第85話:暑さ限界突破!焦熱の地獄で球遊びなんですけどぉ!
ドラグリア・インフェルノの灼熱が、凛愛とチュンペーの体力を容赦なく削り取っていく。
「何だ!!オマエ!!もう死にそうじゃないか!」
グラディアスが咆哮を上げ、その巨大な手の中にマグマの塊を形成した。
「一球目がトドメになっちまうなぁ!いくぞー!!」
全力で放たれた一撃が、空気を焼きながら迫りくる中、メモリエルが無機質な声で警告を響かせる。
「このままでは、消し炭の出来上がりです」
「マジ……ダルすぎる……あたし、終わった……」
意識が遠のき、視界が歪んでいく。
しかし、その絶望に呼応するように、聖光剣アルスカイゼリオンが異常なまでの光を放ち始めた。
「はぁ……!最高のシチュエーションじゃな!ワシの力を最大限に発揮するチャンスであるぞ!!勇者よ!」
「ウザぁ……あんた達だけで、やってて……暑過ぎる……マジムリ」
もはや言葉を発するのも困難な状況で、凛愛の髪の中から、虫の息となったチュンペーが必死に叫ぶ。
「貴様……の、覚悟は…その、程度か……人界が、貴様の仲間が……戦争に巻き込まれるぞ!」
その言葉が、熱気にやられていた凛愛の脳を直接揺さぶった。
脳裏に浮かぶのは、大切な仲間たちの顔。
「そう……だ、あたしがヤらなきゃ……トップとんなきゃ!」
震える手で聖光剣を握りしめた。
限界の極限状態、魔力19の全てを剣へと流し込む。
「……クソッタレえぇぇえ!!エロ剣!ブチかませえぇっ!!」
魔力感知がマグマ球の最も不安定な揺らぎを捉え、素早さ18の反射神経が最速の軌道を描き出す。
逃走の極意を攻撃の受け流しへと応用し、凛愛は死力を尽くして剣を振り抜きました。
ズガァァァァァン!!
「うっ…!」
衝突の衝撃が腕を伝わり、骨を軋ませる。
しかし、聖光剣の放つ白熱の閃光がマグマ球を真っ二つに裂き、グラディアスの足元にある溶岩湖へと叩きつけた。
「……はぁ、はぁ、はぁ……やった………!」
「……バ、バカ人間……今の……一撃で、全部……出し切った様だな……」
髪の中のチュンペーが、熱気で震えながらも凛愛の限界を見透かしていた。
しかし、グラディアスは止まらない。
自身の投球を弾き飛ばされたことに、さらなる興奮と悦びを見出し、顔を紅潮させて叫ぶ。
「やるじゃないか!!まさか今のを弾くとはな!ならば次は二球、同時変化球で行くぞぉ!!」
絶望の二撃目が、休む間もなく灼熱の掌で泥遊びの様に生成されていく。
一球目のマグマ球を弾き飛ばした代償は、あまりにも大きかった。
聖光剣が放った衝撃の余波は、凛愛の力4という細腕を容赦なく打ち据え、骨がきしむような鈍い痛みが走る。
焦熱の空気が肺を焼き、滝のように流れる汗が目に入って視界を奪う。
極度の疲労で膝が震え、剣を握る構えすら無様に歪んでいった。
「うぅ…痛ってぇ……次、ムリじゃん」
凛愛の両腕には、もはや感覚がほとんど残っていない。
髪の中でぐったりとしているチュンペーも、このままでは凛愛が壊れてしまうことを察していた。
その時、メモリエルの冷徹な警告が響き渡る。
「如何に魔族キラーの聖光剣と言えど、やはり扱う者の意思と精神が伴わない現状、真の力を引き出す事は不可能。次は、ワタシが守りますが、恐らく一度が限界でしょう」
普段はふざけた態度を崩さない聖光剣も、今の凛愛の惨状を見て、その声を低く沈ませた。
「確かに、勇者よ、そなたは魅力的じゃが、精神が伴っておらぬ……七大貴族相手には荷が重すぎたか」
グラディアスが放とうとしている次の一撃は、先ほどとは比較にならないほど膨大な魔力が渦巻いている。
