第十一話 【また一日が終わる】
ああ、部屋に帰ってきた。 ベッドの上は落ち着くな、同室に女の子がいなければの話だが。
……インペラトルか。 ここから離れられない以上は戦うしかないのかね。
『あなただけなら離れられると思いますけどね』
それだとお前はどうなるんだ。
『身体が作れるとわかったんですから、次もあるんじゃないですかね?』
いつになるかわからないし、そもそもまだ旅に出る準備もろくにできてない。
インペラトル野放しにして旅に出たとしても国を滅ぼしかけたような奴だ。 どうなるか次第だが、いずれ関わることになるんじゃないか? それなら先に潰した方が良い。
『……それだけ強い、言わばボスに来たばかりのレベル5にもなってないような私たちは勝てるんでしょうか……』
勝てるかどうかは正直わからない。 だが負けることはないだろう。 何せ俺は時間を止めることができる。
攻撃に使うのは難しいが回避には一番使える。 当たらなければってどっかの誰かも言ってたしな。
っとそうだ。 気になってたことがあるからレナに聞こう。
「そういえばレナもエレナも髪が白いよな。 何か理由があるのか?」
「なんですか急に。 ちゃんと理由はありますよ」
白い髪なんて珍しいからな。 割とファンタジーだと見るんだが、この世界は何でも理由がありそうだからな。 聖職者の二人が偶然にも白い髪ってのはさすがにないだろう。
「大司教様のような色の髪は聖別をした時の副作用みたいなものです」
聖別? 神聖なものにするっていうあれか。 キリスト教ではないから似てるけど違うものだよな。
「聖別をすると髪の色がなくなって白くなるんです。 本来なら数日で色が戻るんですけど、たまにこんな感じで色が抜けたまま白になったり金髪になったりすることもあるんです。 白よりフランツさんみたいな金髪の方が多いですけどね」
聖なるものと言えばみたいな二色だな。 実際は色が抜けただけみたいだが。
「私みたいな白い髪は特別なものとして扱われるんです。 元々ダークエルフのような種族を除いて白い髪を持つ人はかなり少ないことと、色が抜けたままの人は他の人よりも強い力を持つようになることが理由です」
ダークエルフってこの世界でも褐色白髪なのか? 気になるところだが今じゃないな。
「白い髪は聖なる力の証、そういう風に認識されてるんです。 ……あ、私のは地毛ですよ」
「え? じゃあレナは……」
「生まれ持ったものでも聖別されたそれと何も変わりませんよ。 生まれた時からこうかどうかの違いしか本質的にはないとされてます。 さらに特別な扱いはされますけどね」
そんな特別な子が俺の付き人か。 いや、特別だからこそ付き人になったのか。 かくいう俺も色んな意味で特別な人間ではあるが。
「あれ、エレナは肌も白かったし髪の先は色が付いてたよな? あれはなんでなんだ?」
「肌が白いのも髪の先が緑がかっているのも聖別のせいですよ」
肌が白いのはまだわかるが……
「肌まで色が抜けたというだけです。 髪はその何もない無地をエイジ様の中にいる神様の力が染めたんです」
エリナルの色って緑なのか? なんかどっかの女神様もそんな感じじゃなかったか。
『無関係です。 そもそも色も何も私という存在にそういった情報はないんですから』
そういや実体なくて抽象的な感じだったな。
「その緑の力って一体なんなんだ?」
「色の付いた魔力です」
「色付きの魔力?」
なんだよそれ、というか魔力自体ほとんど知らないな。 多分想像した通りのものなんだろうが。
「魔力は情報を受け取るとその通りに変化します。 これが魔法ですね」
そういう仕組みで魔法はできているのか。 じゃあ魔法陣は言わば設計図ってことか。
「大司教様の髪はフレストブルグの人々が信じるエリナル様のイメージ、それが色になって染み込んだんです」
「どんなイメージがあったら緑色になるんだ?」
「トンネルの周りにある山、あれが大自然の神というイメージを植え付けて、自然と言えばみたいな感じで緑色になったんだと思います」
なんか思ったより単純だった。 人間が考えることなんてこんなものなのかもしれんが。
「でもあんな風に色が付くことは本当に珍しくて、さらに強い力の証と言われてます。 私なんて肌の色は普通なんですから」
アルビノかと思うほど白かったしな。 紫外線大丈夫なんだろうか。 普通に生活してるし多分大丈夫だと思うが。
『私って大自然の神として認識されてたんですね……』
あれ直接やった訳じゃないんだよな?
『地形変えるほどの力はやっぱり過剰でしたね……』
過ぎたものは仕方ない。 いや、でも体はどうなるんだ?
