると思ってるの?」
「いてもいなくても所詮はスライム、大して変わらねえだろうよ。 それに俺はまだ振り足りないんだ。 心配しなくても少し休んだらまたボコしに行くからよ」
アレクシスは剣を素振りしながら言った。
「アレクシスの言う通りだ! 潰れるんなら大差ねえ!」
「あんたらねえ…… 少しぐらい警戒しなさいよ」
呆れたベラは魔法を使うのをやめ、クラウスに言った。
「あの2人自分が負けるどころか怪我することも考えてないんじゃないの」
「いつものことですよ」
「何かあったら頼むね」
喋りながらでもアレクシスが動きを止めたスライムはいつの間にか全滅していた。
ゲルトが辺りを見渡し、ハンマーを置いた。
「なんだよ、もう終わりかよ?」
「お前なら直接潰せるだろうが。 物足りないなら自分でやれ」
「つってもよ、ここらのスライムはもういねえし、探すのも面倒だからよ」
フランツとベラは顔をしかめた。
「アイツら二人は多分読んでないと思うけど、これって依頼文に書いてあった気がするんだけど……」
二人は依頼文を確認する。 そこには "攻撃的なスライムは報告によると一般スライムの数が減った際に現れた。 スライムの数が目に見えて減った際は警戒せよ" という記載が確かにあった。
「しっかり書いてありますね」
「ということは……」
ベラは目を凝らして遠くを見る。
「……二人共! 気をつけて! 例のヤツらが来たみたいだよ!」
既存キャラ一切出てきませんでしたが次も出てきません。完全に一般パーティ視点です。別にベラさんたちがただの一般冒険者ってわけじゃないですけどスライムへの認識は変わらないんで……




