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あの後タイミング悪く通りの人に声を掛けられて詳しいことは聞けなかった。
そして今度はシスがあたしのことを避け始めた。
「シス」
「あ、ごめんアリシア2人が泊まりに来る時に使うベッドのシーツカビ臭いの取れなかったから新しいの買ってくるね。そのまま僕は絵画教室に行くから出掛けるなら戸締まりはちゃんとしてね」
「あ、ちょっと……」
早い。もう見えなくなった。
新しい石鹸の場所聞こうとしただけなのに。
そんなに養子の話ってそんなに聞かれたくない話なんだろうか?
本人が聞かれたくないみたいだし、他の人に聞くのはマナー違反だよね。
養子の話は一旦置いといて日常会話まで出来なくなるのはまずい。
もうすぐイビーとカノンが泊まりに来るんだし、日中は絵画教室に行っててシスは居ないから話すタイミングが上手く掴めない。
絵画教室の方に行ってみようかな? でも、大体他の子が居たりするからあんなに聞かれたくなさそうなのに外で話すのはやめた方がいいよね。
「アリシアか?」
「え?」
玄関で見えなくなったシスの姿を追いかけて玄関まで来たら名前を呼ばれて振り向いた。
「あ、ユスリアルじゃない!」
「久しぶりだな。ここはアリシアの家か?」
目の前にいたのはちょっと前に一緒に冒険した褐色の肌の少年。
「アリシアの家か? じゃないわよ」
こっちはあんたと遊びに行った日から色々大変なんだからと言いたかったが、ぐっと我慢して何をしているのか聞く。
「ああ、久しぶりに抜け出せたからまた探検しようと思ってぶらついていたんだ。アリシアも行くか?」
「今日はやめておく」
悪いけどそんな気分じゃない。
「そうか」
ユスリアルは1つ頷くと家の中に入ってきた。
「えっ、ちょっと!」
「友人の家に入るのは初めてなんだ。いいだろ?」
勝手に入ってくるユスリアルにそう言われるとズルい。あたしだってここに来るまでは友達なんて居なかったからユスリアルの気持ちは分からなくもない。
「……ちょっとだけならいいよ」
シスには後で言えばいいかと思ったけどそういえば避けられてるんだった。
◇◇◇◇◇◇
「こんなところに住んでるんだな」
ユスリアルにはとりあえずリビングへと案内するとキョロキョロと見回している。
お茶出して適当に喋ったら帰ってくれるかな?
「そこに座って。何か飲む?」
「喉は渇いてないからいい。それよりもアリシアも座れ」
「えぇ」
どうしてあたしより偉そうに座ってるのよ。
ため息吐きそうなのを我慢してユスリアルの向かい側に座る。ここはいつもシスが座ってる場所だから何か変な気分。ユスリアルはあたしがいつも座っている方に座っている。
「今日は昼までしかいられないんだが」
「そうなの」
今はまだ9時にもなってない。昼までに帰るとして後3時間ぐらい?
「何かする?」
「そうだな。前はお互いのこと殆ど話さなかったから今するか?」
確かにお互いの名前ぐらいしかちゃんと知らないのよね。
「そうね。あたしはここに叔父さんと一緒に暮らしてるよ」
「叔父さんと?」
「うん」
父さんと母さんはもう死んでることを伝えるとユスリアルは変な顔になったので話題を変えた方がいいかな。
「死んだって言っても父さんは仕事人間であんまり家に居なかったし、母さんも小さい頃に死んでるって聞いてたから気にしなくていいよ。それより、ユスリアルのこと教えてよ」
「えっ、ああ、そうだな。何が聞きたい?」
「そうねぇ」
返事をしながら考える。
家が厳しいらしいことぐらいしかユスリアルについては知らないのよね。
「とりあえずどれぐらいの割合で家から出て来れるの?」
「10日に一、二度ぐらいか?」
「それだけしか出られないの?!」
びっくりして聞き返せばユスリアルは無言で頷いた。
「あのさ、ご両親とかには外に出たいとか言ったことないの?」
「ないな。うちの父も仕事人間であまり家に居ないタイプだし、母は家庭教師に任せきりで趣味に没頭してるからあまり居ないからな」
ユスリアルのお母さんの趣味は演劇なんだとか。
ここに越して来て見たことのない演劇がやっていると大はしゃぎだったそう。
「えっと、さ、あたしが言うことじゃないんだろうけど家族ともっと話した方がいいよ。あたしもたまに父さんが居たらどうだっただろ? とか今父さんと母さんが一緒に居たら何て言ってくれるかな? とか考える時あるし、シス、あ、叔父さんの名前ね。シスが絵描きさんなんだ。それで、シスに家族の絵を頼んでるの」
そうだ。逃げられたってちゃんと話そう。
あたしはシスが本当の叔父さんじゃなくたって気にしてないんだって、今みたいにお互いいつまでもギクシャクしてる訳にはいかないんだし。
「……そうだな。俺は帰る」
「え? もう?」
まだ一時間ぐらいしか経ってないんだけど。
「アリシアの話を聞いてたら俺も親とちゃんと話したくなってきた」
「出かけてるんでしょう?」
「ああ、でも、いつまでも待ってても来ないのならば自分から会いに行けばいいからな。じゃあ、そろそろ行くよ」
「あ、うん」
ユスリアルはそう言うと立ち上がったのであたしも見送りのために一緒に玄関に向かう。
「またな」
「またね」
ご両親からちゃんと許可がもらえたらまた遊びに来てくれるそうだ。その時はシスに紹介できるといいな。