『できてからのお楽しみ、ですかね。 髪が緑だと被るからそうじゃないことを祈りましょう』
明後日か、戦いが控えてるから短いようでかなり長いな。
「……教えてくれてありがとうレナ」
「これも仕事、ですから」
誇らしげに言うな。
俺の周りは何かととんでもない環境なんだな。 神様に凄い力を持ってるらしい偉い人、生まれた時から特別な女の子、おまけに頭の中にはもう一人神様がいる。
『向こうの世界と繋がる場所ですから、特別な人が集まるのもそういう理由があるからではないでしょうかね』
偶然なんてことはないだろうしな。 特にヘリクスは。
……明後日はエリナルの体ができるが、エレナも戻ってくるな。 それまで待てばインペラトルもどうにかなりそうではあるが、問題はそれまで向こうが大人しく待ってるかどうかだ。
「レナ、インペラトルを相手にヘリクスとエレナ抜きでどうにかなると思うか?」
「正直……難しいと思います。 公爵の力があっても、あのスライムの軍団を処理しきれるか……」
公爵も金がないらしいからな…… 明後日まで耐えれるのか? 俺の体力と気力が持つかどうか。 戦力が劣勢な以上は俺が時間操作でどうにかこうにかするしかないと思うが、時間を止めても体力は減るから厳しいな。
『……明日、時間加速について詳しく話しましょうか。 それで多少はマシになるはずです』
そうしよう。 ただあんまり時間はかけられないだろうからな。 早く終わらせないと俺の異世界ライフが早々に終わってしまう。
「明日ギルドに行く前に少しやりたいことがあるんだがいいか?」
「いいですけど、早めに済ませてくださいよ。 時間かけると大変なことになりそうですから」
「もちろんだ」
今は……だいたい7時くらいか? ならまだ時間には余裕があるな。
「少し外を歩くか」
「え? どこ行くんですか? ちょっと、置いてかないでください!」
外は案外明るいな。 晴れてるからか。
壁の外まで行こう。 どこまでも続くような夜の平原を楽しもう。
「夜は危ないですよ!」
「死にはしないだろう」
「死にはしないでしょうけど、怪我するかもしれないですから!」
まだ早いから色んなところから明かりが照らしている。 それでも暗いが、中央広場の方はなかなか明るいな。 まだやってるのかね。
夜の街はいいな。 静かで、街並みが楽しめる。 綺麗だ。
『そんなロマンティストだったんですか?』
人間は感情も大事だ。 綺麗なものは綺麗、そう認めると楽しい人生を送れる。 要は何でもエンジョイすればいいんだ。 こんなこと語れるほど長く生きてる訳じゃないんだがな。
賑やかな夜も、静かな夜も別の美しさがある。 季節には季節特有の空気があるし、地域によって見える景色は違う。 まあ、端的に言えばこの世界の景色を楽しみたいだけだ。
『まあ、確かに私もこの世界の景色を見たいですけど』
それにしてもロマンか。 年代的にはそんな価値観はない世界だよな。
「家の明かりが付いていても街は静かだな」
「……もういいです。 夜は中央広場の周り以外は特に何もないですから、静かになりますよ」
門は開いてるな。
「壁の外は明かりがないですよ」
「足元は十分に見えるから大丈夫だ」
門の外はやっぱり暗いな。 だが問題ない範囲だ。 それにこれぐらいがちょうどいい。
あの丘がいいか。
「夜に街から出るなんて、どうしたんですか?」
「まあ、何がしたいかはすぐにわかる」
やっぱりだ。 この丘を選んで正解だな。
「いい景色だ」
夜の平原。 ほとんど何もない。 ただ遠くまで続いているだけだ。 だがそれがいい。
「……これが見たかったんですか?」
「半分正解だ。 残りの半分は」
空を見上げる。
「この夜空を壁の外から見たかったんだ」
綺麗だ。 空を星が覆って、月が地面を照らしている。 元の世界でも何度も見たが、どれだけ見ても飽きることはないな。
「……星、ですか」
「街の中だと建物が邪魔するからな。 外が良かったんだ。 レナにとってこの空は当たり前かもしれないが、意識して見ると違って見えるだろ?」
「確かに、綺麗ですね……」
あの月を綺麗って言っても多分伝わらないんだろうな。
『告白には早すぎますよ』
いや、思っただけだ。 別に言うつもりはない。
クレーターの形が向こうと違な。 それ以外はほとんど同じみたいだ。 やっぱり夜の空には月がないとな。
「俺はこれが見たかっただけだ。 夜風を感じて、ただこの星空を見てみたかった。 まあ、現実から目を背けてるとも言うがな」
「もしかして現実逃避したかっただけなんですか!?」
「結果的にそうなっただけだ」
星空を見ていると、現実から離れているような感覚がする。 まあ、現実離れしたことは昨日からずっと続いてるんだが。
『……この世界の空は、本当に綺麗ですね』
大気汚染とは無縁だろうからな。 特に夜だと空気が澄んでて、より綺麗に感じる。
人の歴史は星と共にあったから、俺が惹かれるのも無理のない話だ。 可能なら、あの月まで行ってみたいな。
『どう考えても不可能でしょうに。 魔法の研究を進めれば、もしかしたら行けるかもしれませんが……』
研究するのは後数年は先にしよう。 面倒だ。
『面倒って他の理由はないんですか』
面倒なことはあんまりしたくないからな。
「それじゃ、見るもん見たし帰るか」
帰ったら飯食って風呂入って寝るだけだな。 明日どうなるかは明日になってみないとわからない。 どうにかなると信じよう。
夜の街、夜の平原、満天の星。それを見ながらついでに現実逃避するエイジさん。 気分転換は必要だからね。 じゃあしょうがないね。




