第94話:美しき魔族は癖の塊、そしてモッフルちゃんは…?
ヴァル先生はあっさりと教壇を降り、自習を宣言した。
自習の時間になった瞬間、教室内には静寂どころか、途端に、教室内はティアリスとミラのバチバチと火花が散るような一触即発の空気が漂い始めていた。
察した凛愛は、早速ネイル作業の準備に取り掛かる。
が、真っ先に隣に来たのはミラだった!負けじとティアリスも凛愛めがけて飛んできた。
「ちょっと其方!いつまでそこに居座っておるのじゃ。妾のネイルの続きを邪魔するなと言ったはずじゃぞ、吸血鬼!」
ティアリスが小さな体を震わせ、キラキラした聖属性の魔力を周囲に撒き散らしながらミラを睨みつける。
「あら、そんなにムキにならなくても良くないかしら? 私はただ、この子が作る素敵な輝きを近くで見たいだけですのに……独り占めなんて、美しくありませんわ!」
ミラは妖艶な微笑みを浮かべながらも、その瞳の奥には吸血鬼特有の冷たい光を宿し、ティアリスの威圧を真っ向から受け流します。
「御託を並べおって!其方のような不浄な種族に、この繊細な輝きが理解できてたまるか! 消し飛ばされたくなければ、さっさと席に戻らぬか!」
「あら、怖いですわね。でも、私の興味を引いたものは、最後まで見届けないと気が済みませんの!どうぞ、お気になさらずに……羽虫さん」
「小虫だの羽虫だの!妾を虫扱いしおって!さっきから蚊の様に五月蝿いのは、其方の方じゃ!!叩き潰すぞ!!」
手のひらサイズの爆弾妖精と、美しくも恐ろしい吸血鬼の姫君。
二人の美しき魔族による睨み合いは、もはや物理的な圧となって周囲の机をガタガタと揺らしていた。
その中心で、凛愛は涙目でネイルチップを握りしめたまま、ガクガクと震え上がっている。
「や、やめてぇぇ……! あたしの目の前で魔力ぶつけ合わないでぇ! 挟まれてるあたしが一番先に消し炭になっちゃうんですけどぉぉ!!」
人界でレベル17まで上げたとはいえ、今の凛愛にはこの二人の殺気を受け止める余裕は皆無。
そんな凛愛の心中を察してか、ミラの兄である
ヴァル=エリクスが割って入った。
「まぁまぁ、二人とも、歪み合ってばかりじゃ折角の美貌も台無しじゃないか。キミ達が良くても、ボクは良くないなぁ〜……悲しくなってきちゃうよ?」
「なぁにが悲しくじゃ!!其方!この妹の躾はどうなっておる! しっかり、首輪をつけておかぬから、こうなるのじゃ!」
ティアリスのあまりに横暴な言葉に、凛愛は凍りついたが、ミラは妖艶に微笑む。
「まあ!犬の ルクレシアなら兎も角、首輪ですって? ……ん、悪くなくてよ?」
凛愛は、自分の耳を疑う。
(怒るどころか、癖に刺さっちゃってんじゃん……マジか……イイ匂いだなぁ)
「ミラに首輪ね……ティアリスちゃん………なかなか悪くない提案だよ、むしろ、凄く良いっ!」
凛愛は、自分の耳を疑う。
(え?凄くイイのかよ!?あなたも?いやいや……違う方向に行ってるんですけど!?)
助けに入ったヴァル=エリクスも、ティアリスの放った「首輪」という暴言を何故かポジティブに受け取り、ミラ本人までもが頬を染めて肯定する始末。
魔族のズレた倫理観と業の深さに、凛愛の脳内ツッコミはもはや追いつかない。
しかし、凛愛の胃を痛める原因はそれだけではなかった。
なぜなら——
「……モッフルちゃん、まだ戻ってこない……」
ルクレシア・フェン・リンヴル(通称モッフルちゃん)は、チュンペーが投げ捨てた「キラキラネイルチップの小瓶」を追いかけて、教室の窓から一直線に外へ飛び出して以来、行方不明になっていた。
凛愛は窓の外を心配そうに見つめながら、小さく呟いた。
「モッフルちゃん……どこまで行ったの……?」
その瞬間、スマホの中でメモリエルが静かに反応した。
「星凛愛、心拍数が上昇しています。ルクレシアの所在……現在位置を特定しました。南方炎獄領域、ドラグリア・インフェルノの端にあるマグマ溜まりのほとりにいます。グラディアスと一緒にマグマを玩具のように転がして遊んでいるようです」
凛愛は目を丸くした。
「……え、南方!? マグマで遊んでる!?
モッフルちゃん、砂遊びじゃないんだから……てか、マグマよ?しかもグラディアスと一緒に……子供かよっ!?」
チュンペーが髪の中で呆れた声を出した。
『……ふん、あの犬は本能に忠実すぎる。キラキラしたものを見ると、全力で追いかける様だな?単純で扱い易いのは良い発見だ』
遠く、ドラグリア・インフェルノから嬉しそうな
「ワォーン!」という遠吠え。
どうやら魔界の「遊び」のスケールは、インドア派の凛愛には一生理解できそうになかった。
現在のステータス
• 名前: 星凛愛
• 状態:
• 精神的サンドイッチ: ティアリスの聖魔力とミラの妖艶な香りに挟まれ、五感がパンク気味。
• モッフルちゃん: マグマで遊ぶ同級生たちの野生児っぷりに、もはや保護者の境地。
• 魔界適応拒否: 首輪を喜ぶブラドレイン兄妹の性癖に、激しい文化の壁を感じている。
• 相棒:
• 外道軍師: ネイルチップを囮にルクレシアを排除した張本人。本能に忠実な彼女を「扱いやすい」と高く評価中。
• 聖光剣アルスカイゼリオン:
• エロモード継続: ミラとの密着を楽しみつつ、「次は首輪か、良いのう!」と欲望の赴くままに震えている。
• 周囲の状況:
• ドラグリア・インフェルノ: 欠席した二人がマグマで泥遊びならぬマグマ遊びに興じている。
• 冥王校・教室: ティアリスのネイル作業再開を待つ不穏な静寂と、ブラドレイン兄妹の危うい空気感が充満。




