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折れたけどイビーのところに連れて行くのは迷惑かもしれないので、ユスリアルが行こうとしていた路地に入るのを付き合う。
「どうしてこんなところに入ろうと思ったのよ……」
「いつもと違う日常を感じたいから」
「は?」
何言ってるんだこいつは? 急に詩人にでもなっちゃったの?
「俺はさっきこういうところにわくわくすると言っただろ」
「ええ、そうね」
そんなこと言っていたような気がする。
「俺の家は厳しくていつも勉強だの鍛練だの言われて中々家から出ることも出来ない。そんな時に猫を見掛けてな。気付いたら猫の後を追ってこういった路地に入っていた。そしていつの間にか迷い込んでいた路地の先に一本の木があったんだ」
「木?」
「そう、木だ。あの時は戻ろうかどうしようかと迷っている時にぽっかりと開いた空間に空から温かな光を浴びて真っ直ぐに立つ木に何故か感動してそれ以降ちょくちょく家を抜け出すようになって親には怒られたがあの時の感動をもう一度となったんだ」
「ふうん」
「この辺りに引っ越すことになってここでもあの感動を味わいたくて」
それはいいんだけどどうしてあたしまで一緒に行かないといけないのかさっぱり分からない。
たまたまいたから? 誰かに感動を分かち合いたいとか?
きっとそうなのだろう。
あたしだって家にいた頃はたまに窮屈に感じる時があった。あったけどユスリアル外に出てあちこち歩き回りたいとは思わなかった。
あの頃は何か夢中になれることはあったかな?
ユスリアルの腕を振り払おうとするのはやめてこうなったらとことんユスリアルに付き合おうじゃないか。
あたしだってエペンス通り以外殆ど出たことないからユスリアルの気持ちは分からなくもない。
こういうのもたまにはいいのかもしれない。
ユスリアルの背中を追いかけながらこの先に何があるのかわくわくした方がきっと今日は楽しめるはずだ。
途中道なの? と言うような塀の段差とか明らかに誰かの家の庭では? と聞きたくなるような場所を通り抜けて進む。
歩いている時はユスリアルとあまり話をしなかった。
ただ、この時間は不思議と嫌いではなく、その内こんな時間がもっと続けばいいと思うようになってきたがそんな時間も夕日が差し込むまでだった。
「あ、もう夕方だわ……」
「そろそろ帰らないと怒られるが、まだこの街の特別なところを見つけられてないからもう少しだけ」
「怒られるんじゃないの?」
「……」
黙っちゃった。
「別の日にまた探検する?」
「そうしたいが、時間が取れるかどうか……」
ユスリアルの家は厳しいから出てこられないかもしれないと言う。
そりゃあたしだってまだユスリアルと一緒に居たいけどそろそろシスが帰って来るだろうし、今日の夕飯の当番はあたしだ。
帰らないといけないのはあたしもおんなじだ。
残念がるユスリアルを宥めすかして帰らせてあたしも家に帰った。
「アリシア! 今までどこにいたの?!」
「え?」
「夕方戻って来なかったでしょ」
「ええっと……」
そういえば今日は絵画教室に参加していたんだった。
既に夜の8時。今日は中々シスが戻って来ないからせっかく作った料理は冷めちゃって戻って来たら怒ってやらなくちゃと思っていたらシスが帰って来て開口一番に怒られてびっくりしちゃった。
「カノンがアリシアの絵を持って戻って来たから聞いたら途中でイビーナの家に向かったって言うからイビーナの家に向かったらイビーナの家には来てないって言うから探してたんだよ!」
そうだった。イビーの家を探してる時にユスリアルと出くわしてそのままあっちこっち移動しててすっかり忘れてた。
「あの、ごめんなさい。今日仲良くなった子と遊んでたらすっかり絵画教室のこと忘れちゃってて……」
怒っているよねとちらりとシスを見上げるとシスの顔は汗に濡れていた。
今まで探し回っていたと言うのは嘘じゃなかったみたい。
こんなに怒っているのはこの家に来た時に勝手に抜け出した時以外で見たことない。
「それで……夕方になったから家に戻っちゃったの……あの、ワザとじゃないのよ!!」
「……分かった。怒ってないから」
「本当?」
怒ってないのなら何で黙ってるの?
聞きたいことは色々あったけどシスがイビーの家にあたしが見つかったって知らせに行くからと言って家を出て行ってしまったから聞けなかった。




