第十三話 【戦支度】
「なんか騒がしいな……」
ギルドに行こうと思ったんだがそのギルドが何やら騒がしい。
「何かあったんでしょうか?」
「確認してみるか」
ギルドに入ると掲示板に大勢いる。 そういやまだ朝だが、にしても多いな。 後ろの方は見えてるのかあれ?
「何かあったのか?」
「公国名義の大きな依頼が来まして…… スライムの掃討なのですが、高額で参加人数に制限がないため、あのようなことに」
スライムと戦争でもしようってか。
『向こうの世界で同じようなこと起きてませんでしたっけ?』
あそこはいつも野生動物と戦争してるからな。 まあ、こっちのは知能を持ったのが相手だから本当に戦争になるんだが。
「お2人には名指しで同様の依頼が入っています。 ベルタショルツ公爵名義です」
「公爵から直接ですか?」
「そのようです。 半分ほど前払いですが、どうしますか?」
危険が伴うからか? しかしまあ、名指しなら何か特別な依頼なんだろう。
「受けよう」
「承りました」
"城まで来てくれ。 詳しいことを説明しよう"…… またこういうパターンか。 2回目だぞ。
とりあえず行こう。 あんまり貴族を待たせる訳にはいかないしな。
「もう逃げることはできませんね」
「逃げる場所なんて俺が来た時にはもうなかったんだろうから、遅かれ早かれ戦うことになったんだろうけどな」
「まあ……そうかもしれないですね」
城はすぐそこだからすぐに着く。 何分も歩くような距離じゃない、本当にすぐそこだ。
あの守衛は銃持ってるけど、あれ近接戦闘だと邪魔だよな? どうしてるんだろうか。
『短剣でも持ってるんじゃないですか?』
まあ、そうだろうな。 メインが銃なのは不思議だが、この世界ではそんなものなのかもな。
「入れ」
顔パスだ。 自分の身分に感謝だ。
それで、公爵はどこにいるんだ? とりあえず公爵の部屋まで歩くか。
「来たか二人共。 私はここだ」
1階にいた。 あれ胸甲ってやつか? 昨日見た時と違って完全に戦闘態勢だな。
『ほとんど中世なのに胸甲だけなんて不自然ですね』
銃のせいかもな。 もしくは魔法か。
「何か欲しい装備があるなら言ってくれ。 そこの部屋は武器庫だ、大抵のものはある」
欲しい装備か。 今のこの剣は長くて少し取り回しが悪い。 短いのが欲しいな。
「短剣みたいなのはあるか?」
「短剣と言っても様々な種類がある」
公爵は少し長めの特長的な八の字型の鍔を持つ短剣を持った。
「例えばこのカッツバルガーは乱戦時に使う剣だ。 刀身が短いことと見た目以外は君が持っているバスタードソードと大して変わらない」
取り回しが良くなっていいな。 扱いやすそうだ。
「これは良さそうだ。 他は何かあるか?」
「他か……何か尖ったものがいいか」
公爵は細長く、十字架のような形をしたものを取った。 尖ってるって物理的に尖ってんじゃねえか。
「これはスティレット、重症を負った騎士などにトドメを刺すのに主に使われる剣だ。 刃はない、だが貫通力に優れる。 リーチは短いが急所を狙うのには最適だ」
「これもいいな」
スティレットを受け取る。 普通のスライムぐらいならこれで十分だろう。
「扱いに慣れておくといい。 まだ時間はある」
「そうさせてもらうよ」
スティレットの方はやらなくても問題はないだろう。 カッツバルガーに慣れよう。
カッツバルガーを軽く振る。 いいぞ、扱いやすい。 リーチは今までのより短いし軽い分威力も劣るだろう。 手数を稼ぐかさっさと体勢を崩してトドメを刺すかしかないな。
『元々持ってたのはどうするんですか?』
片手でも扱えるし、リーチも十分ある。 カッツバルガーより重いがその分威力もあるから持っておく。 ファンタジーにしては重装備だな。 中世として見れば普通か武器が1つ少ないぐらいではあるが。
今は筋力というか体力的に無理だろうがそのうち二刀流もできるかもな。 やる必要性は疑問だしそれをするならスティレットとカッツバルガーの方がいいと思うけどな。
このぐらいでいいか。 こいつがどんなのかはわかった。
「そういえば公爵はどうして私達を?」
「ああ、依頼の内容を話してなかったな。 私がやろうとしていることはこの鎧でわかるだろう」
鎧って言ってもスライム相手に胸甲は有効なのか?