グラディアスの両手に掲げられたマグマ球は、もはや一つの小惑星のような質量と熱量を持って膨れ上がっていた。
その眼光に映るのは、聖光剣を杖代わりにし、肩で息をするのがやっとだった。
「グハハハッ!どうやら、勇者を屠るのは、アザエルではなく、俺様の様だな!せめて全力で葬ってやろう!」
グラディアスの咆哮が大気をビリビリと震わせる。
凛愛は意識が遠のく中、ここまでの道のりを振り返っていた。
人界での冒険がどれほどイージーモードだったか、この「課外授業」が実質的な「決闘」であること、そして自分の甘さを痛感していた。
その混濁した意識の端に、一瞬だけセバスチャンデルセンの姿が浮かんだ。
彼は敵でも味方でもなく、ただ冷徹に中立を貫く姿勢で、この破滅を見つめていた。
グラディアスの叫んだ「全力」という言葉。
それは、メモリエルをもってしても防ぎきれるか怪しいほどの絶望的な密度を帯びていた。
(あたし、今日終わるかも……)
目の前で渦巻く巨大な赤黒い光を前に、凛愛の心に初めて「死」の一文字が現実味を帯びて突き刺さる。
魔力感知は、逃げ場が完全に消失したことを無慈悲に告げていた。
それでも、髪の中のチュンペーは、震える凛愛の頭皮を必死に掴み、消え入るような声で叫ぶ。
「諦めるな……バカ人間……」
グラディアスの両手から放たれた二つの巨大な灼熱が、逃げ場のない空間を赤黒く塗り潰しながら迫っている。
「課外授業で、これではな……つまらん!!さらばだ!勇者よ!!」
その咆哮と共に、メモリエルが凛愛の全魔力を注ぎ込んだ防壁を展開しました。
しかし、目前に迫る溶岩の質量は、物理的な法則すら捻じ伏せるほどの圧倒的な圧力を伴っています。
「申し訳ありません。この質量を防ぐ事は出来ません」
無機質なメモリエルの声が、最後通牒のように凛愛の脳内に響く。
展開されたバリアは、マグマの熱に触れた瞬間にガラス細工のように亀裂が入り、今にも粉々に砕け散ろうとしている。
「ありがと……モリエ、もう……腕が」
凛愛の指先から力が抜け、杖代わりにしていた聖光剣がカランと乾いた音を立てて岩肌に転がっていく。
汗で張り付いた前髪の奥で、魔力感知はもはや機能せず、ただ真っ赤な死のイメージだけを映し出してる。
「チュンペー、みんな……ごめんね」
脳裏をよぎるのは、人界で共に過ごしたフィオやミリナたちの笑い声。
そして、自分の髪の中で必死に生きようと震えている、元魔王の相棒のこと。
(もっと……みんなと、のんびりライフしたかったな……)
凛愛は静かに瞳を閉じた。
押し寄せる熱波が、彼女の肌を焼き、意識を真っ白な絶望へと引きずり込もうとしていた。
現在のステータス
・名前: 星凛愛
・状態:
・重度の熱中症寸前(メイク全崩れ): 焦熱の空気で肺を焼かれ、滝のような汗で視界も消失。
・精神的胃もたれ(グラディアスの汁だく筋肉による): 筋肉ダルマの「全力」宣言と咆哮に脳が震動中。
・生存本能ログアウト(マグマが飛んでくる恐怖): 魔力感知が「死」を映し出し、意識が真っ白な絶望へ。
・相棒:
・焦熱雀(茹で上がり寸前): 虫の息
・聖光剣アルスカイゼリオン:
・絶倫(熱気と汗に興奮中): 極限状態に大興奮していたが、主の限界を見て声を沈ませる。
・周囲の状況:
・グラディアス: 二球同時変化球を放ち、「さらばだ!」と勇者の終焉を確信。
・バリア(メモリエル): ガラス細工のように亀裂が入り、粉砕まで残りコンマ数秒。
・セバスチャンデルセン: 破滅の瞬間を、冷徹なまでに中立の姿勢で観測中。




