第101話:割り込みネイルと逆上妖精、あたしを挟んで修羅場が開幕してるんですけどぉ!
「なんですの? 先程から羽虫が騒がしいですわね……リア様、ネイルの件は終わったのかしら?」
ティアリスがバリバリと怒りの魔力を滾らせている真っ最中だというのに、ミラは全く動じる風もなく、それどころか小馬鹿にしたようにフッと微笑んだ。
胸元にチュンペーと小瓶をはさんだままのグラマラスなポーズで、ネイルチップの小瓶だけを器用に凛愛の前にスッと差し出す。
そのまま当然のように凛愛の隣の席に腰を下ろした。
「では、リア様。次は私の番ですわね」
ミラはそう言って、細くしなやかな真っ白な手を凛愛の目の前に差し出してきた。
あまりのマイペースっぷりと、完全なる割り込み宣言に、教室内の空気が一瞬で凍りつく。
だけど、それ以上に突っ込みたいところが多すぎる。
(いや、はさんだまま喋るなよ!! チュンペーの顔、もう半分埋もれてて完全に意識飛んでるじゃん!!)
凛愛が心の中で猛烈なツッコミを炸裂させていると、腰の聖光剣も別の意味で限界を迎えて大絶叫した。
「おい小鳥ィィィ!! 貴様、密着度がさらに増しておるではないか! ワシも挟まれたい!!」
ティアリスの背後の魔力粒子が、いよいよ爆発寸前の火山の如く激しく明滅し始めた。
「おのれぇ! 吸血鬼! まだ、妾の話は終わっておらぬぞ! リア! 其方、その吸血鬼の肩をもつ気か! 妾を差し置いてその者に施術するなど、絶対に許さぬぞ!」
完全に約束を破ってライバルを優先した、という最悪の構図に脳内変換されている。
「いやぁ! ちがいますぅぅ……! あたしはただ、机の上のカオスに挟まれてるだけで、誰の味方とかそういう次元じゃないんですぅぅ!」
凛愛は涙目で首をちぎれんばかりに横に振った。
目の前には、早くネイルを塗れとばかりに綺麗な手を差し出してくる吸血鬼の美少女。
胸元には、窒息寸前で白目を剥いている相棒のスズメ。
そして背後には、裏切り者を見る目で世界を滅ぼしそうな魔力を放っている爆弾妖精のプリンセス。
右を向いても左を向いても地獄の選択肢しか存在しない。
凛愛のゲーム脳は、すでに完全にフリーズして「システムエラー」の文字を点滅させていた。
そして、誰よりも、この騒がしすぎる状況にイラついていたライゼルが、ついに爆発寸前を迎えていた。
その全身から立ち上る黒いオーラは、ティアリスの魔力とはまた違う、本気の威圧感を放っている。
「貴様らぁ! いい加減、ムカついて仕方がないのだが? ここは遊びの場ではないぞ! 弁えろ!」
ライゼルの地を這うような怒声が教室内に響き渡り、凛愛の体がビビビッ! と激しく震え上がる。
(ヒィィィッ! ほら怒った! 一番怒らせちゃいけないガチのヤンキー風紀委員がキレたぁぁ!!)
だけど、恐怖で縮み上がっているのは凛愛ただ一人だった。
次の瞬間、凛愛以外の全員、つまりティアリスもミラも、なんなら倒れてプスプス言っているネクロス以外の魔族たちが、一斉にライゼルを冷ややかな目で睨みつけた。魔界の強者たち、全く怯む気配がない。
ライゼルがさらに激しく吠えようとしたその時、ミラの背後でずっとニヤニヤしていたヴァル=エリクスが、楽しそうに口を開いた。
「あ〜ぁ、ライゼルぅ。今まで、こんなに皆んながイキイキしてたことあるかい?」
「あ……?」
ライゼルが眉間のシワをさらに深くする中、ヴァル=エリクスは首輪を指で弄びながら、爽やかな笑顔のまま言葉を続ける。
「このクラスが始まって以来、いつも殺伐として、互いを牽制し合い、喋ることすらなかったんだよ? それがどうだい、この活気は! せっかく人界から面白い人間が来たんだ、楽しまなくちゃ損じゃないか!」
(いや、楽しんでるのあんたたち兄妹だけだから!! あたしは今、命のデッドラインの上で反復横跳びさせられてるんですけど!!)
ヴァル=エリクスの超絶ポジティブな謎理論に、凛愛は心の中で血を吐きながらツッコミを入れた。
だけど、彼の言葉のせいで、キレたライゼルと、乗っかる吸血鬼兄妹、そして未だにスマホを狙う爆弾妖精の三つ巴になり、事態はさらに泥沼化していくのだった。
現在のステータス
・名前: 星凛愛
・状態:
・ビビリ散らかし: ライゼルの怒声で心臓が縮み上がり、精神的HPが完全に底をつく。
・ツッコミの限界: 魔族たちのマイペースっぷりに、もはやツッコミを入れる体力すら失いかけている。
・相棒:
・意識混濁雀: ミラの胸元に挟まれたまま、ライゼルの怒声に小さくピクッと反応するが、まだ脱出できない。
・聖光剣アルスカイゼリオン:
・便乗: 「うむ、あの吸血鬼の兄、なかなか良いことを言うではないか! 殺伐とした教室より、こういう華やかな修羅場の方がワシも大好物じゃ!」と呑気なもの。
・周囲の状況:
・ライゼル: ヴァル=エリクスの煽るような物言いに、青筋を立てて拳を握りしめている。
・ティアリス: ライゼルの乱入で少し気が逸れたが、まだスマホを片手にミラを睨みつけている。




