第76話:脇抱え搬送中!? 魔界のJKデビューが拉致から始まる件について!
校内に足を踏み入れれば、そこは教育施設というよりは、もはやラスダンの最深部。
魔力で脈動する壁や、重厚すぎる装飾が施された廊下を歩くたび、凛愛の「帰りたさ」は加速していく。
セバスチャンデルセンが、巨大な装飾が施された重厚な扉の前で立ち止まった。
「こちらが教員室でございます。ここにリア様を受け持たれる教師がおいでになられます」
「……どんなの出てくんだろ……っていうか、ドアの圧が強すぎて、もうここがボス部屋なんですけどぉ……」
異様な雰囲気が、凛愛の細い指先を躊躇わせる。人見知りと不安が限界を突破し、スクールバッグのストラップをぎゅっと握りしめた。
「失礼いたします」
セバスチャンデルセンが迷いなく扉に手をかける。
ゴゴゴゴ……!
まるで巨大な城門でも開いたかのような地響きを立てて、重厚な扉が開かれた。
その瞬間、部屋の中から爆風のような熱気が押し寄せ、凛愛の髪が激しくなびく。
「……っ、熱っ!? なに、空調バグってんの!?」
部屋の奥から、メラメラと暑苦しい熱血が目に見えて身体から染み出した漢が、デスクを叩いて立ち上がった。
「……うわ……」
凛愛は一瞬で、表情を凍りつかせた。
そこにいたのは、真っ赤なムキムキの身体から迸る熱気を隠そうともせず、あろうことか褌一枚で立つという、あまりにありえない姿の漢だった。
「お前が、特別枠の人間かぁ! よく来たなッ!!」
漢の咆哮で、室内の魔力導管が共鳴して震える。
「オレが冥王クラス担任、ヴァル・イグニスだ!! お前のその薄っぺらい根性、今日からオレが叩き直してやるからよぉぉ!!」
「……あ、あの……不審者……セバスさん、この学校、露出狂が先生やってるんですけど…魔界ケーサツ呼んだほうがいい感じですか……?」
凛愛は、引きつった笑いを浮かべたまま、絶望的な眼差しでセバスチャンの裾を掴んだ。
あまりの暑苦しさと、視覚へのダイレクトな暴力に、凛愛はついに限界を迎えて白目を剥いた。
『バカ者! 担任を見ただけで白目を剥く奴があるか!』
髪の中からチュンペーの鋭い喝が飛ぶ。
『魔界の教鞭を取る者は、みな個性の塊のような者たちだ! 人界の常識など通用せん、別物と心せよ!』
「……個性っていうか、これ、コンプラ案件……」
震える声で呟く凛愛に、腰の聖光剣がここぞとばかりに鞘の中で吼えた。
「勇者よ、安心せい! ワシがこの褌漢を屠ってやろうか? 抜かずとも、ワシの柄をグッと握るだけの簡単なお仕事だぞ!」
「戦いに来たのではありません」
メモリエルが冷静に、しかし困惑を隠しきれない声で制する。
「ワタシもこのようなケースは初ですが、学びに来ていることを忘れなきよう。魔界を脅かすはずの勇者と装備が、その魔界で学業に勤しむのですから……」
混沌を極める教員室で、セバスチャンデルセンだけが機械的なほど完璧な礼をした。
「では、リア様。私めはこれにて失礼いたします。夕刻にお迎えに上がりましょう」
「えっ、待って、セバスさん……! 置いていかないで……!」
凛愛が伸ばした手は、空を斬った。
気づけば、白目を剥いて硬直している凛愛の身体は、丸太のようなヴァル先生の腕にガシッと抱えられていた。
「よっしゃああ! 最高の返事だ、リアちゃん! そのやる気、オレが受け取ったぜ!!」
「ちょ、え、あっつ……!?」
「ガッハッハ! 冥王クラスの連中が待ってるぞ! 最高の初登校にしてやるからな!」
褌一枚の漢が、猛烈な熱気を撒き散らしながら廊下を爆走する。
凛愛の視界は、激しく上下する赤い筋肉と、高速で流れていく不気味な校内の景色で再びバグり始めた。
現在のステータス
• 名前:星凛愛
• レベル:17
• 力:4
• 体力:4
• 素早さ:18
• 知力:12
• 魔力:19
• 運:10
• 状態:担任による強制搬送中
• 状況:脇に抱えられたまま高速移動。人見知りが発動する暇もなく教室へ。
• 精神状態:無理無理無理! 脇の下とかマジで暑い! 誰か助けて、これ登校じゃなくて拉致なんですけどぉ……!




