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第81話 : いい匂いの美少女に誘われた!? ちょ、これ放課後のガールズトーク来ちゃった感じ?

 実戦魔導術が終わり、凛愛のライフはもうゼロを通り越してマイナス。


 床に敷かれた豪華な絨毯に突っ伏したまま、指一本動かす気力も残ってない。


(無理……マジで魔界のガチ勢、引くんですけどぉ……)


 チラッと視線を上げると、冥王クラスの面々は平然とした顔で片付けをしていた。


「あんなに魔法ぶっ放してたのに、汗一つかいてないとか、人間辞めすぎでしょ〜……あ、人間じゃなかったわ……はぁ、特に、あのジジイ……あんなに杖振り回して暴れてたのに、呼吸一つ乱れてないとか、ゾンビかよ?」


 魔族の別次元な身体能力に何も敵わない、凛愛の前途は暗黒の闇に包まれていた。


「……はぁ、帰りたい。お家に帰ってポテチ食べながらゲームしたい……」


 死体のように床と同化していると、ふわりととてつもなく良い香りが鼻先を掠めた。


(……え、なにこの匂い。高級ブランドの香水? それとも、お花の精霊さん的な……?)


 あまりに心地よい香りに、凛愛は無意識に目を閉じて、その香りを愉しんでいた。

 トランス状態になりそうな心地よさ。


「リアさん? ちょっと良いかしら?」


 耳元で、鈴を転がすような甘い声が聞こえる。


「リアさん?」


 ゆっくり目を開けると、そこにはブラドレイン家の令嬢、ミラが屈み込んで凛愛を覗き込んでいた。

 至近距離で見るその美貌、マジでレベチだった。


「あ、え、あ……ミラさん……!」


 凛愛が慌てて上半身を起こすと、彼女は扇子で口元を隠しながら、妖艶に微笑んだ。


「お疲れのようですわね……うふふ、少し、お話ししたくて。この後、お時間はありますかしら?」


(えっ!? なに、放課後の女子トークのお誘い!? キャバ嬢……じゃなくて、魔界の美女とお茶とか、急に乙女ゲー始まった?)


 でも、ミラさんの瞳の奥が、ほんの少しだけ怪しく光った気がした。


 隣で見守るお兄様のヴァル=エリクスも、優雅に微笑みながらこっちを見ている。


『チチッ! バカ人間、鼻の下を伸ばすな。吸血族が「お話し」など、獲物を料理する前の下調べに決まっているだろう!』


 チュンペーの警告が脳内に響くが、ミラの放つ「良い女」のオーラと香りに、凛愛の警戒心はトロトロに溶けかかっていた。


 とてつもなく良い香りが鼻をくすぐって、凛愛は無意識にうっとりしていた。


「リアさん? その指先の装飾……とっても素敵ですわ。魔界の宝石とも、漆術とも違う……もしよろしければ、近くで見せてくださらない?」


「え、あ、はい……! これ、人界で今一番キてるデコネイルなんです……どうぞ」


 美少女からの、まさかのファッションチェック!

 凛愛は嬉しい反面、人見知りを発動させつつも、プルプル震える右手をミラに差し出した。

 ミラは、冷たくて滑らかな指先で凛愛の手首をそっと支える。


(うわ、肌質が陶器じゃん……指先が細くて綺麗……これ、マジで女子力が高い……!)


 感動していると、ミラは凛愛の爪に顔を近づけ、宝石を見るような目で見つめた。


「まあ……この細工の細かさ、そしてこの瑞々しい輝き。我が家の一族も美には拘りがありますけれど、これほど独創的な『光』の使い方は初めて見ますわ」


「そう……でしょ! これ、ライトで固めるのがコツで……」


「……ふむ。確かに。妹が夢中になるのも頷ける」


「へ?」


 不意に、頭上から低い美声が降ってきた。

 いつの間にか兄のヴァル=エリクスさんが背後に立っていて、ミラさんの手に重なるようにして、あたしの手首を掴んだのだ。


(えっ、ちょっ……! 兄妹で、あたしの手、挟んでる!? 何この状況、超至近距離でイケメンと美女に囲まれてるんですけどぉ!!)


 あまりの距離の近さに、凛愛の心拍数は急上昇。

 乙女ゲーならここでスチルが入る名シーン。

 ……だったはずなのに。


「……ミラ。このネイルに込められた『魔力』、気づいたかい?」


「ええ、お兄様。ただの装飾ではなく、彼女自身の聖なる魔力が、この小さな宝石の中に凝縮されていますわ」


 ヴァル=エリクスは、凛愛の手首をゆっくりと自分の口元へ引き寄せた。

 鼻先が、凛愛の脈打つ手首に触れる。


「……ふむ。実に芳醇な香りだ。まるで、春の朝の光をそのまま搾り取ったような……リアさん、君の魔力は、さぞかし『甘い』のだろうね?」


(……は? 今、甘いって言った?)


