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第92話:ネイルサロン冥王校、本日大盛況なんですけどぉ!

 収拾がつかないカオス状態、凛愛はもう泣きそうだった。

 そもそも、ネイル作業は客側の立場であり施すほどの腕はない。

 強引なティアリスはイライラして魔力をスパークさせはじめ、ネクロスは這い寄り、ルクレシアはワンワン吠えながら突っ込んでくる始末。


 そんな時、髪の中からチュンペーが動いた。

 無限スクールバッグからキラキラしたネイルチップが入った小瓶を引っ掴むと、そのまま窓の外へ思い切り投げ捨てた。


「……行け、駄犬! それを拾ってこい!」


「ワンワンワーン♪」


 嬉しそうに尻尾をブンブン振り回しながら、ルクレシアはキラキラ光る小瓶に釣られて、窓から外へ一直線に飛び出していった。


「え……あの子、ガチで犬……?」


 しかし、混乱は終わらない。

 以前から聖光剣を狙っていたネクロスは、凛愛が怯んでいる隙にスッと手を伸ばした。


「触るでない! ジジイがぁっ!」


 聖光剣が怒鳴った瞬間、ネクロスが触れた指先から腕が、砂みたいにボロボロと崩れ落ちた。


「えええええっ!? 腕っ! 腕ぇっ! ジジイの腕があぁぁっ!」


 消えた腕に凛愛が絶叫する中、ネクロスは欠けた肩を見つめて呟く。


「ウィッヒ! 素晴らしいっ! 魔族は触れることすら叶わぬか……」


 痛みなど微塵も感じていない様子で、満足げに自分の席へ這いずっていった。


「マジで……この学園、感性が狂ってる人しかいない」


「全く騒がしいのぅ!其方!ようやく、ネイル作業に専念出来るな?」


 ティアリス様が低い声で急かしてきたから、凛愛は必死に手を動かした。

 が、一難去ってまた一難。

 今度は教室の扉が開いて、ブラドレイン兄妹が入ってきた。


「ごきげんよう皆さ……まぁ! なんですの? そのキラキラは!」


 即座に反応したのは、妹のミラだった。

 あの高慢な吸血鬼のお嬢様が、凛愛の手元を見て目を輝かせている。


「妾が先じゃ! 邪魔をするな吸血鬼風情が!」


「あら、そんな素敵なもの、独り占めは良くないんじゃなくて?小虫さん」


(やめてぇ……あたし、今日中にこの教室から生きて出られるのかな?)


 背中越しに、ライゼルの冷たいオーラがビリビリ伝わってくる、凛愛は生きた心地がしない。

 だが、それをなだめたのはヴァル=エリクスだった。


「まぁまぁ、そうカリカリしなくてもいいじゃないか。まだ彼女は入ってきたばかり、しかも勇者だよ?皆が興味を惹かれるのは仕方ないコトさ。キミだって、そうだろう?」


「くだらん! いずれは敵同士! 馴れ合うなと言っているだけだ!」


「ん、まぁ、勿論そうだけど、それまでの余興を愉しむと思ってさ? ボクは嫌いじゃないけどなぁ」


「ふん! 勝手にしろ!」


 ライゼルは吐き捨てるように言って窓の外を見たが、場の空気は全然冷めない。


 それどころか、隣のミラがグイグイ体を密着させてネイル作業を食い入るように見つめてくる。

 吸血鬼の妖艶な香りがして、同じ女の凛愛でもドキドキしていた。


 すると、凛愛とミラに挟まれる形になっていた聖光剣が、急にガタガタと震えだした。


(ヤバい、またジジイみたいに消し飛ばしちゃう!?)


 あたしが青ざめた瞬間、鞘の中から信じられない声が響いた。


「よ、よいぞ!! たまらん!! なんと艶かしい腰つきか! ふははは、至福の時よ!」


(……はぁぁぁ!? 魔族でも、好みなら何もしねぇのかよ!! ジジイの腕は一瞬で消し飛ばしたくせに、美女ならオッケーとか、この剣のコンプラどうなってんの!?)


 ネクロスはそんな様子を横目で観察していた。


「ウィッヒ! ほほぅ! なるほどな……」


 欠けた腕のことも忘れてカリカリ何かをメモしている姿は不気味すぎた。


 ミラの色気は性別問をわず、凛愛も魅了されそうだったが、反対側にいるティアリスの視線が、早く完成させよと言わんばかりに突き刺さった。


 その時、ガラッ!と大きな音を立てて教室の扉が開いた。


「おはよう! 諸君!」


 担任のヴァル先生が入ってきた。

 その瞬間、未完成のネイルを抱えたティアリスが、これ以上ないくらい不機嫌な顔で地団駄を踏んだ。


「ぬぅぅ……まだ、途中ではないか! 其方らっ! が邪魔しおるからじゃ!!」


 凛愛は心の中で、全力でヴァル先生に感謝した。


「先生、ナイスタイミング! 命拾いしたぁ……」


 現在のステータス

 ・名前: 星凛愛ホシ・リア

 ・状態:

 ・エロ剣の被害者: 聖光剣のあまりの欲望に、持ち主として恥ずかしさで爆死したい。

 ・ミラの誘惑: 吸血鬼の魔性っぷりに当てられて、ちょっと脳がふわふわしている。

 ・地雷原の生存者: ティアリスの「お預け」を食らった怒りが、放課後の授業に響かないか本気で心配。

 ・相棒チュンペー

 ・呆れ果てた雀: 聖光剣の節操のなさに、もはや突っ込む気力も失っている。

 ・聖光剣アルスカイゼリオン:

 ・賢者モード(物理): ミラとの密着により、かつてないほど魔力が満たされている(種族超越)。

 ・周囲の状況:

 ・教室内: ヴァル先生の登場で一応の静寂が戻るが、それぞれの思惑が渦巻いている。

 ・ネクロスのノート: 聖光剣の「好み」についての分析が書き連ねられている。

 ・ルクレシアが犬過ぎる。

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