第69話:追憶の居城、再会の序曲なんですけどぉ!
セバスチャンデルセンが指先をわずかに動かした瞬間、辺りを舞っていたピンクの雪が激しく渦を巻いた。
視界が桃色の旋律に飲み込まれ、次の瞬間、凛愛たちは全く別の場所に立っていた。
「……えっ、あ、あれ? ここ、どこ?」
凛愛が目を瞬かせると、そこには闇夜に溶け込むような、幻想的で落ち着いた雰囲気の巨大な城門がそびえ立っていた。
先ほどまでのポップなイメージを一新させる、非常に静かで厳かな空間。
城壁を飾る魔導灯の淡い光が、歴史の重みを感じさせる石造りの建物を優しく照らし出している。
「うわぁ……ここが、チュンペーが住んでたお城なんだね! めっちゃ雰囲気良いじゃん! センス最高かよぉ!」
凛愛は思わず声を弾ませた。
あの魔界ゲート付近の、呼吸困難になりそうな激ヤバ感は何だったのか。ここはまるで、最高級の隠れ家ホテルのような静謐さに満ちている。
『……フン。懐かしいな。ここは変わっていないようだが……』
チュンペーは凛愛の髪の中から飛び出すと、懐かしさに耐えかねたように、城門の装飾や高い尖塔の周りをパタパタと飛び回った。
かつて魔王として君臨し、この空を自在に舞っていた日々。
雀の姿であっても、この城に流れる空気だけは、彼の魂が覚えている故郷のものだった。
セバスチャンデルセンは、主人の帰還を喜ぶように目を細めていたが、やがて表情を引き締め、凛愛に向き直った。
「これから、アザエル様の元へ行くのですが……」
セバスの声が、夜の静寂に低く響く。
「勇者様。我が主人は、五百年前のあの日から、時が止まったままなのでございます。どうか……そのことをお含みおきください」
「時が止まったまま……? それって、まだ怒ってるってこと?」
知力12の凛愛は、セバスの言葉の裏にある深い悲しみを感じ取った。
誤解が生んだ絶望、そして裏切りという名の呪い。
アザエルは、兄を雀に変えたあの日から、一度も心を開いていないのかもしれない。
城門が重々しい音を立てて、ゆっくりと開き始める。
その奥から漏れてくるのは、冷たく、けれどどこか寂しげな魔力の気配。
『……行くぞ、バカ人間。アザエルの面を拝みに行く。我が帰ってきたのだと、教えてやらねばな』
チュンペーが凛愛の肩に降り立ち、鋭い眼差しで城の奥を見据える。
かつての兄弟が、五百年の時を超えて、今再び交わろうとしていた。
セバスチャンデルセンの背中に案内され、凛愛は城の深部へと続く廊下を歩いていた。
執事の憂いげな面持ちが、これから会う主人の精神状態を雄弁に物語っている。
知力12の凛愛は、五感だけでなく直感を通しても、その場所に漂う異質な気配を察知していた。
「なんなの、この感じ……もっとこう、バリバリに攻めてくるような怖い感じかと思ってたのに。全然違うんだけど……」
そこにあるのは、暴力的な威圧感ではない。
凍てつくような悲しさ、あるいはすべてを諦めたような寂しさが混ざり合った、静かな魔力の澱だった。
凛愛の髪の中で、チュンペーは一言も発さず黙っている。
かつて共にこの城で過ごした弟が、どのような絶望を経てこの魔力を纏うに至ったのか。それを思うと、さすがの元魔王も軽口を叩くことはできなかった。
「……前方、玉座の間と思われる空間より、膨大な魔力反応を確認」
メモリエルの無機質な声が、凛愛の脳内に響く。
「五百年前の記録にあるクロウヴァルド様の魔力波形とは異なります。ですが、現在の魔界全域を統べるに十分な、圧倒的な出力を維持。……極めて高密度の孤独な魔力です」
さらに、腰元の聖光剣アルスカイゼリオンも、鞘の中で低く唸るような共鳴を始めた。
『……ほう、認めざるを得んな。これほどまでに冷く、鋭い力を付けおって。のう、凛愛よ。これは一筋縄ではいかぬぞ。この剣気、ただの憎しみではこうはならぬ』
「えぇ……なに、エロ剣までマジメになっちゃて……ホント、笑えないレベルなんだけど」
凛愛は、知らず知らずのうちに自分の腕をさすっていた。
ピンクの雪が舞うポップな光景の先に待っていたのは、五百年という歳月をかけて、寂しさを力に変えてしまった一人の魔王の孤独。
セバスチャンデルセンが、巨大な装飾が施された扉の前で足を止める。
彼は一度だけ凛愛を振り返り、悲しげな微笑みを浮かべて、その重厚な扉に手をかけた。
扉の向こう側から、この世の終わりを凝縮したような、静謐な冷気が流れ込んでくる。
現在のステータス
• 名前:星凛愛
• レベル:17
• 力:4
• 体力:4
• 素早さ:18
• 知力:12
• 魔力:13
• 運:10
• スキル:魔力感知、逃走の極意
• 状態:玉座の間・目前
• 状況:アザエルの放つ、孤独で強大な魔力に圧倒されつつも扉の前へ。
• 精神状態:なんか……怒られるより、泣かれちゃう方が困るんですけどぉ……どう接すればいいの、これ。




