第75話:魔族もビビる!悪魔の転入生なんですけどぉ!?
冥王寮に入寮した初日の夜。
あまりにホラーな建物の雰囲気に、一睡もできない気がしていた凛愛だったが、いざベッドに入れば持ち前の図太さが発動し、結局は爆睡。
翌朝、頭の上でチュンペーに容赦なく額を突かれ、ようやく意識を浮上させた。
「……んぅ……チュンペー、あと五分……ガチャ回したら、起きるから……」
『チチッ! チチチッ!!(いつまで寝ているバカ人間! さっさと起きぬか!)』
いよいよ、本日から大凶の学生となる。
魔界最高学府が始まって以来となる、初めての人間の入学だ。
凛愛が寮の入り口から外を覗き込むと、目と鼻の先にある学園の門へ向かって、登校する魔族たちがごった返していた。
角が生えた巨漢、翼を広げて空から降り立つ者、不気味な魔力を放つ死霊族。異様な姿をした面々がひしめき合う光景に、凛愛は中々外へ出ていけない。
「……ねぇ、無理。あんなの、完全に敵キャラのエンカウント率100パーセント地帯じゃん……あの中に、あたしみたいな一般人が混ざるとか、公開処刑でしょ……」
震える足で物陰に隠れる凛愛に、チュンペーが苛立ち、髪の中から叫ぶ。
『はよ行け! いつまでビビっている! 貴様には聖光剣とメモリエルの加護があるだろう!』
「そういう問題じゃないの! ダルいよぉ……知らない人ばっかだし、マジでテン下げだぁ……誰かあたしの代わりに、ログインボーナスだけ受け取ってきてよ……」
情けない声を漏らす凛愛に、腰の「エロ剣」こと聖光剣も、鞘の中でカタカタと震えながら催促してきた。
「勇者よ、堂々と参ろうぞ! 我らがいれば、下級の者など恐るるに足らず! 勝手に道を開けるであろう! いざ、戦場へ!」
「戦場って、戦いに行くんじゃ無いよ……初日からヤバいヤツじゃん!」
さらに、メモリエルも穏やかな声で背中を押す。
「大丈夫です、凛愛さん。わたしたちが守ります。あなたはただ、前を向いて歩いていればいいのですから」
「うん〜、そこら辺の安全面は心配してないんだけど……やっぱ、人見知りだから……あんな大勢の知らない魔族にジロジロ見られるとか、精神的なダメージがデカすぎるんですけどぉ……」
ぐずぐずと動こうとしない凛愛に、ついにチュンペーが堪忍袋の緒を切らした。
髪の毛をグイグイと引っ張り、むりやり外へ押し出そうとする。
『昨日の、一件で貴様の力は知れ渡っているはずだ! 試験会場にいた貴族達の、あの驚きようを見ただろう! もはや正体は隠せぬのだ、サッサと行くのだ!』
「いたたたっ! 分かった、分かったから引っ張らないで! 地毛! あたしの地毛が抜けるぅぅ!!」
無理やり寮の影から引きずり出された凛愛は、覚悟を決めるどころか、ひたすら俯いて視線を逸らしながら、魔族の波の中へと一歩を踏み出した。
いやいやながらも、凛愛は寮から一歩を踏み出した。
やはり、その出立ちは嫌でも目立つ。登校中の魔族たちの視線が一斉に突き刺さるが、近づいてくる者はいない。
それどころか、凛愛が歩く先にいる者たちは、波が引くようにスッと一定の距離を保って道を空けた。
腰に光る聖光剣。昨日の試験で見せたあの圧倒的な威光は、一夜にして学園中に知れ渡っていた。
「……おい、あれだろ? 昨日の試験でアザエル様と渡り合ったっていう人間……」
「喧嘩売ったら殺されるぞ……あの剣、一振りで高位魔族を消し飛ばすらしい……」
そんな物騒なヒソヒソ話が嫌でも耳に入ってくる。
「渡り合ってないし……いや、あたし前科持ちのヤンキー転入生かよ……更に浮いてるわぁ……」
凛愛が肩を窄めて呟くと、髪の中からチュンペーが満足げに鼻を鳴らした。
『無駄な諍いも無くて良い。スムーズに事が運ぶに越した事はないではないか。貴様の貧弱なステータスでは、絡まれた時点で詰みだからな』
聖光剣も、鞘の中で得意げに震えながら声を上げる。
「むふふっ! 勇者よ、ワシの威光にひれ伏す魔族どもの顔を見たか! 常に肌身離さずワシを握るが良いぞ! さすれば、このような有象無象など道端の石も同然よ!」
「はいはい、感謝してるよ……でも、目立ちたくないあたしからすれば、これ完全にバッドステータスなんだけど……」
凛愛のテンションの下り具合を、メモリエルが優しく、しかし心配そうに気遣う。
「凛愛さん、大丈夫ですよ。どんなに周りが怯えていても、わたしたちだけはあなたの味方ですから。……少し、顔色が青いのが気になりますが」
「……メンタルが削られてるだけだから、大丈夫……」
重い足取りで進むと、校門の前で背筋を伸ばしたセバスチャンデルセンが待っていた。
「お待ちしておりました、リア様。少々ご気分が優れぬようにお見受けしますが?」
『問題ない、ただの寝ぼけだ! サッサと中を案内せい、セバス!』
チュンペーが髪の中から勢いよく指示を飛ばす。
その元気すぎる様子に、凛愛は深いため息を吐いた。
「……いやいや……はぁ、チュンペーだけテンション上がってんね……あたしのこの、今すぐログインボーナスだけもらってログアウトしたい気持ち、少しは汲んでほしいんですけど……」
凛愛はどんよりとしたオーラを纏ったまま、セバスチャンの案内に従って「大凶」の校門をくぐった。
現在のステータス
• 名前:星凛愛
• レベル:17
• 力:4
• 体力:4
• 素早さ:18
• 知力:12
• 魔力:19
• 運:10
• 状態:大凶学院・校門通過
• 状況:周囲の魔族に「触れたら死ぬヤンキー」扱いされ、完全に浮いている。
• 精神状態:これ、友達できるどころか、話しかけられるだけで相手が気絶するやつじゃん……。




