第74話:魔界、魔改造されすぎ!これじゃ映えっていうかバグなんですけどぉ!
セバスチャンデルセンに連れられ、凛愛は大凶学院の敷地内を夜の闇の中で歩いていた。
ピンクの雪が静かに舞う中、セバスが足を止めたのは、学院の奥にある一棟の建物だった。
「こちらが、リア様がこれからお住まいになる寮でございます。『冥王寮』……七大貴族の子弟や、特別枠の生徒のみが利用できる最高級の施設です。」
凛愛は建物を上から下まで見上げて、素直に感想を漏らした。
「……うわ、立派……っていうか、完全に高級ホテルじゃん。でも、なんか窓が尖ってるし、屋根に角が生えてるし……完全に呪いの館バージョン2.0なんですけどぉ……」
セバスは感情の読めない顔で淡々と続けた。
「内部は魔導インフラが完備されております。温水、魔導暖房、魔力通信網、自動清掃機能……すべて整っております。ただし、アザエル様のご意向により、一部は昔ながらの魔界の雰囲気を残しておりますので……ご了承ください。」
凛愛が部屋に案内されると、そこは予想以上に広くて豪華だった。
天井が高く、黒と深紅を基調とした内装。
大きなベッド、魔導暖炉、魔導ランプが柔らかい光を灯している。
ただし、壁には不気味な仮面や古い肖像画が飾られ、部屋の隅には意味不明の石像が鎮座していた。
「……え、ベッドデカい……でも枕元に骸骨の置物置いてるのやめてほしいんですけど……魔導ランプは可愛いのに、なんか血の色っぽい光出てるし……これ、映えとかじゃなくて完全にホラーじゃん……」
チュンペーが髪の中から顔を出して、呆れたように言った。
『……我の知っていた魔界とは、随分と変わったものだな。これでは腑抜けが増えそうだ……』
エロ剣アルスカイゼリオンが鞘の中で嬉しそうに震えた。
『ふははは! ようやくまともな寝床じゃな、勇者よ。ワシもここでゆっくりと、おぬしの柔らかな体を……存分に堪能できる!』
「堪能するなー!! 悪代官エロ剣、寮に入った瞬間からスケベ発言始めないでよぉ!!」
メモリエルが冷静に分析を始める。
「この部屋の魔力循環は安定しています。セキュリティも高く、外部からの侵入は困難です……ただし、壁に刻まれた古代の呪文は、精神に微弱な影響を与える可能性があります。夜はあまり深く眠りすぎない方が良いでしょう。」
「微弱な影響って!? あたし、もう十分精神的にヤバいんですけどぉ!!寝る前に呪いかけられたらどうすんの!?」
凛愛はベッドに腰を下ろし、ぐったりと肩を落とした。
「……魔界に来て、突然高級寮に住むことになるなんて……しかも同居人が雀とスマホとエロ剣って、完全に訳わかんない共同生活なんですけど……明日から大凶……じゃなくて大吉学院に通うのか……あたし、本当にここでやっていけるのかな……」
ピンクの雪が窓の外を静かに舞う中、凛愛は自分の運命の変化に、ただ小さく息を吐くしかなかった。
チュンペーはそんな彼女の頭の上で、静かに目を細めた。
(……ようやくだ……)
冥王寮に入寮した初日の夜。
あまりにホラーな建物の雰囲気に、一睡もできない気がしていた凛愛だったが、いざベッドに入れば持ち前の図太さが発動し、結局は爆睡。
翌朝、頭の上でチュンペーに容赦なく額を突かれ、ようやく意識を浮上させた。
「……んぅ……チュンペー、あと五分……ガチャ回したら、起きるから……」
『チチッ! チチチッ!!(いつまで寝ているバカ人間! さっさと起きぬか!)』
いよいよ、本日から大凶の学生となる。
魔界最高学府が始まって以来となる、初めての人間の入学だ。
凛愛が寮の入り口から外を覗き込むと、目と鼻の先にある学園の門へ向かって、登校する魔族たちがごった返していた。
角が生えた巨漢、翼を広げて空から降り立つ者、不気味な魔力を放つ死霊族。異様な姿をした面々がひしめき合う光景に、凛愛は中々外へ出ていけない。
「……ねぇ、無理。あんなの、完全に敵キャラのエンカウント率100パーセント地帯じゃん……あの中に、あたしみたいな一般人が混ざるとか、公開処刑でしょ……」
震える足で物陰に隠れる凛愛に、チュンペーが苛立ち、髪の中から叫ぶ。
『はよ行け! いつまでビビっている! 貴様には聖光剣とメモリエルの加護があろう!』
「そういう問題じゃないの! ダリぃよぉ……知らない人ばっかだし、マジでテン下げだぁ……誰かあたしの代わりに、ログインボーナスだけ受け取ってきてよ……」
情けない声を漏らす凛愛に、腰の「エロ剣」こと聖光剣も、鞘の中でカタカタと震えながら催促してきた。
「勇者よ、堂々と参ろうぞ! 我らがいれば、下級の者など恐るるに足らず! 勝手に道を開けるであろう! いざ、戦場へ!」
「戦場とか言わないでよぉ……」
さらに、メモリエルも穏やかな声で背中を押す。
「大丈夫です。わたしたちが守ります。あなたは、前を向いて歩いていればいいのですから」
「うん〜、そこら辺の安全面は心配してないんだけど……やっぱ、人見知りだから……あんな大勢の知らない魔族にジロジロ見られるとか、精神的なダメージがデカすぎるんですけどぉ……」
ぐずぐずと動こうとしない凛愛に、ついにチュンペーが堪忍袋の緒を切らした。
髪の毛をグイグイと引っ張り、むりやり外へ押し出そうとする。
『昨日の、一件で貴様の力は知れ渡っているはずだ! 試験会場にいた貴族達の、あの驚きようを見ただろう! もはや正体は隠せぬのだ、サッサと行くのだ!』
「いたたたっ! 分かった、分かったから引っ張らないで! 地毛! あたしの地毛が抜けるぅぅ!!」
無理やり寮の影から引きずり出された凛愛は、覚悟を決めるどころか、ひたすら俯いて視線を逸らしながら、魔族の波の中へと一歩を踏み出した。
現在のステータス
• 名前:星凛愛
• レベル:17
• 力:4
• 体力:4
• 素早さ:18
• 知力:12
• 魔力:19
• 運:10
• 状態:大凶学院・登校開始(超絶人見知り発動中)
• 状況:加護は最強、中身は最弱。魔族の視線に耐えきれず、HP(精神)が削られ中。
• 精神状態:誰か透明人間になれるバフかけて……切実に……。




