第83話:聖剣解放(物理)!? 威光の使い道が斜め上すぎて、あたしの社会的人権がログアウトしました!
訓練場を飲み込む絶望的な魔圧。
セバスチャンデルセンとモルディーアの激突が、周囲の空間すら歪ませ始めていた。
「ひ、ひぃぃ……! 冗談じゃないって! 誰か、このカオスを止めてぇぇ!!」
凛愛は震える手で、腰の鞘に縋り付いた。
(ねぇ! この隙に、エロ剣! あんたを抜いたら、その『威光』とかでなんとかなんないの!? 勇者の剣でしょ!?)
藁にもすがる思いで心の中で叫ぶと、鞘の奥から聖光剣アルスカイゼリオンが、下卑た哄笑を上げた。
『ククク……よくぞ言った、勇者よ! よかろう、我が真の姿、その一部を解放してやる。魔を退け、邪を暴く「聖なる威光」を見せてやろうではないか!』
「いいから早くして! 出してぇぇ!!」
凛愛が半ば自棄っぱちで、その柄を力任せに引き抜いた。
刹那、訓練場が真っ白な閃光に包まれる。
「……眩しっ!? な、何これ、全画面ホワイトアウト!?」
眩い光の中、メモリエルが絶叫に近い警告を飛ばす。
「警告、その出力モードは『全事象の秘匿解除(強制露出)』です。聖なる光は……隠し事を一切許しません」
光が収まった直後、訓練場に訪れたのは、奇妙な静寂だった。
「……あ?」
凛愛が最初に見たのは、地面に膝をつき、呆然としているライゼルだった。
彼の誇り高い軍服は、ボタン一つ残らず「消滅」し、鍛え上げられた上半身が夕闇の中に虚しく晒されている。
「え……嘘」
横を見ると、ミラやヴァル=エリクス、さらには場外にいた野次馬たちまで、あらゆる魔族の装備が「パリンッ」とガラスのように砕け散っていた。
「……おい、人間。貴様、今、何をした……?」
ライゼルが、激情を通り越して真っ白になった顔で凛愛を仰ぎ見る。
周囲からは「服が……消えた!?」
「勇者は脱衣王だったのか!?」
「なんという破廉恥な光だ……!」という戦慄の声が次々と上がっていく。
「違う……! あたしじゃない! あたしはただ、この場を収めてって頼んだだけでぇぇ!!」
『ハッハッハ! 見ろ勇者よ! 隠し事のない、清々しい世界だ! これぞ聖なる威光! さあ、次はあの執事の燕尾服も……』
「やめろ変態剣!! 鞘に戻れぇぇ!!」
凛愛は顔を真っ赤にして剣を鞘に叩き込んだ。
だが、時すでに遅し。
「勇者=一瞬で広範囲の服を消し去る恐怖の露出魔」というレッテルが、魔界中のネットワークに刻み込まれた瞬間だった。
「グッハッハッハ! 脱ぎ捨てたか、人間! それがいい、戦いに余計な布切れなど邪魔なだけだ!」
彼は恥じらうどころか、むしろ「真の戦士」として認められたと勘違いし、爆笑しながらさらにテンションを上げた。
鍛え抜かれた岩のような肉体をこれ見よがしに誇示し、隆起した筋肉をピクピクと動かして「どうだ、俺の筋肉(装甲)の方が、服よりよっぽど見応えがあるだろう!」と、凛愛に向かってポージングを決め始める。
「ウィッヒッヒ! 面白い、実に面白い! 防御結界も魔法障壁も無視して『概念』としての衣服だけを剥ぎ取るとは……。これは聖なる力というより、極めて質の悪い呪いの類いじゃな」
老魔術師は、己の枯れ木のような体が露わになっても全く動じない。
むしろ、凛愛が引き抜いた「エロ剣」の術式を解明しようと、全裸(影の衣着用前)のまま、這いずるような動きで凛愛に近づき、執拗に剣を観察しようとしている。
「おい、小娘。もう一度抜いてみせい。今度はもっと近くで術の波形を観測させるのじゃあ!」
凛愛の髪の中で、クロウは翼で自分の目を覆いながら(指の隙間から見てますが)激しく鳴き騒ぎます。
『見ろ、あの筋肉ダルマのポージングを! ジジイの枯れた肌を! お前のせいで、私の高貴な視覚が、一生消えないトラウマという毒に侵されたぞ! この恥知らずめ!!』
と、全力で凛愛を罵倒し倒します。
