第84話:炎獄のブートキャンプ! 灼熱の地獄に、あたしの全人権がデリートなんですけどぉ!
黒翼城の謁見の間。
そこには、これまでにないほど冷え切った空気が漂っていた。
アザエルは玉座に深く背を預け、長い指でこめかみを押さえたまま、重いため息を吐き出す。
「リア、お前をここに呼んだ理由を失念するほどの大惨事だ」
魔導端末に映し出された脱衣動画。
そこに映るライゼルの屈辱に満ちた姿や、楽しそうにポージングを決めるグラディアスの姿を、アザエルは一瞥して再び目を伏せました。
「意図してやったのか、制御できていないのか。いずれにしろ、今のままでは私の相手は務まらん」
「……う、うぅ。ごめんなさい……でも、あれはエロ剣が勝手に……」
凛愛が消え入りそうな声で弁明しようとすると、その髪の中から、いつになく低い、ドスの効いた声が響きました。
「バカ人間、黙れ。お前があんなハレンチな真似をしたせいで、我の面目は丸潰れだ。かつての魔王である我が、変態露出狂の飼い主として魔界の歴史に名を刻むなど、あってはならぬことなのだ!」
チュンペーの言葉には、怒りを通り越した悲哀さえ混じっています。
「故に、お前には課外授業も受けてもらう……兄上、よろしいですね?」
アザエルの問いかけに、チュンペーは即座に、かつ厳粛に答えました。
「無論だ。このバカに、これ以上恥の上塗りをさせるわけにはいかぬ! 我直々に……いや、もはや我だけでは手が足りぬ。徹底的に鍛え直すがよい!」
「ちょ、勝手に話進めないでよ! あたし、これ以上人前に出るとかマジ無理だし! てか、課外授業って具体的に何するの……?」
不吉な予感に震える凛愛を、セバスチャンが静かに馬車へと促しました。
数時間後。
馬車のドアが開いた瞬間、凛愛の目に飛び込んできたのは、燃え盛る空と、煮えくり返る溶岩の海でした。
「到着しました。南方炎獄領域、ドラグリア・インフェルノです」
「ちょ……熱っ!? なにこの湿度、美肌設定とか一瞬でログアウトするんだけど!」
悲鳴を上げる凛愛の前に、影のジャージをこれ見よがしに弾き飛ばし、隆起した大胸筋をピクつかせたグラディアス・ドラグリアが仁王立ちで佇んでいた。
「待っていたぞ、リア! さあ、布切れという偽りの鎧を脱ぎ捨てろ! 灼熱のマグマこそが、真の強さを教えてくれる!」
「いやぁ〜!!帰りたぁぁぁい!! セバスさん、今すぐリターンして! あたしを魔王城の地下倉庫に引きこもらせてぇぇ!!」
逃げ場のない灼熱の地で、凛愛の「教育的指導」が幕を開けた。
「うわぁ……冗談、だよね? なにその、汁だく感……見てるだけで胃もたれ通り越して、胸焼けがマッハなんだけど……」
凛愛の視線の先には、文字通り全身から汗を滝のように噴き出させ、その飛沫で周囲の溶岩さえもジュウジュウと鳴らしているグラディアスの姿がありました。
ただでさえ灼熱のドラグリア・インフェルノ。
そこに立っているだけで、凛愛のギャルなメイクはドロドロに溶け出し、呼吸をするたびに肺が焼けるような熱気に襲われます。
「警告。体温が危険域に達しています。このままでは脳がオーバーヒートし、人格データが論理崩壊(強制ログアウト)する恐れがあります」
脳内で響くメモリエルの無機質な声が、さらに絶望感を煽ります。
ふらりと膝をつきそうになる凛愛。
しかし、その腰に帯びた聖光剣アルスカイゼリオンだけは、持ち主の窮地などどこ吹く風で、怪しく輝き始めました。
『……! 見ろ勇者よ、その汗ばんだ肌、荒い吐息……最高ではないか! この熱気、この密着感! 絆を深めるには最高の環境だ! さあ、もっと熱くなれ! 衣服など捨て去れぇい!』
「うぅ〜……るさいエロ剣! 黙ってて ……チュンペー、あんた大丈夫? なんか羽毛がシナシナになってるけど」
「……ふん、この程度の熱など、元魔王である我が、そよ風にすぎぬ……と言いたいところだが……」
髪の中で強がるチュンペーでしたが、その声にいつもの威厳はありません。
重厚な羽毛が仇となり、熱を逃がせずに完全に項垂れています。
そんな中、唯一元気いっぱいで全裸(影の衣着用)のグラディアスは、おもむろに近くのマグマ溜まりに太い腕を突っ込みました。
「ぬんっ!!」
気合一閃。
グラディアスがマグマを素手ですくい上げ、粘土細工のようにコネコネと捏ね始めます。
恐ろしいことに、彼の放つ魔圧によって高熱の液体が球体に成形されていきました。
「準備はいいか、リア! 語り合うに言葉はいらぬ! 魂と魂のぶつかり合い、マグマ・キャッチボール開始だぁあ!!」
「ちょ….ムリムリ……あたしの手が炭になる……ゲームオーバーどころか存在抹消……あっつぅ」
全力の投球フォームに入る筋肉ダルマを前に、凛愛の悲鳴が炎獄の空に響き渡りました。
現在のステータス
・名前: 星凛愛
・状態:
・重度の熱中症寸前(メイク全崩れ)
・精神的胃もたれ(グラディアスの汁だく筋肉による)
・生存本能ログアウト(マグマが飛んでくる恐怖)
・相棒:
・熱帯夜の雀(茹で上がり寸前)
・聖光剣アルスカイゼリオン:
・絶倫(熱気と汗に興奮中)
・周囲の状況:
・グラディアス:投球フォーム(時速160キロのマグマ球)




