第99話:感電ジジイと献上スマホ、そして相棒が吸血鬼の胸にサンドされてて脳内限界突破なんですけどぉ!
凛愛の爪先マッサージも、いよいよ限界を迎えていた。
これ以上、適当なうんちくも思いつかず、凛愛は教室の天井を見つめながら本格的に白目をむきはじめる。
ピピッ、と脳内で電子音が響いた。
「星凛愛、大量の冷や汗による脱水症状の危険性を検知しました。水分補給を推奨します」
メモリエルが無慈悲な警告を告げると、すかさず腰の聖光剣がニヤニヤと震えだす。
「ククク、並の剣ならとっくに錆びているところじゃ! まあ、このワシにとっては美女の極上な潤滑油だがな! もっと流すがよい!」
あたしの絶望的な心境を完全にガン無視して楽しんでいるエロ剣。
すると、珍しくあたしの心境を察したらしいメモリエルが、鞘の中のアルスカイゼリオンに向けてバチバチッと激しい電撃をくらわせた。
「ぎゃあああぁぁぁ!!わ、悪く無い……」
その衝撃で、あたしのポケットからスマホが飛び出し、教室の空中にぷかぷかと浮かび上がる。
その様子に、目の前にいたティアリス様がピクッと反応して目を輝かせた。
「な、なんじゃ!? そのキラキラのプカプカしているヤツは!」
ティアリスが、もの凄い勢いで浮かぶスマホに飛びついた。
本来なら、不審な接近者に対してビームなり電撃なりで容赦なく迎撃するはずのメモリエル。
なのに、ティアリスが純粋な「聖属性」の塊だからなのか、機械のバグなのか、全く反応せずにそのまま捕獲されてしまう。
「ほう! 奇妙な質感じゃな。鏡のようでもあり、中に不思議な光が灯っておる……其方!リア! 聞いておるのか! これはなんじゃ?」
ティアリスは空中を飛び回りながら、スマホを小さな両手で抱えて凛愛を問い詰めてくる。
熟成ネイルチップの言い訳に続いて、今度はスマホの説明を迫られる、凛愛の脳みそはもうとっくにキャパオーバーだ。
「え……? あ、はあ、あの……スマホ、です……ただの、板、です……」
あたしは魂の抜けた声でそう答えるのが精一杯だった。
(早くチュンペーが戻ってきてくれないと、ネイルの前にあたしの持ち物が全部この爆弾妖精のオモチャにされちゃうんですけどぉぉ!!)
「すまほ? これは妾にこそ相応しい! 其方!妾に献上せよ!」
ネイルのこともすっかり忘れて、ティアリスはスマホを抱えたまま大はしゃぎし始めた。
まさかの献上要求に、凛愛は完全にフリーズする。
「え、い、いやぁ……だ、だ、だめぇ……って言うか、あの……え〜……」
さすがに私物のスマホを魔族のプリンセスに差し上げるわけにはいかない。
くれと言われて困惑していると、それまで一連の騒ぎを横目で見ていたネクロスも、しわがれた瞼を見開き、その瞳を怪しく輝かせた。
「ウィイヒッ! 儂にも触らせてくれぬか?」
ネクロスが興味津々でカサカサの手を伸ばした、その瞬間だった。
聖属性のティアリスには完全にスルーを決め込んでいたメモリエルが、ネクロスの不浄な気配を察知したのか、超速反応でバチバチッと激しい電撃を放った。
「ウィイッ!?」
ネクロスは短い断末魔を上げると、プスプスと全身から香ばしい煙を上げながら、そのまま床へと倒れ込んだ。
これには凛愛も飛び上がって驚く。
「!!……ジ、ジジィ!? 死んじゃった!?」
すると、スマホの画面からメモリエルの無機質な音声が流れた。
「安心してください。このジジイは元から生体反応はありません」
「え!? ゾンビ? じゃあいいか……いや、よくないでしょ! でも、ちょっと可哀想になってきた……」
元から死んでいるという衝撃の事実に納得しかけつつも、倒れた老人に良心が痛む。
しかし、目の前でネクロスを一撃で黙らせたスマホの威力を見て、ティアリスは怯むどころか、さらにその目をキラキラと輝かせた。
「おお! 素晴らしい威力じゃ! ますます気に入ったぞ!」
これ以上スマホで遊ばれたら学園が崩壊しかねない。そんな絶望的な状況の中、ガラッと音を立てて教室の扉が開いた。
「ごきげんよう」
戻ってきたのは、首輪を買いに出かけていたブラドレイン兄妹だった。
タイミングが良いのか悪いのか分からない帰還に、凛愛がそちらへ視線を向けた瞬間、彼女は我が目を疑った。
「な、な、な、なぜぇぇぇ!?」
なんと、ミラが誇る妖艶な胸の谷間に、チュンペーが取り戻しに行ったネイルチップの小瓶と、その本人までが、みっちりとはさまっていたのだ。
ドラグリア・インフェルノで何がどうなったら、雀が吸血鬼の胸にダイブして戻ってくることになるのか。
魔界の常識を遥かに超越したその絵面に、凛愛の脳は本日何度目か分からない完全停止を迎えるのだった。
現在のステータス
・名前: 星凛愛
・状態:
・脳内パニック(カンスト): スマホの危機、ジジイの感電、そして相棒の「桃源郷はさまれ事件」が同時に発生し、処理が追いつかない。
・生存フラグ(一応回収): ネイルチップが戻ってきたことで放課後の爆破は免れそうだが、それどころではない。
・相棒:
・気まずさ限界突破雀: ミラの胸元からはさまったまま凛愛と目が合い、「見るな、バカ人間……」と死んだ魚のような目をしている。
・聖光剣アルスカイゼリオン:
・血涙の呪詛: 「小鳥ィィィ! 貴様だけは絶対に許さん! いますぐその場所をワシの柄と代われぇぇ!」と激しい嫉妬の炎を燃やしている。
・周囲の状況:
・ネクロス: 倒れたままピクピクと痙攣しており、ライゼルが「自業自得だ」と冷たく見下ろしている。
・ミラ: 胸元のはさまり具合を特に気にする風でもなく、優雅に微笑んでいる。




