第100話:胸元からの大ピンチ、熟成ネイルはまさかのライバルの元なんですけどぉ!
凛愛の思考が完全にパンクしてフリーズしている中、ミラがしなやかな足取りでこちらに寄ってきた。
豊満な胸に挟まったブツを強調するように突き出しながら、小悪魔的な笑みを浮かべる。
「この小瓶と小鳥さん、リア様のですわよね? 途中で降ってきましてよ?」
「え、あ……は、あ、え? はい……あたしの、です……」
完全に状況についていけず、ロボットのような返事しかできない。
ミラの胸元にみっちりはさまったチュンペーは、相変わらず死んだ魚の目で凛愛を見つめたままだ。
しかし、状況は凛愛を置いてさらに加速する。
間髪入れずに、それまでスマホに夢中だったティアリスが、ぷんぷんと怒りながらミラの元へと寄ってきた。
「また、妾の邪魔をしに戻って来おったか! ヴァル=エリクス!ミラ!……む? して、その胸元にあるのはなんじゃ?」
ティアリスの鋭い視線が、ミラの胸元にあるネイルチップの小瓶へと注がれる。
その瞬間、凛愛の脳内に最悪の警報が鳴り響いた。
マズイ。
あまりにもマズすぎた。
「南方のマグマで熟成させている」と大嘘をついた最高級ネイルチップが、あろうことかティアリスと一番険悪な相手であるミラの胸に挟まっているのだ。
「あ、あれは……その……」
冷や汗の第3波が凛愛の背中を駆け抜ける。
もしこれが「マグマから飛んできたのをミラがキャッチした」なんてバレたら、ティアリスのプライドは木っ端微塵になり、この教室は今度こそ消滅する。
(ちょ! チュンペー! どーゆーコト!? なんであんた、よりによって一番ややこしい人の胸に挟まって戻ってきてんのよぉぉ!!)
凛愛は心の中で、親の仇を睨むような勢いで相棒のスズメにテレパシー(怒声)を送りつける。
ティアリスはミラの胸元にある小瓶の中身と、凛愛のネイルを交互に見比べた。
その小さな瞳の奥に、バリバリと凄まじい怒りの魔力が湧き上がってくるのが空気の振動で分かる。
「ほお……なるほど。リア、其方は、この不浄な吸血鬼に熟成ネイルを取りに行かせたと? 妾への献上品を、よりによってこのような者に触れさせるとはな……」
ティアリスの周囲の空間が、怒りの魔力粒子でビリビリと歪み始める。
完全に最悪の方向に誤解していた。
「いや……いやだ、ちがう……ちがいますぅぅ!! ミラさんにお願いしたわけじゃなくて、これはその……!」
凛愛は両手をブンブンと振って必死に否定するが、「じゃあなんで、そこにあるの?」という疑問に対する完璧な答えが瞬時に出てこない。
「妾を怒らせるに十分な仕打ちであるぞ……リア、わかっておろうな?」
ティアリスの背後から、教室の天井を突き破らんばかりの圧倒的な威圧感が膨れ上がる。
ネイルの在庫がマグマに消えたと言っても怒られるし、吸血鬼の姫君にパシリをさせたという誤解も地獄。
どちらに転んでも、凛愛の目の前には「地面に逆さまに埋められる」という未来の選択肢しか残されていなかった。
(あたしの運10のパラメータよ、仕事して! 超絶大ピンチのネイリストを、今すぐこの修羅場から救い出してよぉぉ!!)
現在のステータス
・名前: 星凛愛
・状態:
・言い訳の限界: 「熟成ネイル」と「ミラの胸」を繋ぐロジックがミリも思い浮かばず、完全に詰みかける。
・冷や汗の無限機関: 脱水症状を通り越して、もはや干からびそうなレベルで冷や汗が止まらない。
・相棒:
・限界突破の気まずさ: 『見るなと言っているだろ、バカ人間……我とて好きでこの肉の壁に挟まっているわけではないわ……』と心の中で逆ギレ中。
・聖光剣アルスカイゼリオン:
・怒りの化身: 「おのれ小鳥め、そこはワシが納まるべき聖なる谷間じゃぞ! 呪ってやる、末代まで呪ってやるわぁぁ!」と嫉妬で刀身が真っ赤に発熱中。
・周囲の状況:
・ティアリス: ミラの胸元にあるキラキラした小瓶を見つめ、不機嫌そうなオーラを放ち始めている。
・ミラ: ティアリスの視線に気づき、わざとらしく胸元を強調して「あら、羨ましいのかしら?」と挑発的な笑みを浮かべる。
・ヴァル=エリクス: 妹の背後で、買ってきたばかりの首輪を指に引っ掛けながら、楽しそうに事の顛末を見守っている。




