第68話:桜色の魔界!?、めっちゃ紳士的執事の出迎えなんですけどぉ!
重苦しい漆黒のゲートを潜り抜け、凛愛が身構えながら目を開けた先には、予想だにしない光景が広がっていた。
「さっむ!! ……えっ、なに、ここ。雪……?」
思わず首をすくめた凛愛の視界は、辺り一面、鮮やかなピンク色に染まっていた。
空からひらひらと舞い落ちてくるのは、白ではなく、透き通るような桃色の結晶。
「は? ピンクの……雪?え、魔界ってこんな感じ?」
凛愛の驚き以上に、髪の中の相棒は絶句していた。
チュンペーは身を乗り出し、プルプルと震えながら叫んだ。
『……なんだこれは! 我の知る魔界は……座標を間違えたか!?』
「間違えてないってば! モリエもここが魔界ゲートの先だって言ってるし!」
『おのれ……これのどこが魔界だ! まるでどこぞの軟弱な王女の庭園ではないか! 悪趣味にも程があるぞ!』
チュンペーは憤慨しているが、凛愛は不謹慎にも少しだけテンションが上がっていた。
「ちょっと、和んじゃったよ! ポップな魔界とかウェルカムなんですけど!」
「周辺の魔力波形に極めて不自然な規則性を検知。高度な魔導技術による環境干渉が疑われます」
メモリエルの報告に、チュンペーはさらに驚愕した。
『魔導だと……!? まさか、我のいない五百年の間に、魔界までも珍妙な技術に侵食されたというのか!?』
チュンペーが魔界の魔導化に戦慄し、凛愛が幻想的な光景にうっとりとしていた、その時だった。
目の前の空間がわずかに揺らぎ、音もなく、一人の人物が姿を現した。
そこには、仕立ての良い漆黒の燕尾服を纏い、頭部から立派な角を生やした老紳士が立っていた。
背筋をピンと伸ばした、完璧な執事そのものの佇まい。
『……バカ人間、下がれ! 貴様は…』
チュンペーが髪の中で鋭く威嚇するが、老紳士は優雅に一礼をした。
「……お待ちしておりました、リア様。そして……前当主様も」
『……』
チュンペーの鳴き声の意味を理解し、さらにその正体まで見抜いているかのような言葉。
魔界の入り口で待ち構えていたのは、血に飢えた魔物ではなく、一人の老執事だった。
凛愛は、目の前の完璧すぎる一礼に気圧されながらも、恐る恐る口を開いた。
「あ、あ、あなた……。どちら様ですか?」
老紳士は、凛愛の問いかけに微塵の乱れもない動作で顔を上げ、穏やかな微笑みを浮かべた。
「申し遅れました。私、シルフェリウス家当主アザエル様の使いで、お迎えにあがりました。セバス・チャンデルセンと申します」
その名を聞いた瞬間、凛愛の髪の中でチュンペーが激しく身震いし、震える声で呟いた。
『……やはりお前か、セバス。我がここに現れることを、知っていたのか?』
「左様でございます、クロウヴァルド様……その、お姿。おいたわしゅうございます」
チュンペーが雀の姿に変えられたという屈辱の事実を知っているのは、呪いを放ったアザエル本人と、このセバス・チャンデルセンだけ。
かつての忠臣であり、理解者でもあった老執事の言葉に、チュンペーは複雑な沈黙を返した。
セバスは、今度はじっと凛愛の瞳を見つめた。
その鋭い眼差しは、彼女の表面的な「ギャル」の姿ではなく、その奥にある本質を透かし見ようとしているかのようだった。
「そのお方が、貴方様の選ばれた人間でございますね? ……左様ですか。底の知れぬ力を感じます」
「えっ……あたし、そんなすごいの!? ラッキー、なんか強キャラっぽく見られてる?」
知力12の凛愛は、その言葉を額面通りに受け取り、少しだけ鼻を高くした。
だが、セバスの言う「底の知れぬ力」が、彼女の持つ「運」なのか、それとも人界に革命を起こした魔導技術の先にあるものなのか、それはまだ誰にも分からない。
セバスは再び深々と一礼し、ピンクの雪が舞う先……霧の向こう側にそびえる巨大な影を指し示した。
「では、ご案内致します。我が主人の元へ……」
『……フン。久しぶりの我が家か』
チュンペーは虚勢を張るように鳴いたが、その羽はどこか落ち着きなく震えていた。
懐かしくも、あまりに変わり果てた故郷。
そして、マヌケな誤解から袂を分かった弟アザエル。
その先には、500年の因縁に決着をつけるための、壮麗で冷徹な魔王の居城が待ち構えていた。
現在のステータス
• 名前:星凛愛
• レベル:17
• 力:4
• 体力:4
• 素早さ:18
• 知力:12
• 魔力:13
• 運:10
• スキル:魔力感知、逃走の極意
• 状態:魔界・シルフェリウス領移動中
• 状況:アザエルの執事セバス・チャンデルセンの案内で、主人の元へ。
• 精神状態:なんかおじいちゃんに褒められちゃった! あたし、魔界でも通用するタイプだった?




