第89話:癒しの後、次の試練はキラキラ妖精さんなんですけどぉ!
三日後、チュンペーの必死の介抱と、無限スクールバッグから惜しみなく投入された大量の薬品の効果で、凛愛の傷はすっかり癒えた。
「チュンペー、本当ありがとね!マジで助かったよぉ」
凛愛はベッドの上に座り、小さな雀の体を両手でそっと包み込むと、そのまま自分の頬にスリスリと頬擦りした。
『は、離せ!愛玩動物ではないと言っているだろうが!このバカ人間!』
いつものように嘴でつつきながら必死に抵抗するチュンペーだったが、その内心では、再び元気に喋り出した凛愛の姿に深く安堵していた。
そんな一人と一羽の騒がしいやり取りを遮るように、部屋のドアがトントンと控えめにノックされた。
「リア様、もう具合は良くなられましたか?」
扉の向こうから聞こえてきたのは、執事セバスチャンデルセンの声だった。
彼は部屋に入ってくると、整った動作で一礼し、淡々と言葉を続けた。
「酷ではありますが、本日からまた登校していただき、放課後には課外授業を受けていただきます」
「えぇ……もぉ!?休み短くない?」
不満げな声を上げる凛愛だったが、チャンデルセンが告げた次の講師の名前に、その表情が一変した。
「次の特別講師はティアリス様で御座います」
「ティアリス……あぁ!あの、キラキラの妖精ちゃん?やった!ちっちゃいし、カワイイし、逆に癒されちゃうんじゃない?楽勝じゃん!」
手のひらサイズの妖精、ティアリス・ルミナリエを思い出し、凛愛はパァッと顔を輝かせて浮かれる。
しかし、その隣でチュンペーは深いため息をつき、鋭い視線を凛愛に向けた。
『おい、なめてかかるなよ?魔界の七大貴族が、ただの可愛いだけの存在であるはずがなかろう』
元魔王の警告は、浮かれる凛愛の耳にはまだ半分も届いていなかった。
グラディアスとの死闘で死にかけたことなんて、今の凛愛にとってはどこ吹く風。
妖精とお近づきになれるとあって、ウキウキ気分で歩く通学路だったけど、周りの視線がいつも以上に刺さる。
どうやらグラディアスと渡り合った噂が広まっているようで、全裸事件のインパクトと合わさって、道ゆく生徒たちがモーゼの十戒の様に道を開けていく。
「トンデモ変態最強勇者」
そんな不名誉な二つ名が聞こえてくる中、後ろからドスドスと地面を揺らす暑苦しい気配が近づいてきた。
「よぉ!リア!人間のクセにやるよな!見直したぜ?それによ、お前のおかげでアザエルからの評価が上がってよぉ!」
上機嫌なグラディアスだ。
「他の奴らより、一歩抜きん出たってもんよ!今日は授業サボっちゃうもんね!じゃーな!」
相変わらずの単純バカっぷりを見せつけて、嵐のように去っていった。
ようやく教室に入ると、そこには人をダメにするソファが並んでいる。
鋭い視線で射抜いてくるライゼル、自分のモフモフした尻尾を抱いて幸せそうに寝ているルクレシア、そしてニヤニヤと粘りつくような視線を送ってくるネクロス。
他のメンバーはまだ来ていない。
「お、おはよーございまーす……」
凛愛は小声で挨拶しながら、心の中で毒を吐く。
(妖精ちゃんまだかな……ライゼルさん怖すぎ。ジジイはキモいし……あ、でもあの尻尾はいいなぁ……)
その時、外から「ぎぁあっ!!」という凄まじい断末魔が響き渡った。
「えっ!?」
慌てて窓の外を見ると、そこにはつま先だけを地面から出して、逆さまに埋まった生徒がピクピクと震えている。
そのすぐ側には、手のひらサイズのキラキラした浮遊物体が浮いていた。
「おやめ下さい!ティアリスさまぁ〜!!」
周りの生徒たちが必死に懇願しているけれど、その中心にいる妖精はぷいっと顔を背けた。
「今日、妾、機嫌悪いからっ!」
「うっそ……妖精ちゃんだ……ガチでヤバいじゃん……今日、課外授業担当だよね……マジか……」
絶句する凛愛の横で、チュンペーが追い打ちをかけるように告げる。
『言っただろう、妖精族は感情の起伏が激しいからな……あれは、ハズレの日だな』
今朝までのウキウキ気分は、一瞬で霧散していった。
現在のステータス
・名前: 星凛愛
・状態:
・勇者の評判(不名誉): トンデモ変態最強勇者という、属性過多な二つ名が魔界に定着中。
・期待値急降下: 癒やし系だと思っていたティアリスの凶暴性を目の当たりにして、血の気が引いている。
・対人恐怖(再発): ライゼルの視線とティアリスの機嫌に、ダブルで胃を痛めている。
・相棒:
・予言雀: 忠告を無視したバカ人間に対し、少しだけ「見たことか」という優越感に浸っている。
・警戒継続: 妖精の魔力特性を見極めようと、髪の中から鋭い視線を送る。
・聖光剣アルスカイゼリオン:
・落胆: 相手が「妾」呼びのロリ妖精と知り、少し好みの対象から外れたのか静か。
・周囲の状況:
・教室: ライゼルの殺気、ルクレシアの寝息、ネクロスのニヤつきが混ざり合うカオス空間。
・窓の外: 地面に突き刺さった生徒が、ティアリスの不機嫌の深さを物語っている。