「とは言っても保険だ。 インペラトル本体が来た時のためのな」
「他の冒険者達はどうなんだ?」
「不特定多数へ向けた依頼だ。 普段戦闘をしないような冒険者も来るだろう。 彼らにとってはスライムを狩って大金を手に入れる美味しい仕事だ。 冒険者になるには最低限の戦闘能力が必要、だがあくまでも最低限だ」
インペラトルみたいなのと戦う力はないということか。
「最低限の保証はされているが、それだけだ。 そのようなもの達にインペラトルを任せることはできない」
所詮は何でも屋ってことか。 全員が傭兵な訳じゃないからな。俺が戦ったあれ程度ならなんとでもなるだろうが、それ以上は難しいわけだ。 純粋な戦闘能力なら俺も大して変わらないんだろうけどな。
「君たちは神から力を与えられた特別な存在だ。 君たちなら、インペラトルを相手にしてもそう簡単には負けないだろう」
「でも私たちだけじゃ確実に抑えられませんよ」
「騎士団がいるだろう。 彼らなら何かあったとしても対処できる。 彼らと君たちがインペラトルを抑えるんだ」
そうなるとインペラトルを抑えるのは全員教会関係者になるな。 まあ、戦力として頼れる存在ということなら騎士団という戦闘に特化した組織以上のはないな。
『まるでスライムに対する十字軍ですね』
なんか嫌だなそれ。
「そういえば隊長さんは?」
「グスタフは鎧の準備だ。 私のこれと違ってフルプレートだ。 着るのには時間がかかる」
フルプレートアーマーか。 スライム相手ならかなり有効そうだ。
動きにくそうだから俺は絶対着ない。
『アーマーはあった方がいいですが、そもそも当たらなければ何も問題ないですね』
そういえば通常の三倍どころじゃない動きもできるんだよな。 周りの動きが遅く見えるみたいなこともできるし、そう考えると中々面白いな。 そんなことしたら体力がマッハでなくなるんだろうが。
なんかガチャガチャ聞こえてきた。 隊長が準備を終えたのか。
「準備できたか」
「はい」
所々に装飾の入ったフルプレートアーマーだ。 見るからに重そうだが、あれ大丈夫なのか?
プレートはどれも中々に厚い。 対弾性能、もしくは対魔法防御か。 どっちにしろめちゃくちゃに重そうだぞ。 でも普通に歩いてるんだよな。 これも魔法か? 便利なもんだな。
「では戦場を見渡せる場所、市壁の上に行こう」
高所恐怖症じゃなくて良かった。
市壁の上か。 塔がないから直接壁の上か。 確かに歩けそうな感じだったな。
「既にスライム狩りは始まっているはずだ。 早く行こう」
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「どうやら始まったようじゃな」
エイジ達が戦の準備をしていた時、騎士団本部──つまり大聖堂の中にはヘリクスとフランツの二人がいた。
ヘリクスは大きな魔法陣を描いていた。 細かな部分、装飾、そして大元となる円。 基礎となる部分は既に終わっており、白色のそれを他の色の情報を示す構造を描いている段階だ。 しかし魔法を実行するにはまだ三分の一程度しか進んでいなかった。
「ワシも参加したいのお」
「途中で放棄したら失敗しますよ。 複雑な魔法陣は些細なことで機能しなくなるんですから」
後ろにいるフランツがやめるよう言う。 言葉と音によって描き出される魔法陣と違い、このように術者が直接描く魔法陣は物理的な干渉を受ける。 単純な設計であれば多少の傷があったとしても問題なく機能するが、今回のように複雑極まりないものは少しの情報の欠損、変化によって魔法の精度が下がってしまう。
この場所は環境的にはそのようなことが起こることはあまりないが、それでも魔法陣を放って置くことはできない。 生物の肉体を作ることは些細なミスも致命的となる。
「それはワシが一番知っておる。 魔法陣の保護ができればよかったんだが」
「ここまで大きいとスカーライトでもないと無理ですよ」
「あれを買うのは教会でも難しいからの…… 仕方あるまい」
ヘリクスは振り返りフランツの方を見る。
「それで、お前さんも行くのか」
「仕事をしないといけないですから。 三人はここにいますから、彼らが話し相手になってくれますよ」
「寂しい思いをしなくて済みそうで良かったわ」
笑いながらヘリクスは返事した。
「全く残念だが、ワシもエレナも戦闘には関われん。 フランツ、お前さんが頼りだ。 街を頼んだぞ」
「仰せのままに。 では、行ってまいります」
フランツは行った。 入れ替わるように一人騎士団員が来た。
「イグナーツか。 ちょっと頼みごとがあるんだが、聞いてくれんか」
「来て早々頼みごとですか。 それで、なんですか?」
ヘリクスは天井の端の方を指差し言った。
「あそこに何でも構わんから魔法を撃ってくれんか」
「はあ? まあいいですけど……」
イグナーツは建物が傷つかないように電撃を行う。
そうすると天井から粘り気のある液体とドロっとした塊──スライムが垂れてきた。
「こいつは!?」
「やはりおったか。 湿っていたからもしやと思ったが」
スライムは床に着くと力なく潰れる。 脳の制御下を離れた個体達は短時間の間混乱し重力に身を任せる。 しかし今回の場合、そもそもほとんどが先程の電撃によって強いショックを受け死滅しているだろう。
「弱点を潰さないと!」
「必要ないじゃろう。 お前さんが電撃にしたおかげで奴の心臓は止まっておる。 だからああやって垂れ続けているんだろう」
床はスライムの粘液で光を照り返していた。 一般人なら踏みたくはないだろう。
「……掃除は必要そうだが」
ファンタジーには珍しく武器が三本になりましたが中世とほとんど変わらないんでこれぐらいが普通です。 なんならスティレット無くしてもう一本あるぐらい。
次回は既存キャラ何も関係ないスライム乱獲の話。