 ヴァル=エリクスの瞳が、スッと深紅に輝いた。

 その犬歯が、唇の間からキラリと鋭く覗く。


「一口、味見をさせてもらっても構わないかな? ……君という『人間』を、深く知るために」


(…………は、はあぁぁ!?!?)


 凛愛の脳内で、逆ハーレムのアラートが「食糧警報」に切り替わった。

 この兄妹は凛愛を美味しそうと言っているのだ。


「ちょ、ちょっと! ヴァル=エリクスさん!? 顔、近すぎ! 噛む気!? 噛む気でしょこれ!!」


 あたしが必死に腕を引こうとしても、力:4のあたしじゃ、吸血貴族の優雅な拘束はびくともしない。

 その時、腰の鞘にセットされたメモリエルから、冷静だけど緊迫したナビゲートが響いた。


「凛愛さん、警告します! 生体反応に異常あり! バイタル急上昇、および外部からの魔力干渉を検知しました。これは吸血族特有の『吸精ドレイン』の予備動作です! 直ちに2メートル以上の距離を確保してください!」


(モリエ! 警告はいいから物理的に助けてよ! 確保しろって言われても、手がガッチリホールドされてんの!!)


 メモリエルが脳内でアラートをガンガン鳴らす中、今度は聖光剣アルスカイゼリオンが、待ってましたとばかりにドスの利いた、でもニヤついた声で割り込んできた。


「……ククク、素晴らしい。実に素晴らしいぞ勇者! 美貌の兄妹に左右から詰められ、逃げ場を失い、あられもなく震えるその姿……!」


(はぁ!? エロ剣!? この状況で何言ってんの!?)


「見ろ、あの兄の熱い視線を! 妹の冷ややかな、だが好奇心に満ちた指先を! 勇者よ!今こそ、その身を委ね、吸血の悦びに目覚めるのだ! そら、もっと首筋を晒せ! 鎖骨を見せろ! それが我ら『魔を斬る剣』の……いや、私の栄養になるのだぁぁ!!ぐふふ」


「……お前、マジで一回折れてしまえぇぇ!! あたしのピンチをオカズにするな変態剣!!」


 あたしが虚空に向かって叫ぶと、ミラさんがクスリと可笑しそうに目を細めた。


「あら。誰と会話していらっしゃるの? ……でも、その頬の赤らみ、そして荒い呼吸……リアさん、あなた、恐怖よりも『高揚』を感じていらっしゃるのかしら?」


「違う! 違うから! これはただの酸欠と怒りだから!!」


 ヴァル=エリクスが、凛愛の手首に落とした鼻先を、ゆっくりとさらに上へ――二の腕のあたりへと滑らせてくる。


「……良い。この震え、そして混ざり合う光の魔力……リアさん、君はやはり、ただの人間ではないね。セリアの影かと思ったが、君自身も……なかなかに、刺激的だ」


(またセリア! もういいよその名前! っていうか、もうダメ……噛まれる……魔界に来て二日目で、あたしは献血センターの在庫になっちゃうんだ……!)


 牙があたしの肌を貫くかと思われた、その瞬間――。

 教室の扉が、またしても遠慮なく蹴破られた。


「おい、ブラドレイン兄妹。調子に乗って、私の『獲物』に手を出してくれるなよ?」


 その怒号と共に、空気が一気に凍りつく。

 そこに立っていたのは、不機嫌を絵に描いたような顔をした堕天族、ライゼルだった。


 現在のステータス

 ・名前:星凛愛ホシ・リア

 ・レベル:17

 ・力:4

 ・体力:1

 ・素早さ:18

 ・知力:12

 ・魔力:19

 ・運:10

 ・状態:吸血鬼兄妹にホールド中

 ・状況:

  メモリエル:延々と「離脱してください」と無慈悲な正論をループ中。

  聖光剣(エロ剣):「もっとやれ」とバックヤードから熱烈な応援セクハラを送信中。

  ライゼル:助けに来た……というよりは、獲物を横取りされた猛獣の顔で乱入。

 ・精神状態:もう誰でもいいから助けてぇぇ!! ってか、エロ剣はマジで後で溶鉱炉にぶち込むからね!!

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