第78話:人間は敵か?最悪な空気にテンション逝っちゃったんですけどぉ!
「人間如きに名乗る名などない」
冷徹に言い放つライゼルの瞳には、隠そうともしない嫌悪が宿っていた。
凛愛は、その一言で最大級にテンションが下がった。
(……はい、出た。魔界版のテンプレいじめっ子キャラ? 挨拶くらいしても減るもんじゃないでしょ……マジ無理なんですけどぉ……)
ライゼルは凛愛を無視し、教室内で唯一対等と認めている相手――アザエルへと鋭い視線を向けた。
「アザエル! 何故だ? 憎き人間がこの高貴なる冥王クラスにいるなど、我慢ならん! 忘れたのか? かつて人間共がこの魔界で働いた狼藉の数々を!」
ライゼルの叫びには、歴史に裏打ちされた深い憎しみが混じっていた。
教室内を包む魔圧がさらに重くなり、凛愛は酸欠になりそうなほど息苦しさを感じる。
アザエルはソファに深く腰掛けたまま、静かに口を開いた。
「人界への最後の猶予だ。この人間が、我らに力を示せねば、人界への宣戦布告を正式に宣言すると言っただろう? ……それまでは、私の我儘に付き合ってくれ。ライゼル、君が人間に遅れをとることなど、万に一つも無いだろう?」
アザエルの冷徹ながらもどこか自分を庇うような言い方に、ライゼルは忌々しげに顔を歪めた。
「当然だ! ……ふん、仕方ない。少しの間、我慢してやる」
ライゼルが不機嫌そうに席へ戻ると、空気を換えるようにヴァル先生が凛愛の背中をガシガシと叩いた。
「リアちゃんよ、許してやってくれ! ライゼルはちょっとばかり気性が荒くてなぁ。だが腕は確かだぞ!」
「はぁ……絶対仲良くなれないわ、あんな不機嫌丸出しな人……あたし、もうホームシックなんですけど……」
げっそりとした表情で呟く凛愛に、髪の中のチュンペーが冷たく言い放つ。
『仲良しごっこをしに来たのではない。むしろ敵対された方が力も出しやすかろう? 貴様には聖光剣がある。舐められるよりは、牙を剥かせておく方が清々しいというものだ』
「……そんな戦う気満々なの、チュンペーだけだから。あたしは平和にログアウトしたいだけなの……」
最悪の第一印象。冷え切ったクラスの空気。
『因みにライゼルは我の遠縁に当たる。アザエル程ではないにしろ、実力は高いぞ。油断するなよ』
髪の中からチュンペーがさらりと爆弾発言を落とした。
「……知り合いかよぉ! しかも親戚!? ってか、あんな怖いのが遠縁とか、チュンペーの家系図マジでどうなってんの……」
凛愛が引きつった顔で小声で突っ込んでいると、ヴァル先生が仕切り直すように柏手を打った。
「はい、じゃ次ぃ!」
「じゃあ、次はボクが!」
静かな、しかし通る声で優雅に手を上げたのは、青白い血相をした一人の優男だった。
凛愛がその方向に目を向けると、そこだけスポットライトが当たっているかのような錯覚に陥る。
(え、待って。この空間といい、あの人のビジュアルといい……ここ、教室じゃなくてホストクラブ……?)
さっきまでの殺伐とした空気から一転、あまりに「それっぽい」容姿のイケメン登場に、凛愛のギャル脳がわずかに反応してテンションが上がる。
「ボクは七大貴族ブラドレイン家、次期当主。ヴァル=エリクス・ブラドレインさ。お見知り置きを、愛らしいお嬢さん」
ヴァル=エリクスは、まるで舞台俳優のような仕草で胸に手を当てると、凛愛に向けて完璧な角度でウィンクを飛ばした。
「……うわ、ウィンクとかガチ勢じゃん……魔界、意外とイケメンの層厚い系?」
「警告、騙されてはいけません! あの男からは濃密な吸血族の気配がします!」
腰のメモリエルが危機感を募らせて警告する。
「いや、でも顔面偏差値めっちゃ高いし……」
凛愛は、不謹慎にも少しだけ視覚的な癒やしを感じていた。
「今のが双子の兄で、私は妹のミラ=ルナシュタイン・ブラドレインですわ。お見知りおきくださいませ」
ヴァル=エリクスのすぐ隣、真っ赤なドレスのような制服を着こなした美少女が、扇子を優雅に広げて微笑んだ。
兄と同じく、透き通るような白い肌に、夜の闇を溶かしたような艶やかな黒髪。
それを見た凛愛は、一瞬で目を輝かせた。
(えっ! 今度はキャバ嬢おる……! 盛り髪じゃないけど、この圧倒的な『指名NO.1』感! なにこの兄妹、ビジュアルの暴力が過ぎるんですけどぉ……!)
「……うわぁ……あたし、この兄妹のビジュアル、好きかも……」
思わず本音が漏れる。
殺伐としたライゼルや、暑苦しいヴァル先生、重たすぎるアザエルに囲まれて精神を削られていた凛愛にとって、この「夜の街」の香りがする華やかな二人組は、ある種の見慣れた(?)安心感を与えていた。
『バカ人間! 見た目に惑わされるなと言っているだろう。ブラドレイン家は吸血貴族、甘い言葉で誘い込み、気づけば骨の髄まで吸い尽くされるのがオチだぞ』
チュンペーが頭の上で必死に警告するが、凛愛の耳には半分も届いていない。
「ミラ、あまり彼女を怖がらせてはいけないよ。彼女は特別枠の『お姫様』なんだから」
「あら、お兄様。私、ただご挨拶をしただけですわ……ねぇ、リアさん? その爪、後でゆっくり見せてくださるかしら? 私、そういう装飾には目がありませんの」
ミラが意味深に微笑みながら凛愛のネイルを指差す。
「え……あ、はい! 全然いいですよ! これ、人界で一番イケてるデザインなんで!」
人見知りを一瞬でかなぐり捨て、共通の趣味(?)を見出した凛愛のテンションは急上昇。
だが、教室の端で見守るアザエルの瞳は、相変わらず冷たく、そしてどこか悲しげに凛愛を見つめていた。
現在のステータス
・名前:星凛愛
・レベル:17
・力:4
・体力:4
・素早さ:18
・知力:12
• 魔力:19
• 運:10
・状態:自己紹介タイム継続中(一部と意気投合?)
・状況:ブラドレイン兄妹の華やかさに当てられ、一時的に恐怖を忘れる。
・精神状態:魔界にも話が合いそうな人がいて良かったぁ……。でも兄妹で吸血鬼って、設定盛りすぎでしょ!




