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第77話 : 宮殿教室とセリアの影 ― 映えとトラウマの自己紹介タイムでーす!

 小脇に抱えられたまま、教室の豪壮な扉が勢いよく開け放たれた。


「おはよう! 諸君! 今日も最高に熱い一日が始まるぞ!!」


 ヴァル先生の元気と熱気が爆発したような咆哮が、室内を震わせる。

 脇に挟まって白目を剥いていた凛愛は、自身のショボい魔力感知でさえ「ここは尋常ではない場所だ」と本能で理解させられていた。


 空気が重い。


 まるで深海の底にいるような、高密度の魔力が肌をピリピリと刺してくる。

 しかし、凛愛は現状に気づいて慌てた。

 抱えられた向きのせいで、生徒たちがいるであろう方向とは真逆、つまり担任のケツの方を向かされている。


「ちょ……ヴァル先生、そろそろ下ろして……マジで、視界が地獄なんですけどぉ……」


「あぁ。すまんすまん! 熱くなりすぎて忘れてたぜ!」


 イグニスは小脇に抱えていた凛愛を、軽々とアクロバティックな動作で横に下ろした。


「うぅえー……地面が回ってる……」


 フラつく凛愛の頭を、ヴァル先生は巨大な人差し指と親指でヒョイと支えて固定した。

 逃げ場を失った凛愛を無理やり前進させ、漢は教室の全員に向かって叫ぶ。


「皆も知っていると思うが、本日から、この冥王クラスに特別枠として転入する、星凛愛ちゃんだっ! 仲良くしてやってくれよな!」


 静まり返っている教室内。

 指一本で支えられたまま、凛愛がおそるおそる顔を上げると、そこには想像を絶する光景が広がっていた。


(……は? な、なんなん!? コレヤバ過ぎでしょ!!)


 心の中で叫ばずにはいられない。そこは教室という概念を完全に無視していた。


 貴族の宮殿で行われるパーティ会場かよ!? と突っ込みたくなるような豪華絢爛な空間。

 天井には巨大なシャンデリアが輝き、壁には精緻な彫刻。

 そして生徒たちが座っているのは質素な机などではなく、個々人の専用スペースとして配置された、高級感溢れる装飾テーブルとソファだった。


 人見知り全開の凛愛が、その圧倒的な「富」と「魔力」のオーラに呑まれそうになりながら視線を走らせると、同時に11人の生徒が優雅に座しているのが目に入った。


 彼らの放つ「選ばれし者」としての威圧感に、凛愛は再び白目を剥きそうになりながらも、固く目を瞑って震える唇を動かした。


「あ……あの……ほし、りあ……です……。あ、よ、よろしく、お願い、します……」


 蚊の鳴くような声。

 だが、静寂に包まれた教室では、その小さな声さえも異質なノイズのように響き渡った。


 自己紹介の一言だけで全MPを使い果たしたように、その場にヘタり込む凛愛。

 あまりの場違い感に、視線は自然と床の豪華な絨毯へと吸い寄せられていく。


「ん? リアちゃん、今なんか言ったか? 声が小さすぎて地熱に吸い込まれたぜ! まぁいい、じゃあ諸君も自己紹介いこうかぁ!」


 ヴァル先生が、俯いた凛愛の頭を大きな指でクイッと上に向かせる。


 視線の先、一際異彩を放つ小さな身体を浮かせ、透き通った蝶のような羽根をパタつかせた妖精が、鈴の鳴るような声で口を開いた。


「妾は、七大貴族ルミナリエ家、次期当主のティアリス・ルミナリエじゃ」


 それを見た瞬間、凛愛の瞳にパァァッと星が飛ぶ。

(か、かわいい! なにこれ、ガチの妖精!? てのひらサイズじゃん! 映えの塊なんですけどぉ……!)


 さっきまでの絶望が嘘のように、凛愛の「カワイイ物好き」な性質が顔を出す。だが、髪の中のチュンペーが釘を刺すように『チチッ!』と鳴いた。


『バカ人間、小さいからと侮るなよ? 妖精族は感情の起伏が激しく、一度機嫌を損ねれば嵐を呼ぶ種族だと勉強しただろう。見惚れている場合か!』


「あ、うん、分かってるって……でも、可愛すぎだろ……」


 凛愛が小声で悶えていると、ヴァル先生がガハハと笑いながら次を促す。


「はい、次!」


「グハハハ! 久しぶりだな、人間! 覚えてるか? 七大貴族ドラグリア家の次期当主、グラディアスだ!」


 爆音のような声と共に立ち上がったのは、灼熱の覇気を纏った竜族の男。


「あ、あ、あーっ! 溶岩の人……!」


「グハハハ〜! お前! あの時のビビり様は傑作だったぜ! 笑いを堪えるのに必死でな! いや、すまんかった! しかし、セリアにそっくりだな!」


 グラディアスが腹を抱えて笑い飛ばすと、凛愛は胃のあたりがギュッとなるような不快感に襲われた。


(……また、それ。……やっぱり、この魔界の奴らには、あたしがその『セリア』にしか見えないんだ……)


 昨日の試験会場でアザエルが見せた、あの動揺しきった顔。

 目の前のグラディアスも、当然のようにその名前を出す。

 自分が「星凛愛」としてではなく、過去の誰かの代わりとして見られている事実は、人見知りの凛愛にとっても、この上なく居心地が悪かった。


「……くっそ……バカにして……ガチで怖かったんだから……ね、チュンペー?」


 凛愛は震える手を隠すように、髪の中の相棒に同意を求めた。


『フン、我の本来の姿……雀でさえなければ、こんなザコを屠るなど造作もないわ! バカ人間に恥をかかせおって、身の程を知れトカゲめが……』


 チュンペーが怒りで暴れ、凛愛の髪をトサカのように逆立てる。


「あーもう、分かったから暴れないで! 髪、マジでボサボサになるからぁ!」


 人見知り全開だったはずの凛愛が、頭の上で騒ぐ雀を必死に抑え込もうとバタバタし始める。

 その様子を見ていた、窓際の席に座る冷徹な眼差しの男が不快そうに目を細めた。


「おい、次だ! ライゼル、お前も名乗れ!」


 ヴァル先生が促すと、堕天族の少年、ライゼル・ヴァルシェイドが音もなく立ち上がった。


 現在のステータス

 • 名前:星凛愛ホシ・リア

 • レベル:17

 • 力:4

 • 体力:4

 • 素早さ:18

 • 知力:12

 • 魔力:19

 • 運:10

 • 状態:自己紹介タイム継続中

 • 状況:グラディアスの無神経な言葉に、自分が「セリア」の影として見られている現実を痛感。

 • 精神状態:セリア、セリアって……あたしはあたしなんですけどぉ! ってか、髪型直させてよマジで

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