第十二話 【加速する時】
時間加速の扱いを知るために何もない平野に来た。 この辺り本当にただの平原なんだな。 川はあるがその割に建物が少ない。 資金不足かね。
「用ってなんですか?」
「俺の能力がどういうものか知ってるか?」
不思議そうにレナは返した。
「時間の操作ですよね?」
見てるもんな。 当然か。
「そうだ。 だがその全てを俺は扱えるわけじゃない。 実際、これまでに使ったのは停止だけだ。 今から俺の頭の中にいる女神様から時間の加速を教わる」
「私は見てるだけでいいということですね」
「そういうことになるな。 すぐに終わるだろうから待っててくれ」
レナは少し離れて地面に座った。
とりあえずこれで準備はできたか。 それじゃ教えてくれ。
『わかりました。 まずは自分にかけて動いてみましょうか』
加速は2日ぶりだな。 あの時と同じように、それを自分に使う…… 1.5倍ぐらいでいいか。
周りがスローに見える。 俺の時間は早く進んでるから相対的に周りは遅く見えてるだけだが。
それで動くんだよな? 俺からすれば普段と変わらないんだが周りから見たら速く見えるんだろう。 ちょっと一回聞いてみるか。
「レナ! 今俺はどう見えた?」
「凄く速く動いてましたよ」
しっかりできているみたいだ。
『次は……あの石ころでも投げてみましょう』
投げてどうするんだ?
『見てからのお楽しみです』
なんかわからんがやるか。
拾って、投げる。 !? 普通に投げたのと同じスピードに見えたぞ。
『あなたからそう見えるということは?』
つまりとんでもない速度で飛んでいったわけか。
『そうです。 時間が加速している物体は他のものに触れたりすると、時間の速度の違いでそのエネルギーは実際にそれが持つエネルギー量よりも多くのエネルギーが発生します』
……? つまりなんだ、実際にとんでもない速度で動いてるのと同じ影響が周りに与えられるのか?
『そういうことです。 物体の持つエネルギー量、つまり質量は変わりませんが、それを動かす際に発生する運動エネルギーは増えるということです』
エネルギー保存の法則はどうなってんだそれ。
『時間の速度の差ということでそのエネルギーは時間が払ってます。 ちなみに、時間停止中に動かされたものは初めからそこにあったかのように振る舞うので停止前の状態を維持しています』
エネルギー消えてるんじゃないのかそれ。
『一応消えてる訳ではないんですが、停止中に使われるエネルギーは魔力が時間を止めていても動くという情報を掴み、停止中でも動ける特殊なものに変換され、時間が経つと普通のエネルギーに戻るという振る舞いをするんです。 ややこしくない言い方をするとあなたが生み出したエネルギーはあなたが停止中でも動けるのと同じ原理で動きます』
つまり俺が動けるのは俺が生み出したエネルギーが時間停止中でも作用するものに変化してるからってことか。
『このエネルギーはあくまであなたに触れている魔力が変換を行って動くようになっているので、あなたから離れるとエネルギーが変換されなくなります。 そのためあなたが物体から手を離せば外部からのエネルギーの供給を受けず運動の第一法則、つまり慣性がないため固定されます。 ですがその時点ではエネルギーは元に戻っていません。 物体を通り、十分エネルギーが分散した状態で普通のエネルギーとなり、時間を進めた途端に爆発したりすることがなくなっています』
原理は難しいが何とも都合のいい話だ。 まあそうじゃないと本当に使い物にならないんだが。
で、ここまでならチート感漂ってるんだが、どうせ制約があるんだろ?
『お察しの通り、ちゃんとあります』
今回はどんなのが来るんだ? ろくでもないやつだろうが。
『加速中は疲れやすくなります』
……それだけか?
『甘く見たらいけません。 より正確に言うと体の冷却が上手くできなくなります』
暑いなと思ったらそういうことか。 でもどうして?
