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第80話 : 神椅子の子守唄!地獄のVIP席で、あたしは夢の世界へログアウトしたいんですけどぉ!

 ド真ん中の「地獄のVIP席」に腰を下ろした瞬間、凛愛は両隣から注がれる刺すような視線に身をすくませた。

 右に竜族の熱気、左に堕天族の冷気。


(……挟み撃ち、マジきっつ。テンション下がりすぎて、もう地の底まで埋まりそう……)


 もはや顔を上げる気力もなく、凛愛は深々とソファに身体を預けた。

 その瞬間だった。


(……えっ、なにこれ。ふわっふわなんですけどぉ!?)


 人界の高級家具店でも拝めないような、極上の魔獣の毛皮を使用した特製ソファ。

 それが凛愛の華奢な身体を、まるで雲のように優しく包み込んだ。

 魔界の猛者たちの圧力が、ソファのあまりの心地よさに中和されていく。


「ふぁ……あ……やぁば……気持ち良すぎて寝る……」


『こら! 起きろバカ人間! 敵陣のど真ん中で爆睡する奴があるか!』


 髪の中でチュンペーが必死に頭皮をつつくが、今の凛愛には心地よいリズムにしか聞こえない。

 極限の緊張状態からの、究極の座り心地。

 凛愛のまぶたは、重厚な城門のようにゆっくりと閉じられていく。


「……無理。魔王とか勇者とか、もう……放課後のあたしに任せた……」


「良い度胸だな人間。オレの前で無防備に寝るつもりか?」


 ライゼルの冷徹な声がすぐ耳元で響くが、凛愛はすでに夢の入り口。

 隣のグラディアスも、信じられないものを見る目で凛愛を見下ろしている。


「……グハハ! 大物なのか、ただのバカなのか……ヴァル先生、こいつもう寝やがったぞ!」


「ガッハッハ! 肝が据わってやがるぜリアちゃん! よし、寝る子は育つ! だが授業は始めるぞ!!」


 ヴァル先生の爆音のような声さえ、今の凛愛にとっては遠くで鳴るBGM。

 魔界の頂点、冥王クラスの初授業は、転校生の寝息と共に幕を開けた。


「……ん、あと五分……お迎えは夕方ってセバスさんが……」


 極上のソファで夢心地だった凛愛の耳元で、鼓膜を破壊せんばかりの爆音が響いた。


「さっそく実戦魔導術だぁ!実技・週4回な!いくぞぉぉ!! 準備運動だリアちゃん! 起きろッ!!」


「ひゃいっ!?!? な、なに、地震!?」


 ヴァル先生の怒号で飛び起きた凛愛は、そのままの勢いで小脇に抱えられ、宮殿のような教室から、これまたラスダンの闘技場にしか見えない訓練場へと連行された。


「さて! 内容は魔力を使った攻撃・防御・移動術の基礎訓練だ! 冥王クラスなら息をするようにこなせよ!」


 訓練が始まった瞬間、凛愛の視界は絶望に染まった。

 隣ではグラディアスが拳から溶岩を噴き出し、ティアリスが空間を歪めるような魔導を涼しい顔で放っている。


「……な、な、なにアレぇ……自然災害じゃん!あたしに、どーしろっていうのよ……」


「四の五の言わずに動けぇい!」


 ヴァル先生の鞭のようなしごきが始まる。


 だが、凛愛のステータスは「力:4」「体力:4」。ちょっとステップを踏んだだけで息が上がり、防御魔法を展開しようと踏ん張っただけで膝がガクガクと笑い始めた。


「ハァ……ハァ……無理、死ぬ、マジで心臓止まる……これ、週4とか、あたしの寿命、来週には尽きるんじゃない……?」


『情けないぞバカ人間! 敵の攻撃を避けろ! なぜ後ろにしか進まんのだ!』


「だって怖いんだもん! 逃げるのがあたしのジャスティスなの!!」


 必死すぎるあまり、攻撃も防御もそっちのけで「逃走の極意」が暴発。

 残像を残さんばかりの素早さで逃げ回る凛愛を見て、ヴァル先生が眉間に皺を寄せた。


「おいリアちゃん! お前、紙みたいに弱ぇな!! 筋肉が足りねぇんだよ筋肉がぁぁ!」


「筋肉とか、ギャルには不要なんですぅ……! 筋肉ついたら服のライン崩れるでしょおぉぉ!」


「口を動かす暇があったら魔力を練れぇッ!!」


 闘技場に響き渡る熱血教師の怒号。

 逃げ回る凛愛、それを冷ややかに見つめるライゼル、そして面白そうに眺めるブラドレイン兄妹。


 凛愛の魔界JKライフ、実技初日は「逃走成功(ただし体力切れでドロドロ)」という、何とも情けない結果で始まった。


 現在のステータス

 ・名前:星凛愛ホシ・リア

 ・レベル:17

 ・力:4

 ・体力:4

 ・素早さ:18

 ・知力:12

 ・魔力:19

 ・運:10

 ・スキル:逃走の極意(本能で発動)

 ・状態:実戦魔導術(基礎訓練)終了

 ・状況:先生に「紙」認定され、クラスメイトの失笑(と一部の呆れ)を買う。

 ・精神状態:体育、週4とか聞いてない。魔界って、実は脳筋パラダイスだったの……?

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