あまりの地獄絵図に、凛愛の瞳からは光が消え、完全に魂が抜け落ちた「無」の表情になっていた。
「リア様、これ以上は教育に良くありません…失礼」
見かねたセバスチャンが、筋肉のポージングをキメるグラディアスの顔面に影の衣を叩きつけ、モルディーアを影の触手で優しく押し戻した。
「セバスさん……ありがとう……あたし、もう魔王城の地下牢でいい。そこが今のあたしの、唯一のシェルターだから……」
虚空を見つめて呟く凛愛を、セバスチャンデルセンは手際よく馬車へと放り込む。
馬車が走り出す間際、窓の外では「影のジャージ」を着せられたライゼルが、拳を震わせながらこちらを睨んでいたが、今の凛愛にはそれを気にする余裕すら残っていなかった。
訓練場を包んでいた閃光が収まると、そこには歴史に残るほどの「異様な光景」が広がっていた。
広範囲に及ぶ装備破壊。場外の野次馬たちまでもが「何が起きた!?」と自身の肌を隠してパニックに陥る中、中心に立つ者たちの反応は対照的だった。
「……っ、貴様……!」
ライゼルは、剥き出しになった上半身を屈辱に震わせ、顔を真っ赤にして凛愛を睨みつけていた。
彼は実力主義の叩き上げゆえに、こうした「不測の事態」への耐性が、悪い意味で人間並みだったのだ。
だが、その隣に立つブラドレイン兄妹は、次元が違った。
「あら……ふふ、驚きましたわ。まさか、一瞬でこれほど『身軽』にしてくださるなんて」
ミラは、衣服を完全に失った状態であるにもかかわらず、優雅に髪をかき上げ、女神のような微笑みを浮かべていた。恥じらう素振りなど微塵もない。
むしろ、剥き出しの白い肌が夕闇に発光しているようで、その場にいる全員が毒気に当てられたように見惚れてしまう。
「……なるほど。これが人界の『勇者』の歓迎か。面白い、衣服などという不純物がない方が、血の巡りまでよく見える」
兄のヴァル=エリクスもまた、彫刻のような肉体を堂々と晒し、まるで正装で立っているかのような威厳を放っていた。
(いや、なんで堂々としてんの!? 逆にこっちが恥ずかしくて死にそうなんですけどぉ!! 目のやり場に困るわ!!)
「すごく……いい!リアさん、君の評価を改めよう。君は、私たちが思う以上に『刺激的』だ」
全裸のまま優雅に一歩踏み出してくるヴァル=エリクス。
凛愛の精神状態は、すでにオーバーヒートで真っ赤だった。
「セバスさぁぁぁん!! 誰でもいいから、この露出狂の美男美女を止めてぇぇ!!」
「……やれやれ。少々、悪趣味な魔法をお使いになられましたね、リア様」
ようやく口を開いたセバスチャンデルセンが、呆れたように、けれど迅速に指を鳴らした。
「『影の衣』」
セバスチャンの足元から伸びた影が、触手のように訓練場全体に広がり、衣服を失った者たちを黒い霧で包み込む。それは一時的な「黒塗りの服」となり、ようやく最低限のモラルが現場に戻ってきた。
「アザエル様がお待ちです……これ以上の醜態は、主の耳に入れるまでもないでしょう」
セバスチャンが眼鏡を光らせて周囲を圧すと、流石のブラドレイン兄妹も、そして殺気立っていたライゼルも、それ以上の追撃を断念せざるを得なかった。
「……あ、あたし。もう、一生ここに来たくない……」
魂が口から出かかった状態で、凛愛はセバスチャンに引きずられるようにして、待機していた漆黒の馬車へと回収された。
訓練場の外では「勇者は服を消し去る淫らな魔王」「美の兄妹は全裸でも美しかった」という、最悪のトレンドが魔界全土を駆け巡ろうとしていた。
現在のステータス
• 名前:星凛愛
• 状態:賢者タイム(無の境地)
• 状況:
• グラディアス:筋肉への自信が深まった。
• モルディーア:凛愛を「新種の変態魔導具」としてマーク。
• チュンペー:凛愛への呼び名が「バカ人間」から「変態バカ人間」に格下げ。
• 精神状態:明日から、魔界の歴史の教科書に『露出勇者』として載る自分の姿が視える。……辞めたい。切実に。