『熱は伝導、対流、放射で伝わります。 人の場合はそれに加えて汗の気化熱も加わりますが、その全てがあなたからすると通常より遅くなります。 周りに熱を伝えるのも遅くなります。 風を受けるのも今は通常の半分程度、それだけ冷却ができなくなっているということです』
体温が下がりにくくなって持久力ダウンか。 代わりにパワーとスピードを手に入れるが、これじゃまるでその辺の動物だな。 持久力に特化した進化をした人間を否定してるみたいだ。
しかしそうなると長時間の使用は不可能だな。 短時間での使用に留めないと残りの戦闘に使える体力も消耗する。 ケースバイケースではあるが、攻撃の瞬間とかそういうのに使うのがいいか。
『もちろん自分以外にも適用されるので、矢に加速をかけて威力を上げる、といったことも可能です』
それ、使いようによっては戦略兵器級のパワーが出るんじゃ……
『ちなみに、時間減速時は加速時と違って物体に与えるダメージは低くなります。 相対的に見て加速時と変わらなくても刃は通りにくくなりますし、打撃の衝撃は軽くなります』
加速と減速は違うって訳か。 向こうから見えるのは同じでも。
『そういうことです。 だから減速時に相手をボコボコに殴ってもとんでもないスピードでポカポカ叩かれてるみたいな感じになりますね』
一気にギャグっぽくなるなそれ。 それはそれで面白いが、実戦じゃ使うことはないだろう。
『最後に、加速をしすぎると脳の処理追いつかなくなります。 加速度が高すぎるとなりやすくなるんですが、こうなると加速中の動きが鈍くなり大した効果がなくなります。 言ってしまえばただの疲労です。 疲れは感じませんけど』
意識はまだいけると言っているが脳はもうダメって状態か。 それ他の行動に影響出たりするんじゃないのか?
『眠くなったりはするかもしれませんが、まあそんな状態になったら興奮状態なので大した影響はないでしょう。 ちなみに無理して使うとエネルギーの消費量が大きくなって身体の方も疲れます』
身体の方からもエネルギー持ってかれるのかよ。
……加速を使いまくって無双はできないか。 切り札みたいなものになるか。
『まあ頭の方の疲れはすぐ取れるので、クールタイムがあるスキルみたいなものだと思ってください』
急にわかりやすいな。 回数制限がある以上は頻繁には使えないがこれなら何とかなるか。
『これで説明は終わりです。 あとは慣れですね』
ぶっつけ本番はやりたくない。 少し慣らしてから行こう。
標的にちょうどいい木が生えてる。 こいつを斬ってみよう。
剣で木をぶった斬るなんて漫画かよと思うが、威力を試すにはちょうどいいだろう。 まあ、漫画なら木じゃなくてだいたいは岩なんだが、ここにはないし剣がなまくらになっても困るからな。 いくらパワーが上がるとはいえ、今のところ唯一の武器であるこいつをダメにするわけにはいかん。
1.5倍じゃ半分もいかないだろうが……
剣を振ると木にしっかりと入った。 刃の方は……抜けねえ。 刃が入りすぎたか。
……っと刃は問題なさそうだ。 この木そこそこ太いんだが、こんなにしっかりと通るとはな。
『片手だけしか使えないですけど、すごい威力ですね』
木でこれなら人なんてあっさり斬れるだろうな。 これだけの威力があれば十分だろう。 問題はそんな余裕があるかどうかだな。
『確実に片手が塞がりますからね。 正直使い勝手は悪いと言わざるを得ないでしょう。 その分高火力ですが』
ロマンじゃ飯は食えない。 使う場面は限られるだろうな。 鈍足のスライム相手なら十分使えると思うが、ここまでの威力があったとしても真っ二つにはなるだろうが確実性に欠ける。 防御を突破するのにはいいが。
確認もできたし戻るかね。
「終わったんですか?」
「ああ」
これで短時間でできることは増えたな。 多少はマシ程度だが。
「試し斬り、一回でいいんですか?」
「やりすぎると木の方が持たないだろうからな。 処分する時間もない。 それに威力以外は普段と変わらない、一回でも十分だ」
「そうですか……」
しかし持久戦向きではないとなると大規模戦闘に使えるかどうか微妙だな……
「……あれが限界なんですか?」
「いや、多分何倍も速く動くことはできる」
「もしかして、あの木を真っ二つにすることも……?」
「さあ、それはどうだろうな。 限界はあると思うが」
なかった方が嬉しかったがな……
「否定はできないと」
「……そうだな。 スライム相手にはどれだけ早かろうが急所を狙わないと無駄なんだが」
厄介な生き物だな、本当に。 なんなら急所すらない奴も出てくる可能性がある。 その辺のファンタジーより凶悪な能力だな。
出てきたらその時はその時考えるとしよう。 とりあえず用は済んだしギルドで仕事を探しに行こう。
加速だけで見るとかなり強い能力ですね。 まあこれがあってもこの世界だとそんなに強くないんですけど。




