第95話:嘘八百の熟成ネイル!?マグマと爆弾妖精に挟まれてあたしの心臓が持ちそうにないんですけどぉ!
脳内がパンクしそうな凛愛は、白目を剥いて全力の現実逃避に突入していた。
しかし、目の前ではさらに理解不能な会話が繰り広げられる。
「ミラ! 早速、首輪でも買いに行こうじゃないか」
ヴァル=エリクスが爽やかに提案すると、ミラも頬を染めて嬉しそうに応じる。
「お兄様! 私も、そう思っていましたの! あ〜……リア様、そのネイルは、また後日、拝見させて頂きますわね」
(え、マジで行くの? 学校の自習時間に兄妹で首輪買いに? しかもそれを「また後日」ってさらっと流すあたり、あたしのネイルより首輪の優先順位が高いってコト?)
「そうじゃ! それがよい! サッサと出てゆけ! さあ、リアよ! 作業を始めるのじゃ!」
ティアリスが羽虫を払うような仕草で二人を追い出し、凛愛を急かす。
その勢いにハッと我に返ると、腰のあたりで凄まじい振動が伝わってきた。
「ミラ殿! 待たれよー!! 行かないでくれぇぇ!!」
聖光剣が鞘の中で、この世の終わりの様な悲痛な叫びを上げている。
(ミラさんの妖艶な腰つきが離れていくのがそんなに悲しいのかぁ!)
持ち主として恥ずかしく女として負けた感で、凛愛の精神的HPはもうゼロに近い。
「……おい、人間。お前が来てから、このクラスの風紀は乱れる一方だぞ」
自習だというのに、兄妹の行動に呆れ果てたライゼルが、矛先を凛愛に向けて睨みつけてきた。
「えぇ……あたしのせいじゃない…… あたしも被害者なんだけど……」
「やかましい! ようやく厄介払い出来たのじゃ! ライゼル、其方は静かに自習しておれ! リアは妾の専属なのじゃからな!」
ティアリス様がライゼルの威圧を跳ね除け、凛愛
の指をグイと引っ張る。
凛愛はライゼルの刺さるような視線と、ティアリスの爆弾級の我儘に挟まれて、再び白目を剥きそうになった。
しかし、いざ作業を始めてみると、手のひらサイズの妖精の爪はあまりに小さすぎて、施術の難易度がバカみたいに高い。
まるでお米の粒に文字を書く修行でもしてる気分だ。
プルプルと震える手で少しずつ魔力を流し、形を整えようとするが、肝心な飾りのネイルチップが見当たらない。
凛愛は冷や汗を流しながら、必死に机の上やバッグの中を探した。
(……だよね……知ってる。さっきチュンペーが、モッフルちゃんを追い払うために外に投げたあの小瓶。あれ、あたしが今日使う予定だった一番キラキラの特製チップだよね……)
「どうした? 早くするのじゃ。其方の爪に着いておるのと同じ、最高にキラキラした物を頼むぞ?」
ティアリス様が、期待に目を輝かせながら催促してくる。
その純粋な瞳が、今は時限爆弾のカウントダウンにしか見えない。
(ヤバい……あたしの予備も、最高級のキラキラも、全部モッフルちゃんが喜んで追いかけてって、今は南方のマグマ溜まりの中だわ……)
嫌な汗が滝のように額を伝う。
(やっと、やっと機嫌が直ってきて、教室の爆破フラグが折れかかってたのにぃ!)
ここで「在庫、マグマの中に消えました」なんて言ったら、今度こそ凛愛が逆さまに地面に埋められる。
「あ、あの……ティアリス様……その、最高級のパーツはですね、今、南方の……『熟成』をさせておりまして……ええと……」
「熟成? ほう、流石は人界の美学、手間がかかっておるのじゃな! 良いぞ、待ってやる……放課後の課外授業が始まる前には、当然、間に合うのじゃろうな?」
ティアリス様の背後で、キラキラした魔力粒子がパチパチと音を立て始めた。
それは明らかに「間に合わなかったら、どうなるか分かっておるな?」という無言の圧力だった。
凛愛は心の中で、全力で遠吠えを上げているであろう犬系女子に叫んだ。
(モッフルちゃぁぁぁん!! 今すぐそれ持って帰ってきてぇぇぇ!! マジで命がかかってるんですんですけどぉぉぉ!!)
現在のステータス
・名前: 星凛愛
・状態:
・絶体絶命の嘘: 「マグマに落ちた」を「熟成中」と偽り、最悪の先延ばしに成功。
・冷や汗のダム崩壊: 放課後というタイムリミットに怯え、精神的ダメージが「運10」でもカバーしきれない。
・精密作業(限界): 震える手でティアリスの極小の爪と格闘中。
・相棒:
・知らぬ存ぜぬ雀: 自分が投げ捨てた元凶であることは棚に上げ、「嘘に嘘を重ねるなよ、バカ人間」と高みの見物。
・聖光剣アルスカイゼリオン:
・復活の兆し: 「マグマか! 懐かしいのう。ワシがひとっ飛びして回収してやってもよいぞ? 代わりに何か艶かしい報酬を……」と怪しい取引を持ちかけてくる。
・周囲の状況:
・教室内: ティアリスの期待感が膨らみすぎて、教室の湿度が上がっている(魔力的な意味で)。
・窓の外: はるか南方で、何も知らないモッフルちゃんが「ワン!」と元気にマグマを跳ね飛ばしている。




