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第98話:急転直下のマッハ帰還、そして極上の着地(物理)なんですけどぉ!

 駄犬に救われた屈辱にプルプルと震えが止まらないチュンペーだったが、その様子を見たルクレシアはあることに気がついた。


「ん! チュンの付けてるキラキラ! ワンにくれるの?助けたからワン?」


 なぜか彼女は、命を救ったお礼と言わんばかりに、チュンペーの首元で揺れるハートのチャームを欲しそうに見つめてきた。


『な、なんだと? 厚かましい駄犬め! これはバカ人間が我に……』


 怒鳴り散らそうとしたチュンペーだったが、足元に転がっているネイルチップの小瓶を見てハッとする。

 いまはあのバカ人間のために、一刻も早くこれを持ち帰るのが先決。

 この駄犬がハートのチャームに気を取られている今こそ、ネイルチップを奪取して脱出する最大の好機だった。

 チュンペーは、ルクレシアに頭をもたげハートのチャームを差し出す素振りをした。


「そうか!そうか! ワンにくれるか! ワォ〜ン!」


 ルクレシアはチュンペーの沈黙を肯定と受け取ったのか、器用に小さなチャームをチュンペーの首元から外すと、嬉しそうに尻尾をブンブン振って吠えた。


『フン……いまは預けておく。いずれ必ず取り返すがな!』


 チュンペーは心の中でそう吐き捨てると、ルクレシアの掌からするりと脱出した。

 そして地面に落ちていたネイルチップの小瓶を小さな両足でガシッと掴み、カオス教室で待つ凛愛のもとへ向けて力強く飛び立とうとした。


 が、しかし……。


「チュン、やさしいな!バイバーイ!グラディアス!また遊ぶワン!」


 ルクレシアは別れを惜しむように、ものすごい勢いでブンブンと振り回していた自分の尻尾を、チュンペーに向けてビターン! と大きく一振りした。


 犬特有の、最大級の親愛の情を込めた尻尾振り。


 しかし、マグマをも跳ね除ける彼女の尻尾から放たれたのは、ただのファンサービスでは済まないレベルの凄まじい大突風だった。


『ぬおっ!? おのれ駄犬、余計なことをぉぉぉ!!』


 飛び立った瞬間のチュンペーは、その突風に真後ろからモロに煽られた。

 小瓶を持ったまま、制御を失った紙飛行機のように、魔界の空の彼方へと猛烈なスピードで吹っ飛んでいってしまう。


 方向は……一応、学園のある方角。


 しかし、あまりの超高速暴風スローに、元魔王の小さな意識は、青い空の彼方で今にも飛びそうになるのだった。


 思いもよらぬ速さでブッ飛ばされ、制御不能のまま大空を駆けるチュンペー。

 足元にはしっかりとネイルチップの小瓶を掴んでいるものの、景色が恐ろしいスピードで後ろへと流れていく。


『マズイ! このままではどこかに激突してしまう! 届ける前に我が逝ってしまうではないか!』


 小さな翼を必死に広げてブレーキをかけようとするが、フェンリルの尻尾から放たれた暴風の推進力は凄まじく、全く減速する気配がない。


 そして眼前には、すでに冥王大凶学園の禍々しい校舎が迫っていた。

 この速度なら放課後には余裕で間に合う。

 間に合うが……止まらない。


『チュチューーーーーーーン!!』


 断末魔のような鳴き声を上げながら、チュンペーは学園の敷地内へと弾丸のように突っ込んでいった。

 そして、そのまま校門付近にいた「ある影」に向かって、まっすぐに衝突する。


 ぼふっ!


「まぁ、なんですの!?」


「どうしたんだい? ミラ」


 それは、お目当ての首輪を買い終え、タイミング良く学園へと戻って来たブラドレイン兄妹だった。


 あまりの風圧と衝撃に目を回したチュンペーだったが、なぜか痛みは一切ない。

 それどころか、信じられないほど柔らかくて、もの凄く良い匂いのする何かに包まれていた。


 そっと目を開けると、そこはミラの豊かな胸元だった。

 吸血鬼の姫君の美しい胸の谷間に、ネイルチップの小瓶と、一羽の雀がみっちりとはさまっていたのだ。


『な、何が起きたのだ……?』


 あまりの状況にチュンペーがフリーズしていると、ミラは胸元に視線を落とし、はさまっている小さな雀と小瓶を見て不思議そうに首を傾げる。


「あら? これはリア様の……お兄様、空から小鳥とネイルが降ってきましてよ?」


「おや、本当だね。それはさっき小瓶を追いかけていった犬の……いや、それよりミラ、ボクの買った首輪の使い心地を試す前に、妙な闖入者が現れたね」


 ブラドレイン兄妹が至近距離でそんな会話を交わす中、はさまれた元魔王は、屈辱と、戻ってきた安堵と、何より圧倒的な気まずさで、別の意味で意識を失いそうになるのだった。


 現在のステータス

 ・名前: 星凛愛ホシ・リア

 ・状態:

 ・限界チクチク師(継続): 教室で「そろそろマッサージのネタが……」と冷や汗の第2波に襲われている。

 ・胸騒ぎ: チュンペーがすぐ近くまで戻ってきていることには、まだ気づいていない。

 ・相棒チュンペー

 ・桃源郷はさまれ雀: ミラの胸元に小瓶ごとジャストフィット。無傷で帰還したものの、元魔王のプライドが完全に迷子。

 ・聖光剣アルスカイゼリオン:

 ・嫉妬の大絶叫: 「おのれ小鳥ぃぃぃ!! ワシの、ワシの聖域に何をしてくれるかぁぁ!! 替われ! 今すぐワシと場所を替わるのじゃあぁぁ!!」と血涙を流さんばかりに大暴れ中。

 ・周囲の状況:

 ・学園の校門前: ヴァル=エリクスが買ってきた首輪を手に、ミラの胸元に挟まるチュンペーを面白そうに眺めている。


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